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カード
カードは、いつも左のポケットから出るようにしている。
薄い黒色のカードだった。
ノア。
今の俺の名前。
本当の名前ではない。
けれど、このカードに刻まれている以上、俺はノアとして扱われる。
「……行くか」
すると、空気が少しだけ震えた。
目の前の空間に、浮かび上がる。
大抵は、ひとつだけだ。
だが、その日は違った。
二つあった。
黒い鉄柵の向こうにそびえる館。
周囲を高い壁に囲まれた館。
その2つ浮かび上がった。
こういう時、俺はいつも思う。
俺は特別ではない。
俺みたいなのは他にもいる。
複数に呼ばれる者も、珍しくはない。
それでも。
同じ時間に、二つの館から呼ばれると、少し憂鬱になる。
カードの表面に、細い文字が浮かび上がる。
――呼出。
その下に、少し遅れて別の文字が浮かんだ。
――呼出。
どちらも、俺が行ける場所だ。
どちらも、俺をノアとして扱う場所だ。
そしてどちらも、俺がもう一方にも呼ばれていることを知っている。
「……面倒だな」
小さく呟いて、俺はカードを握り直した。




