106話 聞かされた音
いつの間にか
そう言って何もかもが
進んできたような気がする
進んできたからこそ
ここに至ったからこそ
そんなに時間が経ったとかを
考えるようになり始めて
過去を意識するようになっていった
この前の事だったのに
最近の事だったはずなのに
色々な事が重なってくると
ずっと前の事だった様に思えて
このまま忘れていくのではないかと
そう思える様な事ばかりになってきた
「前と比べて楽しすぎたのかなぁ」
シンは木の上で呟く
宗鳳学院で試合が行われる前日の休みに
宗鳳学院内の手入れされた木々の中でも
大きな木に朝早くから登って
太い枝に腰掛けて幹に体を預けながら
シンは1人で考えていた
髪の毛の中では
マンジュとトウカの蛇達が
気持ちよさそうに寝ている
昨日の夕方にデカいクーラーボックスが2つ
開法学院バレー部が泊まる宿泊施設に届いた
それぞれに1日目、2日目と紙が貼ってあり
1日目のクーラーボックスを開けると
マンジュや蛇達が
ピャー♬シャァー♬と
歓喜の雄叫びをあげ始めた
タレに浸った肉と和菓子
それに瓶には甘酒が入っており
アヤノの携帯に
全部がマンジュちゃん達用のだからと
メッセージが来ていた
マンジュと蛇達は嬉しそうに
クーラーボックスの中に入っているタッパーを
器用に咥えて運び出して
コッチは焼きで!
ソッチとアッチのは生で!と
タッパーをテキパキと並べ始める
「じゃあ、焼いたあげるよ」
宿泊施設に交渉して
調理場を貸してもらい
アヤノが焼き始めたのだが
そこで事件が起きた
アヤノが焼いた肉を皿に置いて
少し冷ましている時にアヤノが
ウズウズして待っているマンジュや蛇達に
肉を箸でつまんでアーンとしてあげた
ここまでは良かったのだけど
雛鳥みたいに、ピィー!シャー!と口を開けて
1番目!1番目!と
ハシャいでいるマンジュや蛇達を横目に
アヤノが箸でつまんでいた肉をパクッと食べて
皿に乗っていた焼いた肉もクナが
バクバクと食べてしまった
シンは紫尾や黄天に追いかけ回されて
汗だくになった事もあり
先にサリや後輩達数人とお風呂に入って
次の班にお風呂交代を告げている時に
後輩の1人が駆け込んで来て
急いで調理場に連れて行かれた
調理場では、アヤノとクナが倒れており
マンジュと蛇達が2人の上に乗って
尻尾をビシバシと頭や体に強く打ちつけていた
「はぁ〜もう
食べ物に関してはシャレが通じない
特に好物は絶対にふざけない方が良いって
教えたじゃないのよ
えっ?何?焼くの?
お風呂入ってきたから‥‥わかったわよ
わかった!わかったって!
アヤノとクナに任せた私が悪かったって」
マンジュと蛇達が
シンの首や腕に絡み付きながら
ピィー!ピィ!ピィー!シャァ!シャ!と
激しく鳴いて抗議してくるのを
シンは聞かされながら
寝ているアヤノとクナを後輩に任せて
調理場で肉を焼き始めた
「ハイハイ!どうせ未熟者ですのでって
わかってるわよ!アンタとアンタは
コッチとソッチを混ぜるんでしょ
アンタは生と焼きを挟んで
ハイハイ!どうぞ!」
焼き始めると個々の好みを把握してるのか
シンは色々とアレンジ加えて
マンジュや蛇達に焼いた肉や生肉を
次々と皿に出していき
小鉢を4個並べて
瓶に入っている甘酒を注いでいく
マンジュや蛇達は肉に噛みついて
美味しそうにウットリとしてから
満足気に肉を飲み込み始めたり
肉の合間に甘酒をゴクゴクと呑み始めた
肉を全部食べ終えた後にマンジュと蛇達は
ピィ〜♬、シャ〜♬と小躍りしながら
尻尾を高速でフリフリした後に
締めのどら焼きと饅頭を味わっていた
そうやって
マンジュや蛇達は
1日目のクーラーボックスに
入っていた分を食べて呑み尽くし
大満足した後に
2日目と書かれたクーラーボックスに
頬擦りをしていた
絶対に美味しいヤツだよね!
明日もあるやなんてホンマに幸せや!
何が入ってるんやろ?
絶対に良いもんやって!
アッカーン!楽しみや!
腹が!腹がはち切れてまう!
ちょいとだけでも覗きたいんやけども!
期待は裏切られた事あらへんしな!
よっしゃ!絶対にやったんで!と
ピッ!シャー!シャ!と鳴いていた
「何をやるってのよ
アンタ達は試合には出れないし
私は出れても、決勝だけしか出れないわよ」
シンが食器を洗いながら尋ねると
マンジュと蛇達は黙り込み
フイっと壁の方を向いてから
やったんで!と言った蛇を尻尾で叩いていた
昨日ので満足して寝こけてくれて良かったと
シンは木の上から
さっきまでいた木の下を見ていた
朝の散歩をしていたら
ナルとコリンが話しかけてきた
昨日は
みんなで謝っていたから言えなかったけど
私達が言い出して始まった事だった
本当にごめんなさい的な事を
色々と語りながら言われた
もう何にも思ってないし
私にも悪かった所があったからと言うと
これからは仲良くしようと言われた
即座に断った
驚いた顔でどうしてと言われた
何も答えなかったら
2人は納得したような顔になって
そうだねという言葉と
聞き取れないはずの言葉を言って
去って行った
木の上から見下ろすのをやめて
シンは空を見上げる
体の変化には気付いていた
おかしいとも思っていたけど
昔の人族にはね
これぐらいのは沢山いたのよと
リンのお婆様に言われて
周りも頷いていたから
そうなんだと納得していた
だけど
結界を破綻させた時に
審判団や運営の人達へ謝罪に行ったら
こんなのは史上初だとか
人族では初めてだとか
信じられないだとか
何度も言われた
昔の人族には
このぐらいできる人がいたとか
聞いた事がありますけどと言うと
呆気に取られた後に
我々も見たのは初めてだし
どの競技にも、どこの記録にも無いと笑われた
こんなチカラがあるなら
言ってくれれば良かったのに
ナルとコリンが言った
人族なら聞き取れないはずの
魔術を使う時の言語で言われた言葉
それと同じ言葉を全員から言われた
嘘をつかれたんだろうか
人族に限界はない
そう言われたような気がして
嬉しかったのに
未熟でヒヨッコで足らない所だらけだけど
頑張れば対等にやれるようになる
そう言われたような気がして
嬉しかったのに
過去にいた事があるはずだから
見えない目標だけどあるはずだから
頑張ってこれたけど
初めてだと言われると
嬉しさや喜びより先に
不安が押し寄せてくる
今は
どうなっているんだろうか
この先
どうなっていくんだろうか
なんで
あんな事を今になって言われたんだろうか
どうすれば
全員が納得する道に進めたのだろうか
色々な事が短い間に起きすぎたのか
考えていると全てが混じってしまって
めんどくさい事を考えている自覚はある
信じてる人に言われた事を
初めて会った人達に言われただけでも
疑ってしまう
そんな事を考えてる事すら
本当にめんどくさい
「めんどくさいなぁ‥‥私って、本当に」
シンが呟くと
前髪からマンジュが出てきて
シンの頬に顔を擦り付ける
「おはよう‥‥マンジュ」
ピッ!と鳴いて
おはようと言ってくるマンジュに
挨拶を返してから
ふと思いついたので聞いてみる
「マンジュってさ
私の体の変化の事で何か知らない?」
聞かれたマンジュは
ジッとシンを見ていた
が、すぐにマンジュが頭をシンの頬に
擦り付け始めると
蛇達がシンの髪から出てきて
おはようさん
えらい高い所に登ったもんやな
どないしたんや?
朝ご飯は?まだかいな?と
シャーと鳴き始めたので
シンは少し笑うと
「まぁいっか」
とだけ言って
シンは木から飛び降りて歩き出す
シンの髪から出ているマンジュや蛇達は
舌をチロチロと出しながら
シンが歩くリズムと少しズレて
ぎこちなく揺れていた




