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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第2章 黄金色の秋
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4〜前世〜

(えっ…、あの夢の続き⁉︎⁇)


優衣はまた、モノクロの世界を彷徨っていた。

辺りを見渡してみるが、あの美しい田園風景は広がっていない。

着物と軍服が、入り混じる景色。その中で……、バンザイ三唱をする人。笑顔でガッツポーズを決める人。抱き合って泣いている人。

人……、人……、人……。

そこは見渡す限り、大勢の人でごった返している。


夢の中に居る優衣は、その人混みを掻き分けながら必死に誰かを探している。

目の前には、重々しく迫り来る大きな黒い物体。それは蒸気をモクモクと吐き出し、今にも動き出そうとしている。


(あっ、これ図鑑で見たことあるっ。確か、蒸気機関車!)


全体的に黒い材木で覆われたそれは、図鑑に載っていたものより少し華奢に見える。けれども、存在感は圧倒的である。


「ここって、どこかの駅?」


困惑する優衣などお構いなしで、もう1人の優衣がその物体に近付いてく。連なる大きな窓1つ1つを覗き込んで、車内を確認している。

雑踏の中、必死に探し続けるが、その人はなかなか見つからない。

着物の乱れも気にせず、急ぎ足で、ただただ前を向いて歩く。

やがて、その視線の先に、全開にした窓から身を乗りだし、同じように誰かを探している男を見つけた。


「あっ、……」


そこに居る優衣が、その男に向かって走りだす。

前に見た夢で、優衣の主人だと教えられた人……。その人はやはり、


(なんで、大谷?)


大谷にそっくりなあの軍人が、走り寄る優衣を見つけ嬉しそうに微笑んでいる。信じられない光景に、目を見張る本当の優衣。

その軍人は、真っさらな軍服を凛々しく着こなし、何かが書かれたたすきを掛けている。これから戦地に旅立っていくということは一目瞭然である。


(えっ……、大谷、戦争に行っちゃうの!?)


動揺する優衣とはうらはらに、そこに居る優衣はいたって凛としていた。

大谷を見送る人々に、丁寧に挨拶をしている。


その時、汽笛が悲痛な声を挙げ、重苦しく鳴り響いた。


ゆっくりと走りだす汽車……。


(嘘っ! まじで行っちゃうの?)


優衣はただ1人、その速度に合わせて歩きだす……。

人混みを掻き分けながら……、大谷から目を離さずに……、ひたすら前へと進んでいく。


見つめ合う2人……。

次の瞬間、何かを言おうとした大谷は、言葉の代わりにそっと左手を差し出した。優衣はすぐに、その手を握る。


しっかりと繋がれた手と手……。

恋しそうに、優衣を見つめる大谷。



「大谷! 降りた方がいいよ!!」



思わず優衣は叫んでいた。



けれども、そこに居る優衣は、溢れそうになる涙を堪え、必死に笑顔を作っている。



汽車の速度が増していく……。



それでも優衣は、大谷の手を離さずに追い続ける。



更に、速度が増していく……。



汽車が無情に勢い付いたその時、



大谷は思いっきり身を乗り出し、最後に優衣の手を力強く握ると……、



名残惜しそうにその手を離した。



どちらの優衣も、もう自分の感情を抑えることができない。



そこに居る優衣が叫ぶ。



「ぜったい、絶対に帰ってきて下さーい!」



優衣が叫ぶ。



「大谷ーーーっ!!」



大谷は悲しそうに微笑みながら、大きく頷いた。

手を振る大谷が、小さくなっていく……。



優衣の頬を、涙がポロポロとつたう。



愛しい大谷が行ってしまった。



切ない笑顔を、優衣の胸に残して……。



深い悲しみに、押し潰されそうになる心。



あまりの辛さに体は震え、もうとても立ってはいられない。



優衣は、その場に泣き崩れた……。



行き交う人達が、優衣につまづく。



殺気だった人達が、優衣を蹴飛ばす。



けれども優衣は、



もう痛みすら感じられないほど、生きる希望を失っていた。



たった1人、暗闇に取り残されていた……。

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