②東は右で、右は東で、東は右で……!?
「魔力を知らない生き物が存在していること自体がすでに不思議なんだけど」
「ハァ」
失恋したこの状況でさらに追い打ちをかけるような言葉に気の抜けた返事しかできない。
「トラジには魔力というものが全く感じられないのよね」
「ハァ」
「君、生きてる?」
「イキ……テル」
と思う。
だって、息してるし、心臓動いてるし、肉級舐めれるし。なにより失恋によって傷つく心があるし……。
「魔力っていうのは、生き物が生きる上での活力なの。 つまり、ないと生きれないハズなのよ」
「ほうほう」
「魔力が高いってことは、それだけ強さを秘めてるってことなの」
「…………」
「つまり、魔力ゼロの君は生物史上最も弱いということになるわね」
言われなくてもなんとなく気付いていた事実をサラっと言われた……。
ここまで責められると、180度回転してなんとなくプラスに聞こえてこないこともない。
「なんか、スペシャルな感じで……照れるね」
「……トラジっておもしろいね」
「よく言われます」
記憶上初めて言われたけど、そういうことにしとこう。
それにしても、なんで俺には魔力がないんだろう。
しかも、どうやったら魔力の有無ってわかるんだろう。
つーか、魔力って結局なに。
「じゃあ、元気でね」
いやいやいや、行っちゃうのかよ!
たった今、俺に興味持ったような感じだったじゃん!
「他の魔物には気を付けてね」
「ちょ、待って、魔物ってなに」
「魔物は魔物じゃない。肉食系で一定以上の魔力を持つ動物の総称でしょ」
「肉食って俺とかを……?」
「そうね、おいしそうよね」
顔が青ざめる感覚っていうか、青ざめるような肌じゃないんだけどね俺は。
シズネにおいてはウフフなんて笑ってすでに歩き始めている。
「ちょっと待って!」
「あら、なにかしら」
「あのさ、せめて安全な場所がどこにあるか教えて」
「ん?」
「いや、魔物とかいないとこを教えて……」
「んー?」
「教えてくださいすみませんお願いします」
「いいわよ。ここから東に行くとちょっとした街があるわ。人間が統治してる街だから、まず魔物はいないわね。マ・モ・ノ、はね」
「あ、ありがとうシズネ」
「色々と、キ・ヲ・ツ・ケ・テ・ネ」
「は、はい……」
そんな危険なんですかコノ世界は。
「シズネはどこ行くの?」
「うーん……人探し、かな」
シズネはその濁った言葉を残して振り返ることなく、猫の姿のままでどこかへと去ってしまった。
その姿をぼーっと眺めて、人探しをこんな森でしてても見つからないだろアホだなぁと思った。
ふと、湖を見て、俺は水面が見えるとこまで近寄ってみた。
水面には自分の顔が映る。
「あ、思ってたよりイケメンじゃん」
思わず声に出してしまうほど、自分に惚れ惚れしてしまった。
これで確信を得たけど、やっぱり虎柄の猫だった。
虎の赤ちゃん説とか完全になくなったわ。
さて、とりあえず街ってところに行こうかな。
「んで、東って……どっちですか?」
聞いたって誰もいないから、当然なにも返ってこない。
東って右のこと?
右を向く。
東は右。
右を向く。
東は右?
右を向く?
東……右?
見たことのある湖の景色と自分の顔が映る水面が目の前には広がっていた。
「東ってどっちだー!」
トラジに磁石を渡しても【北が上で東が右】です。