第2話 いざギルドへ
扉を開けるとそこには懐かしい景色が広がっていた。
見慣れた職員、古風な内装、そしてこの臭い、何だか心地良く感じられる。
ギルドといえば難易度の高い《依頼》を受注するには実績やコネが必要になっていくる。だからギルド職員と親しくなるのは必須だ。俺から見れば、みんな顔見知りなんだが向こうからすれば全員が初対面。0からのスタートだが、何事も第一印象が大事だと俺は学んでいる。
「さて、どこから攻め落とそうか」
真っ先に目につくのは正面の受付カウンター。そうそれは、受付嬢の花形ポジション。優秀なのはもちろんのこと、ルックスのレベルも鬼高い。そこを担当しているのはアズアナ•セリーナ、俺の一推しの女の子だ。
「やあ、アズ。俺にうってつけの依頼を探してくれないかな」
「あまり見かけない顔ですね。あなた新人ですか? ギルドカードのご提示をお願いします」
あっそういえばこの人生ではまだ持ってないんだった。つい、いつもの癖で話しかけてしまった。
「ごめん、そういや初めてでまだ持ってなかったわ」
じぃ…… ──
「新たに発行しますので、ここに名前と年齢を書いてお待ち下さい」
上目遣いからのジト目。
やはりアズは可愛い。
艶があってサラサラの長い黒髪が清楚で可憐だ。おまけに透明感があってこのおしとやかな感じが実に素晴らしい。
俺が用紙に記入を終えると、紙を持って奥へと消えていった。
──俺はこの待ってる時間も好きだ。
辺りを見渡せば数多くの冒険者。準備をする者や待ち合わせをする者。はたまたパーティに勧誘している者。
「お待たせ致しました。こちらがギルドカードになります。そして初めてということでこの《ガリバー遺跡の調査》などはいかがでしょうか?」
ふむふむ……。
《ガリバー遺跡の調査》
依頼内容; 周辺の動物や植物の生態系の調査。地層や鉱物の採取撮影等……クリア報酬銀貨3枚(難易度⭐︎)
「さすがアズだ。これにするよ」
「かしこまりました。それでは受注手続きとしまして銅貨3枚の支払いをお願いいたします。それからこちらは地図と採取撮影用のビンとカメラになります」
これでついに俺の持ち金は金貨2枚のみ。
何をするにしても金が必要でどんどん出費で出ていってしまう。それにまだ報酬の少ない低ランクの依頼しか回してもらえないときた。
「──おいっ! いったいどうなってんだ?」
んんっ!?
俺は大きい声がする方に目を向けると、新人らしき受付嬢が人相の悪そうな冒険者と何だが言い争いをしているようだった。
「ですから規則ですので、これらの依頼内容しか受注できないのです」
「さっきから規則規則って、お前らを養ってやってるのはこの俺ゴルゴーン様だぞ!分かったらさっさと別の依頼もってこい」
騒然とした空気の中、周りの目はそこに集中していた。
「あのゴルゴーン様。この子の言う通りこちらの提示された依頼内容しかお受けできかねます」
この可愛い声の主はやはりアズアナだった。
新人のピンチに助け舟を出せる、可愛い上に優しいとか反則だ。
「ギルドカードを確認したところ実績がまだ三つ星でしたので、実績を積まれた方がよろしいかと」
「──ふふっ」
それを聞いた周囲の者達から笑いがおきていた。当然ゴルゴーンは黙ってはいなかった。
「受付嬢ごときが俺を馬鹿にしやがって。舐めんじゃねー」
頭に血が登ったゴルゴーンは拳を握り、アズアナ目掛けて腕を振り抜こうとしていた。
「おい、それはダメだろ」
俺はゴルゴーンの手首を掴み、目で威嚇した。
「っう」
どうやら俺のスキル【殺気】が発動したようだ。ゴルゴーンが怯んだ隙に手に力を込めて思いっ切り振り解いてやった。
「これ以上騒ぎを起こすと、俺だけじゃなく他の冒険者の奴らも黙っちゃいねーぜ」
「……っち──少しからかっただけだ。そんなに熱くなるなよ」
ゴルゴーンは周りの空気を察知したのか、案外あっさりと引き下がり少し拍子抜けした気分になった。
「──あの次からは余計な真似はしないでもらえますか?でも……ありがとうございました」
きゃわええぇ。
次からも余計な真似をさせていただきます。
業務上以外のことでアズと会話したのは意外にも初めてだったので、俺としたことがテンションが上がってしまったぜ。
とまあ、冗談はこのへんにして《依頼》に取り掛かろうとするか。
遺跡調査は初歩の初歩。なんてったって《難易度1つ星》だからだ。雑用のような仕事で言ってしまえば誰にでもこなせてしまう。故に報酬も安いって訳だ。
「──おい、そこの」
「ふぇ? 私ですか??」
目の前の少女は俺の急な呼びかけにビックリしたのか辺りをキョロキョロと見渡すが、他に誰も居ないので自分のことだとようやく自覚する。
「さっきから見ていると、ずっと断られていたようだったが」
「そーなんですよ。でもやっぱり1人で行くにはどうしても心細くて……てへっ」
この特徴的な銀色の耳と尻尾。俺はコイツに見覚えがあった。間違いない、俺の記憶が間違っていなかったら、確か勇者ライナスのとこにいた荷物持ちで馬系の獣人族の女だ、たぶん。いや、きっとそうだ、たぶん。
あの切れ者のライナス•ウォードのことだ。きっとこの女には何かあるに違いない、知らんけど。
「この後、ガリバー遺跡の調査に出発するんだが金貨1枚で荷物持ちをしてくれないか?」
「え??」
「ん? 足りなかったか?」
俺はさらにポケットからもう1枚金貨を取り出し、少女の顔前へと持っていく。
「いえ、そうじゃなくて。そんなに貰えるものなんだってビックリしちゃって」
荷物持ちの相場は1日銀貨1枚ってところだ。昼に出発してもガリバー遺跡だと明日には着いてしまうだろうから、多くともせいぜい銀貨3枚。
そんなことは俺だって知っている。物は試しようだ。それにカネにはあてがある。
「分かった。とりあえず金貨1枚でお願いできるか?」
「はい、喜んで! 実は初めての《依頼》なのでワクワクします」
「決まりだな」
本来は1人でも充分な依頼内容ではあるが、今回は気分的に2人でこなしたくなった。ただの気まぐれだ。
俺は少女に金貨を渡し、持っていたリュックを背負ってもらうことにした。
──キラーン
「見てください! 私、《職業向上》しました」
【名前】
ニーナ•ルドルフ
【職業】
[駆け出し冒険者]→[荷物持ち]
──マジか!?
リュックを背負った途端に職業向上とは。それだけ適正が高いってことなのか……?
この子の見た目の可憐さで麻痺しがちだったが、伊達に勇者パーティーにいてたってことなのか。
「おめでとう。ただこれからは自分の仕事の内容は他人には教えない方がいい。それはそうと出発するにも、まだまだ準備不足だ。買い出ししてから出発しよう」
俺はなけなしの金貨1枚で2人分の食料とキャンプ道具や寝具を買い揃えることにした。
俺は女子の手前、存分に見栄を張ってやった。




