⑨そしてここに一匹の魔王が誕生?したのである
「おお、トラジ様、ここにいたんですか」
それは異空間に飛ばされる前に聞いた声だった。
「ユキムラ」
「はい。突然消えたのでどちらへ行かれたのかと思いましたよ」
あー、やっぱり天国じゃなかったんだねあそこ。
人間の姿に戻っている黒い魔王代行は、優しい笑みで呆然とした顔の俺を抱っこした。
「なんかね、勇者と魔王に会った」
「なんと!? ど、どちらで!?」
優しい笑みは一変し、驚愕の表情を浮かべる。
「いや、こう、ユキムラから逃げてて、この辺が光ったんだよ。それでそこに向かって走ってたらいつの間にか光に包まれて……」
「ふむ、勇者の結界ですか」
「あー、そんな感じのこと言ってたかも」
「つまり、事実上魔王は勇者の手によって封印されているわけですね」
「よくわからんけど、そういうことなんかな」
俺には正直どうでもいいことだし、あいつらがあそこでまさかゲーム対決してるよってことは言わないでおく。
きっとユキムラの中では壮絶なバトルが想像されているのだろうし……。
「トラジ様だけ元の世界に戻ってきたということは、勇者と魔王は依然としてその結界の中ということですか」
「っぽいね」
ふむ、と頷いて口に手を当てる。何かを考えているようだ。
そしておもむろに俺の顔、いや首元の首輪を見て再び驚愕の顔を浮かべる。
「そのバッチはもしや魔王の……」
「あーそうそう、コレもらったんだよね」
俺がなんなんだろうねと呟いていると、ウンウンと頷きながら何かを考え、急に何かを理解した顔をした。
「トラジ様、いえ、魔王様!」
「はあっ!?」
突然こいつは何を言い出すんだ!?
俺のことを見てハッキリと魔王様と言い出した。
「そのバッチは魔王の証。つまり現在はあなたが魔王なのですよ」
「いや、意味わからんし」
そもそも魔王って【せぶんすぴあ?】の中で最も強い人がなるとかなんとか言ってなかったっけ?
「私は魔王様がどんなお方だったかを詳しく知っています。あの魔王が知らないただの猫にほいほいバッチをあげるわけがありません! つまり、あなたは魔王たる資格を得たということです」
「…………」
つまり……ゲームで勝ったから魔王から魔王の資格をもらったってこと?
いやいや、確かに言ってたよ。「魔王はてめぇでいいよ」って間違いなく言ってたよ。でも――
そんなんでいいのか本当に……。
「いや、俺は認めない! 魔王なんてめんどくさいものにはならない! 早くこのバッチを外してくれ! お前にやる!」
「いいえダメです! もうあなたが魔王です! 前魔王が決めたのならあなたしか魔王にはなれません!」
ふざげんなー! なんでこんなとこだけ頑固なんだよ!
「じゃ、じゃあ現魔王が命ずる! 魔王は今日からユキムラだー!」
「いいえダメです」
「なんでだよ!」
「魔王の任期は最低五年です。五年を過ぎなければ次の魔王を選定することはできません」
「うわー、すげーなんていうか律儀な感じ……」
ユキムラは小さく息を吐いて、そして続けた。
「ただし、例外があります」
「例外……?」
うん、嫌な予感しかしないよね。
「魔王が死んだ場合のみですね」
「うわー! そんな無茶言うんじゃねぇええ!!」
俺に死ねっていうのか! そうなのか!?
「トラジ様、落ち着いてください。私があなたの側についてサポートしていきます。そんなに難しいことはありませんから」
「そ、そうなのか? ……ってそういう問題じゃねえよ! サポートとかアフターケアとかそういうことじゃないんだってば。俺が魔王になるということ自体が問題なんだろうがよ」
「そこは問題ではありません」
「即否定かよ! どこの世界に魔力ゼロの魔王がいんだよ!」
「ココですね、おめでとうございます。史上初の魔力ゼロの魔王ですね」
「あ、どうもありがとうございます。えへへ……じゃねえってば!」
おかしい。おかしいよコレ。なんか変な風にノせられてきてるよコレ!
「では魔王様、ココは寒いですし移動しましょうか」
「確かに寒い! けど魔王はイヤ! でも移動する!」
もー! ワケわかんねー!!




