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白の向こう側にある世界  作者: 吉田 みゆな
25/30

引き出した記憶

翌日。


「調子どうだ?」

誠がパンをかじりながら聞いてくる。


「……悪くはない」

正直な感想だった。


頭の重さも、昨日ほどじゃない。


「じゃあいけるな」

誠はニヤッと笑う。


「何がだよ」

「応用だよ」


「……お前な」

ため息が出る。


だが――


「……少しだけならな」

自分でも驚くほど、冷静にそう言っていた。


誠は「よし」と満足そうに頷く。



ギルドに向かう途中、俺は考えていた。


“浅く触れる”


それはできた。


なら次は――


「引き出す」


ただ見るだけじゃなく、少しだけ“持ってくる”。


「……危険だな」

自分で言っていてそう思う。


「危険じゃないことなんてねえだろ」

誠があっさり言う。


「……まあな」


ギルドに着くと、いつも通りの賑わいだった。


だが、昨日までとは少し違う。


「視線、多いな」

誠が小声で言う。


「星5のせいだろ」

俺も小さく答える。


受付で依頼を確認する。


「今日はこれにするか」

誠が紙を指さす。


・荷物運搬補助(街外れ)


「戦闘は少なそうだな」

「ちょうどいい」


俺は頷いた。



街外れへ向かう道。


人通りは少なく、静かだ。


「ここら辺なら試せるな」

誠が周囲を見て言う。


「……やるのか」

「お前次第だ」


俺は立ち止まる。


深呼吸。


「……やる」


誠は少しだけ距離を取った。

「何かあったら止める」


「ああ」


目を閉じる。


白を探す。


“浅く触れる”


昨日と同じように。


『……』


すぐに反応がある。


「……早いな」


前よりも、近い。


「ここまで」


線を引く。


それ以上は行かない。


白が滲む。


影が見える。


「……来たな」


「圭太?」

誠の声。


「大丈夫だ」


俺は答える。


まだ、ここにいる。


『……けい……た……』


声が聞こえる。


「……」


今回は、逃げない。


「……見せろ」


小さく呟く。


意識を少しだけ押し込む。


深くは行かない。


“触れるだけ”


その瞬間――


視界が変わる。



風が吹いている。


白じゃない。


色がある。


「……ここは」


草原。


空は青い。


「……」


足元を見る。


自分じゃない。


誰かの視点。


「……これが」


記憶。


「圭太!」

声がする。


振り向く。


そこに――


少女がいた。


「……!」


息が止まる。


長い髪。


柔らかい表情。


「……高梨?」


違う。


だが、同じだ。


「どうしたの?」

少女が笑う。


「ぼーっとして」


「……」


言葉が出ない。


「行こ?」

手を差し出してくる。


その手を――


「……っ」


触れようとした瞬間。


「――戻れ!!」


誠の声。


視界が引き裂かれる。



「……はっ!」


現実に戻る。


息が荒い。


「おい、大丈夫か!?」

誠が肩を掴む。


「……ああ」

だが、手が震えている。


「今の……」


確かに見た。


「記憶……だった」


「見えたのか?」

誠が食い気味に聞く。


「……ああ」


空を見上げる。


「色があった」


白じゃない。


ちゃんとした世界。


「……女の子がいた」


「高梨か?」

「……似てた」


だが、違う。


「もっと……」


言葉を探す。


「……近い感じだった」


誠は黙って聞いている。


「……俺はあそこにいた」


自分じゃないのに、自分だった。


「……おかしいな」

思わず笑う。


「頭おかしくなりそうだ」


「元からだろ」

誠が軽く言う。


「うるせえ」


だが、その軽さに救われる。


「で、どうなんだ?」

誠が聞く。


「引き出せたのか?」


「……少しだけな」

俺は頷く。


「完全じゃない」


「でも成功だな」

誠はニヤッと笑う。


「……そうだな」


確かに、前進はしている。


だが――


「……危ない」


はっきり分かる。


あれは、危険だ。


「もう少しで戻れなくなってた」


「だろうな」

誠は真顔になる。


「だから俺がいる」


「……頼りにしてるよ」

素直に言う。


誠は少しだけ驚いた顔をしてから、

「任せとけ」

と笑った。



歩きながら、俺は考えていた。


「……記憶」


あの少女。


あの場所。


「……あれが元の世界か?」


それとも――


「……違うな」


もっと前。


もっと根本。


「圭太?」

誠が振り返る。


「……なんでもない」


だが、確信に近い感覚があった。


あれは――


「……俺が忘れてる世界だ」


小さく呟く。


白の向こう側にあるもの。


それはきっと――


まだ、全部は見えていない。

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