圧倒的実力差
オレとヒロは、七階のA競技室に入ると、空いている観覧席に隣り合わせに座った。
既に、正面のスクリーンから向かって右側の競技スペースに佐山リョウが、向かって左側にある競技スペースにヒロの兄がスタンバっていた。
まだ照明を落としたままの競技室内の正面のスクリーンに、佐山リョウとヒロの兄のアバターが立体的に映し出された。
スクリーン上に大きく「リョウVSタケル」という文字が浮かび上がると、その下に開始までのカウントダウンを表す数字「60」が表示された。
そして、その数字が「0」になると同時に、「FIGHT!」という文字が映し出されて競技室内の照明が明るくなり、佐山リョウと松村タケルの試合が始まった。
オレが事前に頭に入れていたデータによると、佐山リョウも、オレの準々決勝の対戦相手であった小早川ケンと同じく棒術の使い手だ。
佐山リョウも、開始と同時に棒を使い始めた。
同じくオレが事前に頭に入れていたデータによると、ヒロの兄である松村タケルは、体術に卓越しており、また剣を得意としているので、佐山リョウはあえて体術勝負は挑まず、また剣対策として、はじめから得意な棒術での勝負を挑んできたのであろう。
リョウは、自らの間合いに飛び込まれないように注意をしながら、ヒロの兄の身体をめがけて、棒術を繰り出した。
ヒロの兄は、これに対して、棒を手にすることなく、素手のままで対応している。
リョウの棒による攻撃をことなげにかわし、簡単にリョウの間合いに飛び込んで、その顔面や身体に素手で鋭い突きを繰り出している。
さすがに、リョウもまともにヒットされないよう、棒でこれを防いでいるが、既に数発が軽くヒットしていいた。
そして、ヒロの兄は、一気に攻撃のスピードをアップすると、手に剣を出し、リョウの棒術をかいくぐって、鮮やかに一太刀をリョウの身体にヒットさせた。
それほど、強い打撃には見えなかったが、おそらくヒットする瞬間に高レベルの打撃力強化をかけたのであろう、リョウのHPゲージは一気にゼロになった。
その瞬間、スクリーンに大きく「タケル VICTORY!」の文字が映し出された。
あまりのあっけなさに、観覧席は静まったままで、歓声はなく、ただ拍手が鳴り響いた。
試合開始から、僅か三分しかたっていなかった。
佐山リョウの動きは、決して悪くはなかった。
小早川ケンと比べれば、その動きには、格段にキレがあった。
スピードも力強さも、申し分はなかった。
しかし、ヒロの兄は、これを数段上回っていた。
(化け物か。)
これが素直なオレの印象だった。
確かに動画でも、ヒロの兄は全ての試合で五分以内に勝利していたが、あまりにもあっさりと勝負がついていたため、そのすごさが今一つ実感できずにいた。
しかし、実際に目の当たりにすると、それはとてつもない強さだった。
これは、直接目にしてみないと分からない。
オレは、その強さに完全に圧倒されてしまっていた。
(こんな相手に、オレが勝てるわけがない。)
ミツキさんと戦いを前に、オレは戦意を消失しかけていた。




