07
-翌朝-
朝日がカテーンの隙間から差し込みその眩しさで目を覚ましたベルホルトは二度寝の誘惑に勝ち完全に目を覚ました。
ベルホルトがベッドから出るとラミエルとメイドが三人入ってきてベルホルトを着替えさせる。
自分一人で着替えられるがこれが貴族の習わしなので郷に入っては郷に従えと昔から言う様に、貴族に生まれ変わったので受け入れる。
そうして寝巻きから普段着へと着替え終わったベルホルトは朝食の時間までまだ少し時間があるので、アイテムボックスに入れて持ち歩いている祖父アンブロス公爵に5歳になった記念に貰った魔導書を取り出して読む。
この魔導書にもランクがある。
魔導書
↓
魔術書
↓
上級魔法書
↓
中級魔法書
↓
下級魔法書
↓
生活魔法書
と六段階に分かれていて祖父から貰った魔導書は一番位が高い物だ。
流石に5歳の子供には難し過ぎないかと周りから言われたアンブロス公爵だが私の孫なら問題なく読み解くと言って譲らず魔導書を渡した。
確かに最初の方は読み解くのに苦労したが流石に前世は社会人だったので家にある古い文献や翻訳した本を見ながら何とか読み解き今では普通の書物と同じ様に読める。
それにあの駄女神から貰った大賢者のジョブの補正かスムーズに魔法や魔術それに魔導も少しだが使える様になった。
何故気怠いベルホルトが此処まで頑張っているのかそれは簡単だ。
将来悠々自適の引き篭もりライフを送る為に邪魔する輩を悉く排除する為に今は面倒いが将来楽になる為だ。
彼ベルホルトは間違った方向に進み魔導を極めようとしているが家族はそうは捉えず努力家だと思っている。
家族がベルホルトの将来の夢を知ったらどうなる事やら……
■■■
あれから二、三個程簡単な初級魔法を覚えた頃に朝食の準備が出来たとメイドが伝えに来たので食堂に向かう。
食堂にはまだ家族の誰も来ては居なかった。
暫く待つと姉のクレアとグレースに妹のニーナが来たが母のアンネリースは一向に来ないのでニーナが侍女の一人に尋ねた。
「ねぇ?母さまはまだ?」
「今確認してまいります」
一礼して部屋から出て行こうとした所バタバタと足音が聞こえメイドの一人がバーン!と扉を開け放ち現れた。
その登場の仕方にメイド長が額に青筋を浮かべメイドに近づいて行く。
「カリーチェ?貴女何ですか屋敷の中で走るのも言語道断ですがお嬢様方がいらっしゃる食堂に無礼に飛び込んで来て?再教育が必要ですね」
「ま、待ってくださいメイド長!奥様が…奥様が!」
その動揺の仕方からアンネリースに只事ではない事が起こったのでは?と皆緊張に顔を強張らせる。
メイド長がカリーチェに落ち着く様に言う。
「落ち着きなさい。奥様の身に何があったの?」
今にも部屋を飛び出して行きそうな姉のクレアを侍女が抑える。
「お、奥様が御懐妊なさりました!」
その一言は最初理解出来なかったが次第に理解するにして緊張が取れ笑顔になって行く。
だが姉のクレアとグレースに妹のニーナは何が起こっているのか理解出来ていなかった。
侍女がクレア達に説明すると皆笑顔になり新たな弟か妹に喜ぶ。
すぐに執事のブロッサムが使い魔を使い領地にいる家令のグライスとアンブロス公爵家にエミール男爵家と父ディルクがいる駐屯地にこの事を知らせる為に使い魔を飛び立たせる。
ブロッサムが召喚した使い魔は伝令用で飛行型で速さに定評のある使い魔だ。
消費魔力も少なく使い勝手もいいが戦闘能力はほぼ皆無なので途中でモンスターに襲われたらひとたまりもない。
そのスピードで逃げ切るしか助かる方法はないだろう。
その後四人で母の寝室に向かう。
「あら、皆来たのね。心配をかけて御免なさいね」
何でも母のアンネリースはここ数日体調が悪かったので念のために鑑定魔法で自身の状態を今朝見ると妊娠が判明した。
この事を侍女長に言うとすぐさま上級魔法師を呼びブロッサムにこの事を知らせる様に手配させた。
母の部屋には今回の護衛の中にいた治癒魔法が使える上級魔法師の女性が居た。
それ以外に母の専属の侍女数名とメイドが室内に居た。
「いえ、御母様この度はおめでとうございます。私たち一同は心よりお喜び申し上げます」
姉のクレアが一同を代表して挨拶する。
「ふふ、ありがとうクレアに皆。それに家族なんですからそんな堅苦しい挨拶は不要よ」
その後母を伴って朝食を済ませる。
身重の母を気遣い料理長も料理を変えたりと気を使う。
母のアンネリースはまだそんなに気を使わなくても良いのに…と言ってたがやはり気を使うだろう。
♢
姉のクレアやグレースに妹のニーナは今日は街に出るのをやめて母の側にいると言うので街に繰り出すのはベルホルト一人だ。
侍女のラミエルとミーネに護衛の騎士5名を連れてシーレンの街へと繰り出す。
海が近いので海風や塩の匂いがする。
早速食材が売っている店へと足を延ばす。
ベルホルト達が滞在している屋敷はこのシーレンの街の上級街の為目的地の商業区までは結構距離がある為に馬車で向かう。
オルトランド伯爵家の紋章は剣に鷹と蛇が描かれている。
剣は武力を鷹は力強さを蛇は狡猾さを表している。
剣は父が武勲を上げ新たな伯爵家を興した事から。
鷹はエミール男爵家紋章から蛇はアンブロス公爵家の紋章から流用した。
♢
商業区は活気があった。
通りは見渡す限り人、人、人が埋め尽くしている。
この中を馬車で進むのは大変だ。
進めなくも無いが貴族の馬車には最低でも2mは離れていないといけないのでこの人の波の中では難しい。
それに無理に入ってシーレンの民に無駄に反感を持たれるのは得策では無い。
なので馬車から降りて進む。
護衛の騎士たちはやんわりと止めて上級街の商会で買わないかと言われたが俺は普段なら面倒いからそっちに人を向かわせたりして自分の足では向かわなかっただろうが、今回は何が売っているのか非常に興味があるので自分の足で見て買いたいと思った。
こんなに生き生きとしている俺を見るのが初めてな使用人達は明日は嵐が来るのではと失礼な事を呟いていたが、今は気分が良いので聞かなかった事にしといてやった。
◆
人混みの中を進む。
護衛の騎士たちはこんなに周りに多くの人が居るので何時もよりも神経を研ぎ澄ませあたりを警戒して居る。
ベルホルトは別にそこまで警戒しなくても大丈夫ではないか?と思っていたが口には出さなかった。
暫く進むと目当ての海産物が売っている店を見つけたので店内へと入って行く。
「いらしゃっいませ。貴族様本日は何をお求めでしょうか?」
礼儀正しい店員がやって来て挨拶する。
「いや、海産物が欲しくてね」
「そうですか、ではこちらの商品は如何でしょうか?こちらは近海に生息しているアミターラと言います魚でして、この時期が旬で身が引き締まっておりとても美味しゅう御座います」
「やはりこの魚も焼いたりして食べるのか?」
何でこんな質問をと不思議そうな顔をした店員だがすぐに「はい、作用で御座います」と返事をした。
「生で食べれるのはあるのか?」
「生なんて、とんでも御座いません。お腹を壊してしまうかもしれませんので焼いたり日干しにして食べるのが一般的で御座います」
やはりそうなのか。
「ですが確か漁師達が度々生で食べるとは聞いた事が御座いますが。その…噂話程度ですので確証は御座いません」
「いや、良い。ではここにあるアミターラを三尾貰おうかな」
「はい、お買い上げありがとうございます」
ラミエルが財布からお金を取り出して店員に渡す。
買った三尾を侍女が持とうとしたがベルホルトはアイテムボックスが使えるので良いと良いアイテムボックスにしまった。
店の店員から聞いた漁師達がいる漁港に向かう。
♢
漁港には中小の船が停泊しており時折小さな船が沖へと出て行く。
時間的には昼を少し過ぎた頃。
殆ど人は居なかった。
近くの漁師らしきものに聞くと深夜から漁へ出て早朝に戻ってくるらしいので今の時間帯はあまり漁師達は居ない。
ここらで一番の漁師の家を教えてもらいそこへと向かう。
○
ドアをノックする。
「はいはい、今行きますよ」
バタバタとしてドアを開けると中年の女性が現れた。
こちらを見て目を丸くして驚いている。
「き、貴族様私共のような平民の家に何か御用でしょうか?」
やはり貴族がいきなり家に出向くのは不味かったかな。
この辺の常識も追い追い学ばなければ後々痛い目を見そうだな。
と心のメモ帳に記しておく。
「いや、貴女のご主人がこの街一番の漁師と聞いたのでね。ご主人はいるかな?」
「た、只今呼んで参ります!」
そう言って踵を返して部屋の奥へと走って行く。
「あんた!早くおし!」
「おっ母なんだってんだ?」
「いいから!!」
引きずるようにして先程の女性が夫を連れてくる。
「こ、これは貴族様あっしのような者に何の御用でしょうか?」
言葉使いに護衛の騎士が眉を顰めたが手で構わないと合図する。
「貴殿がこの街一番の漁師殿かな?」
「はい、そう言われておりますです」
吹き出しそうになったが我慢する。
「いや、魚を売っていた商会に聞いたのだが生で魚を食べていると聞いて来たのだが本当だろうか?」
「は、はい!新鮮な取れ立てでしたら問題なく食べられます!」
その言葉に笑顔になる。
「それは重畳。出来れば私が滞在している屋敷にも数尾程明日の朝届けてはくれないだろうか?勿論代金は払う」
「そんな事で宜しければ是非お持ちいたします」
この夫婦もまさか魚を求めてやって来るとは思わなかったのだろう。
少し驚いた顔をしたが代金を払ってくれるならと安堵したらしい。
中には代金を払わなきゃ貴族も居るからな。
満足して屋敷の場所を教えた。
その後当てもなくぶらぶらして居ると怪しい路地裏に入ってしまった。
護衛達と侍女らは引き返そうと提案して来たが何やら惹かれる物を感じて進むと一軒の怪しい店に出た。
中に入ると呪い用の薬草や見た事もない生き物の剥製が所狭しと並んでいた。
ある1つの物に惹かれた。
それは鎖を何重にも巻いた一冊の本であった。
店主の老婆が歩いて来て「ひひひっお目が高いですな。それは魔書で御座います」
「魔書?魔導書や魔術書それに魔法書とは違うのか?」
「ええ、魔書とは原書の本で魔導書や魔術書に魔法書の元となった本と言われておりましてな。膨大な力を持ち使う者をさらなる高みへも至らせる物で御座います。ですが魔書は意志を持つ本とも言われ資格なし者が持つと意識を乗っ取られ魔人になると言われております」
「その為こうして聖鎖で厳重に封印しているのですよ。ひひっ」
小声でラミエルに尋ねる
「本当か?」
「その話は知らないですが、あの本が凄い力を持っているのはわかります」
天使のラミエルが言うのだあの本は多分本物だろう。
「よし、買った」
護衛の騎士が止めるが頑なに譲らなかった。
何せベルホルトはこれさえあれば夢の引き篭もり生活まで数年早く達成出来る。
と駄目な方向に意味燃えていた。
「わかりました。代金は入りませんこれを使いこなせるのでしたら……」
そう意味深に言って老婆と店は目の前から忽然と姿を消した。
護衛の騎士達はこれに驚いたがすぐに顔を引き締めてあたりを警戒するが何もなかった。
あれは幻かと皆が思った。だが手の中にはしっかりと魔書が握られていた。
その後路地裏から出て馬車に戻り屋敷へと帰って行く。
屋敷の料理長に明日漁師が新鮮な魚を数尾持って来ると伝えそれを生で食べると言うと驚かれ反対されたが説得して渋々納得してくれた。
次にベルホルトは市場で買った土産を母のアンネリース、クレア、グレース、ニーナにそれぞれ渡し喜ばれた。
そして夕食の席ではあまり話さないのがマナーなので食べ終わり談話室でシーレンの街の様子をみんなに話す。
あの魔書の事は黙っている。
一緒について来た侍女と護衛の騎士達には軽い催眠魔法を使い魔書事を忘れさせた。
ラミエルは天使の為に効果がないだろう。自分の事を裏切る事はしないだろうと思い試さなかった。
◇
自分の部屋に戻り早速魔書を開いてみる事にした。
聖鎖の開錠するワードは自然と頭に浮かんだ。それを唱える《アウフシュリーセン》
すると聖鎖が魔書から外れ自分の右手首に巻き付いた。
一気に魔書から魔力が溢れ出したので周りに魔術師級の結界を張る。
「《完璧なる結界/ラ・バッリエーラ・ペルフェッタ》」
続いて自身を守る魔導師級の結界を張る
「《聖なる光よ我を守り賜え/ラ・ルチェ・サクラーレ・プロテクト・ミー》」
これで周囲と自身にこの魔力の影響は無いだろう。
それにしても魔導師級と魔術師級の呪文を唱えたのでごっそりと魔力が減ったので軽い目眩を覚えた。
用意していた〔魔力回復役/マジックポーション〕を飲む。
少し楽になった。
回復したところでいよいよ魔書を開ける。




