②魔王代行のユマに会う
ようやく村らしき建物が見えてきた。
「ここがクレイジースノー」
すでに一面銀世界。幻想的と言えば聞こえはいいが、なにぶん寒すぎてリアルに幻想見てる気分だ。
当然のように家々の屋根には雪が積もっていて、煙突から暖炉の煙が上っている。
足が冷た過ぎて立ち止まっているのが辛いほどだ。
「おやおや、あなたは……」
突然、横から男の声がした。
振り向くと、そこには雪よりも濃い銀髪で精悍な顔立ち、黒いローブを身に纏う長身の男が立っていた。
「……ユマスティック・キエッリーム・ラークス」
シズネが呟く。
ゆ、ユマ……え? え??
「ネロフェリスの筆頭格がこんな北の大地までどのような御用で?」
いきなりのことすぎてなにがなんだかわからないけど、ネロフェリスってシズネのことかな?
「魔王代行閣下にはご関係のないことですわ」
魔王代行って……?
いや、ちょっと待て。
「俺のわかる話をしろ」
「トラジ、空気読みなさい」
シズネが真剣な顔をしている。一切の余裕も感じられない。
「おや、そんなところに猫が転がっていたんですね。気付きませんでした」
あー、こいつすっげーむかつく!
「僕の名前はユマスティック・キエッリーム・ラークス。ユマとでもお呼びください。これでも現クログライフの長でして、魔王代行をやらさせて頂いております」
「俺はトラジ。これでも猫をやらせてもらってます」
「おもしろい猫ですね。ネロフェリスではないようですが、魔力も感じられませんし」
クログライフってなんだー! ネロフェリスってなんだー! 魔王代行ってなんだー!
「そうね、この子はネロフェリスじゃないわ」
「なに、そのネロフェリスって」
「言ってなかったかしら? 私の種族の名前よ」
「初耳だし……。んで、クログライフは?」
「僕の種族名ですよ」
「じゃあ魔王代行ってなに?」
「セブンスピアの二番格で、魔王の代わりに魔物を束ねてる方よ」
いやいやいや、セブンスピアってなに。どんどんわけわかんない単語が増えていくぞ……。
「そういうことですね。魔王様が勇者と共に姿を消してから数年が経ちましたが、いまだにグリームサクソンは魔王様の死を認めませんし、僕自身も認めていないもので、代行という形をとっています」
うんうんうんうん、なるほどねなるほどね。
「わかるかボケッ!」
「ようは、現段階で魔物の中で一番すごいってことよ」
一番すごいって言われてもよくわかんないし。見た目はそんなにマッチョとかでもないし、ヒョロっとしてて強そうじゃない。目つきはちょっと鋭くて怖いけど、それだけじゃん。
んで……
「セブンスピアってなに? 七本の槍?」
「間違いではありませんよ。セブンスピアとは、魔物を統べる七属性の王の総称です。それは七本の槍であり、崇高なる七人の貴族なのです。クログライフは闇属性で最も高い能力を持つ種族。その筆頭が僕ということになります」
「セブンスピアの七人の王の内、その時に最も能力が高い者が魔王となるのよ。今はこのユマ様ね」
うわっ、シズネが様付けで呼んでるよ。
「正確には魔王代行です。シズネ様でしたね? 僕などに様付けなどもったいない……あなたは同格でしょうに」
「同格って言う割に君も私のこと様付けじゃない」
「ハハハ、どうも癖でして。お気になさらないでください」
んーっと、整理しようか。
魔王代行がユマ。ユマはクログライフという闇属性の種族の中で一番強い。しかもセブンスピアの中で一番強い。そんでもって、シズネはそれと同格……?
シズネもめっちゃすごいってことじゃん!
「そう、じゃあユマ。 君がここにいる理由はなにかしら?」
あっさりシズネがタメ口でユマに聞く。
「僕は常に魔王の行方を探しています。たどり着いた村で偶然出くわしただけですよ」
「ふーん。君も引きずるわね。ま、人のこと言えないけど……」
んで、シズネはネロフェリスの筆頭格……? ん、格ってなに?
「シズネはネロフェリスで一番偉いの?」
「偉くないわよ。私は別の子に筆頭を譲ったから」
「本来、シズネ様が筆頭になっていたハズでしたが、辞退なされた」
「そういうことね。私はこのユマのように、旅をしながら種族を束ねる器用さなんて持ち合わせてないのよ」
そしたら、シズネとかなりイイ戦いをしてたあの雷の……アイアン(?)は相当な実力者だったってことになるんだね?
「またまたご謙遜を。あぁ、話は変わりますが、ここに来たということは博士にはもうお会いになられましたか?」
「いいえ、今着いたところなのよ」
博士?
なんの?
「そうでしたか、それならば是非顔を見せてあげてください。高魔力者の来訪は泣いて喜ばれますよ」
「あら、博士を泣かせたの?」
「いえいえ、新しい開発したモノについて二時間ほど語って頂いただけです」
「泣いたのは君ってことね……行きづらいこと言わないでよ」
「誰?」
「魔法科学を研究されている魔物ですよ。少し変わったお方ですが、魔法科学で彼女の右に出る者はいません」
ユマが教えてくれた。
博士って呼ばれてるのが怪しいし、会話の内容から絶対変人な予感がプンプンする。
「この後行ってみるわよ。トラジのことも聞きたかったしね」
「そうですね。そこの猫のことは僕もとても気になります」
「そんな、照れるだろ」
その言葉にシズネが冷たい目を向けてくる。
あれ? ユマはむしろさっきよりも優しい温かい目で見てくる。
……バカだなぁって同情でもされてるのか。
「さて、じゃあさっそく博士のところに行くわ。また縁があったら会いましょう」
「そうですね、お互いの探し人が見つかることを祈っています」
そう言って俺を一瞥し、ユマはどこかへと歩いて行ってしまった。
最後に俺のことをチラっと見たことが気になるけど、どうせもう会わないだろう。
さよなら、雪の村で会った男の人……。
トラジは魔王というものがどれほどスゴイものなのかよくわかっていないので、大した驚きも恐怖もありません。きっと後々そのすごさに気付くことになる……のでしょうかねぇ?




