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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第2章 黄金色の秋
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睡魔に誘われながら、物理の授業を終える。6時間目は、委員会活動。


「ねぇ、優衣……。私、瑞希に嫌われちゃったかなぁ?」


優しく揺れる秋桜に、やわらかい水のシャワーを浴びせながら、沙也香がポツリと呟いた。

朝の出来事をずっと引きずっていたらしく、かなり落ち込んでいる。


「そんなこと、ある訳ないじゃん」


蛇口の水を止めて、沙也香に近付いていく優衣。


「私ね、自分でも自分のことが大っ嫌いなの」


「えっ!?」


不意に出た沙也香の言葉に、優衣は立ち止まった。


「大谷にも嫌われてるみたいだし……」


「そんなぁ……。だって、ラインだってしてるんでしょ!?」


「うん。でも、私が一方的にって感じ……。大谷は、たまーに質問に答えてくれるだけ」


「そうなんだぁ」


優衣は、今朝、大谷に届いたラインを思いだした。あまりにも素っ気ない態度だった大谷への怒りが急にこみ上げてきて、沙也香が不憫(ふびん)で仕方なくなってしまった。


結局、気の効いた言葉も掛けられずに沙也香と別れ、重い気分でMバーガーへと向かう……。

タイムカードをラックに戻そうとしているところに、大谷が飛び込んできた。

いつもなら「ついでに押しといて」と優衣に頼むのだか、今日は違った。不機嫌そうに自分で押して、優衣の前を素通りしていく。


(えっ!? あっ、そっか……。携帯のこと? なんか、怒ってたんだよね!?)


大谷の機嫌を窺いながら、話し掛けてみる。


「あの〜っ、勝手に教えちゃったことは悪かったかな〜って……。ちゃんと言ってからにすればよかったって思ってる」


「………………」


優衣を無視して、着替えを始める大谷。


(こっちが謝ってるっていうのに、なんなのこの態度!)


沙也香の件と、素直に否を認める自分を無視された怒りがダブルで込み上げてくる。


「あのさぁ! ラインとか来たら、普通、返信するんじゃないのっ」


「はっ!? そんなのお前に関係ないだろ!」


カッチーーッン!


優衣の中で、何かがキレる音がした。


「確かに私には関係ないけど、ちょっと無神経なんじゃないかなーって思って」


「だからなんだよ!」


そんな激しいバトル最高潮の時、工藤が楽しそうに入ってきた。


「何、なに、どうしちゃったのーっ!?」


「あっ、ちょっと、私が勝手に、大谷のIDを友達に教えちゃったんです!」


心配する工藤に、優衣はそのまま伝えた。


「そうだ、ゆいちゃん! 俺にも教えてよ。ゆいちゃんに連絡できなくて困ってたんだ」


「えっ、私のですか?」


「そう! ゆいちゃんのID〜」


大谷は、工藤と優衣のやりとりを横目で眺めている。

そして……、


「IDくらい、いいんじゃねーの」


シラッとした顔で、2人の会話に口を挟んだ。


(うわぁーっ、嫌なヤツ!)


朝の仕返しだ、と優衣はすぐに悟った。

そして、


「……あっ、いいですよ! IDくらい全然OKです」


大谷の挑発に乗ってしまった……。


「やりーっ!」


張り切って、自分の携帯を取り出す工藤。


「早く、早く」


「あっ、はい」


工藤に催促されて、優衣も慌てて鞄の中を探る。

すぐに携帯が手に当たった。けれども……、その携帯を取り出すことができない。

優衣は、大谷の目の前で、工藤の携帯と自分の携帯が繋がることに抵抗があった。


「ほらほら、何やってんだ。早く仕事に就く!」


突然、従業員室の奥から店長が現れた。


「優衣ちゃん! 個人情報は、そんな簡単に教えるもんじゃないぞ。ひろになんか教えたら、大変なことになっちゃうんだからなっ」


(えぇーーーっ!! いつから居たのーっ!)


気まずそうに、笑って頷く優衣。


「なんだよ、それ!」


悔しがる工藤と、他人事のように素知らぬ顔をする大谷。


(なんか……、助かったぁーっ。店長が大人に見える!)


難を逃れたことにホッとする優衣。

何もかも中途半端な状態で、3人は仕事に就いた。

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