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白の向こう側にある世界  作者: 吉田 みゆな
27/30

消えた席

翌朝。


「……なんか変じゃねえか?」


ギルドに入った瞬間、誠がそう言った。


「……ああ」


俺も同じ違和感を感じていた。


いつもと同じように人はいる。


酒を飲んでるやつも、騒いでるやつもいる。


だが――


「……静かだな」


音はあるのに、どこか薄い。


「なんだろうな」

誠が首を傾げる。


「昨日と同じはずなのに、なんか足りねえ感じがする」


「……」


俺は周囲を見渡す。


一つ一つ、確認するように。


「……あれ」


視線が止まる。


「どうした?」

誠が聞く。


「……あそこ」


テーブルの一つ。


椅子が一つ、空いている。


「……?」


誠も見る。


「別に普通じゃねえか?」

「……いや」


違う。


あそこは――


「……誰かいたよな」

俺は呟く。


「は?」


「いつも、あそこに……」


言葉が出ない。


思い出せない。


「……誰だ?」

誠が聞く。


「……」


答えられない。


「……おかしいな」

頭を押さえる。


確かに“いた”。


だが――


「……思い出せねえ」


その瞬間。


ドクン、と心臓が鳴る。


「……っ」


理解してしまった。


「……圭太?」

誠が不安そうに見る。


「……消えた」

小さく呟く。


「は?」


「消えたんだ」

俺はその席を見る。


「俺が……触れたから」


「……何言ってんだ」

誠が眉をひそめる。


「違うだろ、そんなのただの――」


「違わねえよ」


強く言ってしまった。


誠が黙る。


「……俺が思い出した」

声が震える。


「だから……別の何かが消えた」


「……」


誠は何も言わない。


ただ、少しだけ視線を逸らした。


「……確認する」

俺は歩き出す。


「おい、圭太」

誠が呼ぶ。


「……いいから」


俺は空いている席に近づく。


手を伸ばす。


椅子に触れる。


「……」


冷たい。


普通の椅子だ。


「……誰だよ」


何度考えても出てこない。


「……くそ」


その時だった。


『……けい……た……』


頭の奥に声が響く。


「……っ!」


視界の端が白くなる。


「やめろ……!」


ここは現実だ。


「今は来るな……!」


必死に押し返す。


「圭太!」

誠が肩を掴む。


「大丈夫か!?」


「……ああ」


白は消える。


「……今、来たのか?」

誠が聞く。


「……ああ」


短く答える。


「……最悪だな」

誠が呟く。


「現実でも来るのかよ」


「……」


俺はもう一度席を見る。


「……証拠がない」


誰も気にしていない。


誰も違和感を持っていない。


「……」


それが一番怖かった。


「なあ」

誠が低い声で言う。


「それ、本当に消えたのか?」


「……」

答えられない。


「ただお前が忘れてるだけじゃねえのか?」


「……違う」


即答だった。


「違うって分かる」


理由は分からない。


でも、確信がある。


「……ここに“穴”がある」


「穴?」

誠が聞く。


「埋まってるはずの場所が、空いてる」


「……」


誠はしばらく黙っていたが、


「……見てくる」

とだけ言った。


「どこに行くんだ」

「他のやつに聞いてみる」


「……無駄だ」

俺は首を振る。


「誰も覚えてない」


「それでもだ」

誠は言い切る。


「確認しねえと気持ち悪い」


そのまま人混みの中に入っていった。



しばらくして、誠が戻ってきた。


「……ダメだ」


顔が少し曇っている。


「誰に聞いても“最初からいない”って言う」


「……だろうな」


「……マジかよ」

誠が頭をかく。


「それってつまり……」


「……ああ」


言葉にするのが怖い。


だが――


「消えたってことだ」


「……」


二人の間に沈黙が落ちる。


ギルドの喧騒が、やけに遠く感じる。


「……なあ」

誠が小さく言う。


「これ、やばくねえか」


「……今さらだろ」


俺は苦笑する。


「最初からやばい」


「そうじゃなくて」

誠が真剣な顔で言う。


「お前が触るたびに消えるんだろ?」


「……」


否定できない。


「じゃあさ」


少しだけ声を落とす。


「次、誰が消えるんだよ」


「……」


言葉が出ない。


考えたくない。


「……やめろ」

俺は言う。


「そういうの」


「でも現実だろ」

誠は目を逸らさない。


「……」


逃げられない。


「……俺が止める」


小さく呟く。


「これ以上、消さない」


「……できんのか?」

誠が聞く。


「……分からねえ」


正直に答える。


「でも」


拳を握る。


「やるしかねえ」


誠はしばらく俺を見ていたが、


「……分かった」

とだけ言った。


「俺も止める」


「……ああ」


短く頷く。



もう一度、空いた席を見る。


「……誰だったんだよ」


名前も、顔も、何も分からない。


ただ――


「……いたんだよな」


それだけが、消えない。


白の向こう側にある世界。


そこに、確かに存在していたもの。


それが今――


「……消えてる」


静かに呟く。


そして初めて、はっきりと理解した。


これはただの力じゃない。


「……代償か」


俺は目を閉じる。


この力は――


何かを取り戻す代わりに、


何かを奪っている。

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