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結局、大谷とは険悪なままバイトを終えた。
外はすっかり暗くなり、かなり冷え込んでいる。
「寒っ」
上着を羽織って、バス停に向かって歩きだす優衣。
混み合うバスに乗り、家に辿り着くと……。まずは、おじさんの居るサンルームに向かう。
「おじさん、ただいまーっ」
『オッ、ユイお帰りー』
おじさんは、サンルームいっぱいに並べてある植物の葉のホコリを、1枚1枚丁寧に拭き取っていた。
その様子を眺めながら、倒れ込むように寝転がる優衣。いつもと同じように、今日1日の出来事をおじさんに報告する。
「沙也香はね、絵を描くことが本当に好きなんだと思う」
『ヘェ〜、サヤカは絵を描くのカァ』
忙しそうに作業をしながらも、一応、話を聞いているおじさん。
真面目に相手をしなければ、優衣の機嫌が悪くなることを、しっかりと学習したからである。
「でもね、沙也香の親は、沙也香を医者にしたいみたい」
『サヤカは医者になるのカァ』
「子供の将来、勝手に決めちゃうなんて酷くない?」
『ウーン……』
作業を中断して、優衣の方へと歩いてくるおじさん。
『確か、サヤカの親御さんも医者ダッタヨネ?』
「うん」
返事をしながら起き上がり、
「パパが外科の先生で、ママは小児科の先生。おじさん、よく覚えてたね」
おじさんと向かい合って座る。
『ワタシの記憶力は、ずば抜けてるんダヨ』
「へぇー」
(自分で言ってるし……)
『オソラク、サヤカの親御さんは、医者が1番スバラシーと思ってるんだろうナァ』
「そんなの、勝手な思い込みじゃない! 自分の子供のこと、なんにもわかってないよ」
『マァ、親子とイッテモ、別々の人間ダカラネ。自分の気持ちや想いは、勇気を出して伝えようとしなケレバ、何も始まらないんじゃナイノカイ!?』
「まぁ、ね〜……。おじさんも、たまには妖精らしいこと言うんだね」
「ワタシは、正真正銘の妖精ダヨ」
「はいはい……。あっ、そうだ! おじさんも一緒に行こーよ。沙也香の絵、見たいでしょ」
『ウーン……』
盛り上がる優衣とは対照的に、おじさんは何か考え込んでいる。
「瑞希達に、おじさんを紹介したいし」
『ソレは嬉しいケレド……。ワタシは、あまり多くの人に会ってはイケナインダヨ』
「どうして? 会ったら、どうなっちゃうの」
『サァ〜? ソレガ妖精界の掟ダカラネ』
「おきて? ……わかった。もう誰にも言わない! 陽太にも言っておかなきゃ」
『デモ……、ユイの友達、見てみたいナァ』
「会わなければ平気なの?」
首を傾げるおじさん。
「こっそり隠して、連れて行くのはあり?」
『ナルホドーッ、それは面白い!』
優衣の提案に、おじさんも喜んで同意する。
「そうそう、それからね。今日は、朝っぱらから大谷に怒鳴られて、もーっ最悪だったんだよっ」
『オータニの話は、モーイイヨ』
「えっ!? だって、酷いんだよ」
嬉しそうに大谷の話をする優衣が、おじさんは気に入らないらしい。
『モー、聞きたくナイ』
「どうして?」
『飽きたカラ……』
「飽きるほど、話してないでしょ!」
『モー、寝る』
「えーっ、そんなこと言わないで聞いてよーっ! ちょームカついてんだから」
『オヤスミ……』
「ちょっと、おじさーん!」
『電気ケシテ』
「もーっ」
そしてその夜、優衣は再び、あの謎めいた夢を見ることとなる。




