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『ところで、ユイ! イッタイどの辺で、ワタシが居ない事に気付いたんダイ!?』
「う〜んとね、駅に着く頃だったかな」
『へッ!? って事は、ワタシを置き去りにしてバスに乗っちゃったのカイ?』
「うん?」
『ワタシが寒さに震えながら下山してたアノ時、ユイは、アッタカ〜いバスの中に居たのカイ?』
「う、うん……」
『ヒドッ』
間近で睨むおじさんを、優衣は見て見ない振りをする。
(まずーい……、すぐに気付いたって言っとけばよかった。あ〜あ、怒っちゃってるよ)
おじさんをチラチラ見ながら、言い訳を考える……。
「あーっ!!」
優衣は、凄いことを思いだした。
「おじさん、そんなこと言っちゃっていいの!?」
『ハッ!?』
睨み合う2人……。
「凍り付く冬の雪山で、私が遭難しそうになりながらも必死におじさんを探してた時!」
『ヘッ?』
「おじさんは、あったか〜いヒーターの傍でスヤスヤと眠ってたんじゃないの?」
『イヤ、ネテナイ、ネテナイ……』
「絶対、寝てた!」
『アッ、ユイ! オカーサンだ』
「何それ? そうやってごまかすつもりでしょ!」
おじさんの視線の先に目をやると、真っ暗な山の中に、ほのかな灯りが見えていた。
「本当だ!」
その灯りは徐々に大きくなり、強く眩しいライトとなって、優衣達に近付いてくる……。
間違いなく母親の車である。
「うわっ、怖い!」
おじさんを肩に乗せたまま、車道に向かって歩きだす……。
やがて、優衣達の目の前に、恐ろしいくらいに眩しく輝く白い車が停まった。
(運転してるのは、鬼かもしれない……)
恐る恐る車に近付くと、
不気味な音をたてて、運転席の窓がゆっくりと開かれた。
「あっ、お母さん」
車窓から、憔悴しきった母親の顔が覗く。優衣達の姿に安心したのか、瞳に涙を浮かべる母親に、もう怒鳴りつける力はない。
「早く乗りなさい」
「はい」
遠慮がちに、後部座席に飛び込む優衣。
「怪我してない?」
「うん」
「妖精さんは無事なの?」
『オカーサン! 心配掛けてスミマセン……』
おじさんはマフラーから身を乗り出し、母親の顔を覗き込んだ。
(あっちゃーっ! 先に言われちゃったし)
「こちらこそ、すみませんでした」
母親が振り返って、申し訳なさそうに頭を下げる。
「お母さん、ごめんなさい」
おじさんに便乗するように、優衣も謝ってみたが、
「………………」
母親の返事はない。
(えっ、無視!???)
黙ったまま、ゆっくりと車を発進させる。
険悪な空気の中、ウトウトと眠りに誘われる優衣とおじさん。同じように、首を傾けて……。
そんな2人の姿をミラー越しに見る母親は、涙をこぼしながら微笑んでいる。
やがて、車は静かな街に入り……、ようやく暖かい家に到着した。
「優衣、着いたわよ」
「う〜ん……」
ぼんやりと窓の外に視線を向け、家の前に恐ろしい人影を発見。
腕を組んで仁王立ちしている父親の姿が、寝起きの優衣の目に飛び込んできた。
「お母さん、どうしよーっ!」
「さぁ〜? 自分で考えなさい」
突き離すように言い放つ母親は、いつもの顔色に戻っている。
「うわっ、意地悪!」
次なる試練に立ち向かう覚悟を決め、優衣はしぶしぶと車から降りた。
「ただいま〜」
母親の後ろに隠れるように、父親の前を通り過ぎようとする。
「何時だと思ってるんだっ!」
「ごめんなさい……」
立ち止まって、父親と向かい合う。
「……とにかく入りなさい」
「はい……」
玄関に入るとすぐに、2階に上がろうとしている陽太とすれ違った。
「陽太も、ずっと探してくれてたのよ」
母親が、靴を脱ぎながら説明する。
「陽太、ごめん」
「バーカ、姉ちゃんを心配してたんじゃねーよっ」
「くっ!」
(悔しいけど、今は言い返せない……)
言葉を呑んで、玄関を上がる。
「着替えたら、すぐに下りてきなさい」
これから始まる“お説教”を予告してから、父親はリビングに消えていった。
(まじでーっ! ちょー疲れてんですけどっ)
絶望的な気分で、2階へと上がっていく。
「うわぁ〜、あったかぁ〜い」
『ポッカポカ〜』
煌々と明かりが灯されたサンルームでは、クリスマスツリーが色鮮やかに煌めいている。
足元いっぱいに広がる赤いホットカーペットが、冷えきった2人を暖かく迎え入れてくれる。
「お母さん、あっためてくれてたんだね」
『オカーサンに、そんな余裕はなかったデショ』
「そう、だね……。えっ、陽太?」
『ウ〜ン……。オトーサンかもネ』
「えっ、それはないよ! あれ、そういえばおじさん、ずっとそこに居た?」
肩の上に乗っているおじさんを、不思議そうに見る。
『ズット居た……』
「やっぱり……、お父さんには見えないのかなぁ?」
『何でカナァ』
考え込む優衣に、睡魔が襲う……。
「優衣ーっ! お父さんが呼んでるわよーっ」
下から叫ぶ母親の声で、目が覚めた。
「もーっ、お母さんは頼りにならないんだから」
ブツブツとぼやきながら、階段を下りていく。
それから優衣はリビングに連行され……、
「なんで、携帯の電源を切るんだっ!」
「それは、色々あって……」
「きちんと説明しなさいっ!」
「えーっと……」
監禁状態は続き……、テーブルの上のごちそうにお腹が鳴る。
父親は、おじさんのことには一切触れず、成績や生活態度について深く攻めてきた。
釈放されたのは午前1時過ぎ……。
こうして、優衣16歳のクリスマスイヴは、長〜い1日の幕を閉じた。
「って、もうイヴ終わっちゃってるし……」




