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新学期早々、優衣は上級生に呼びだされた。
冷え冷えとした廊下……。雪景色が映る窓には、結露がつたっている。
「ねえ、工藤と付き合ってるの⁉︎」
「どうなってんのよ!」
2人の後ろには、工藤の彼女らしき女子生徒が立っている。
「えっ? ……ないです! 付き合ってません‼︎」
瑞希の証言もあり、すぐに誤解を解くことはできたのだが……。
その噂を流したのは沙也香だと囁かれ始め……、芽生えてしまった不信感。
沙也香もまた、あのスキー以来優衣を避けるようになっていた。
失われていく信頼、友情。
いつからか優衣は、沙也香に笑い掛けることも話し掛けることもできなくなっていた。
やがて、大地を覆っていた白い雪は解けていき、嵩の増した川がゴウゴウと音を立てて流れだす……。
放置状態だった校庭の花壇を、無言のまま手入れする優衣と沙也香。厳しい寒さから守られていたシートが外されると、生命力をたっぷりと蓄えた茶色い土が蘇る。
お互いの存在に戸惑う2人は、感動を分かち合うこともできない。
「おっ! 水捲係、復活?」
通り掛かった大谷が、優衣を茶化すように声を掛けてきた。
「春ですからね〜」
ホースから出る水を大谷の方に向けて、笑みを浮かべる優衣。
「おいっ、やめろよ! これからバイトあんのに、濡れたらどーすんだよ!」
警戒しながら接近し、大谷がホースを奪おうとする。
「あっ、こっち来たらやるよ!」
慌てて逃げる優衣。バタバタと奪い合う2人の中に、沙也香が入ってきた。
「大谷、ちょっといい?」
大谷が振り返ると、嬉しそうに歩み寄り何やらひそひそと話している。
(感じ悪ーい! なんかムカつく)
一瞬にして思いやりという優しい気持ちが消えていき、
「大谷ーっ、これからバイトでしょ? 一緒に行こ」
大谷と話し続ける沙也香に、挑戦的な態度をとってしまう。
「おー……?」
戸惑いながら頷く大谷。
「鞄取ってくるから、ちょっと待ってて」
もう、どうにも止まらない……。嫉妬の炎が、めらめらと燃え盛る。
暴走を続ける優衣は……。沙也香の目の前で、どうどうと大谷の隣りを歩いていた。
「美山と、なんかあった?」
不思議そうに、優衣を見る大谷。
「別にっ」
視線を逸らして、素っ気ない返事をする。
「あいつ、最近いつも1人だよな」
「えっ、そーお?」
足を速め、冷めた態度で聞き流す。
「早川優衣が相手してやんなきゃ、誰も相手にしないことくらいわわかってんだろ」
(はぁ〜っ? どういう意味! 私が悪いって言いたいのっ)
冷静という感情の防波堤が、音を立てて崩れていく……。
「大谷が居るじゃん!」
「はっ!」
「大谷が相手してあげればいーじゃん! 沙也香だって、それを1番に望んでるんだから」
「なんだよ、それ」
賑やかなランドセルの集団とすれ違いながら、無言のまま歩き続ける2人。
バイトに入ってからも、優衣は絶不調。
「もーっ、何、このレジ!」
何もかもが上手くいかない。
「優衣ちゃん、なんかあった?」
いつもと違う優衣を、店長も気遣う。
「えっ、なんでですか!?」
「ま、まぁ、女の子には色々と事情があるからな」
優衣の肩をポンポンと軽く叩いて、調理場に消えていく店長。
(はぁ〜っ、気持ち落ちるわ〜……)




