第1話 洗礼式の日
ルルリ・ドラゴベルクは5歳の少女。
ドラゴベルク家の長女にして、とても可憐な子どもである。
この世界では5歳になると、スキルを授かる洗礼式に臨む。
これは万人が通る道であり、これによって将来が大きく左右される。
物理攻撃を得意とするものから、魔法を得意とするもの、生活に役立つ技能を授かるなど、その種類は豊富で千差万別だ。
その洗礼式に臨む日の朝、ルルリは家族と朝食を食べていた。
「いよいよ今日が待ちに待った洗礼式の日か」
「そうですね、あなた。ルルリは一体どのようなスキルを授かるのでしょうね」
両親は今日のことがとても楽しみだったようで、食べながらとても盛り上がっている。
父親であるドラゴベルク公爵は、『ドラゴン殺し』というスキルを持っている。
対ドラゴンに特化した攻撃手段をたくさん得ることができるのだが、腕力に補正がかかるために、それ以外の魔物などにも有効という一撃特化といってもいいくらいの強いスキルだ。
母親である公爵夫人は、『癒し』という実にシンプルなスキルを持っている。
こちらは回復魔法のイメージがあるかもしれないが、それ以外にもその場を和ませる特殊な効果がある。そのおかげか、結婚して10年ほど経過するというのに、夫婦喧嘩というものはまったくといっていいほどない。
そういうこともあり、仲睦まじい夫婦と王国中で評判となっている。
「スキルというのは、俺たちとは無関係なものがつくこともあるが、俺としては我が家の後継として、攻撃スキルを持つことを楽しみにしている」
「あらあら、女性に荒事を求めるなんて、あなたは相変わらず攻撃的ですね。とはいえ、この公爵領をうまくまとめられるだけの技能が身につくスキルであるのなら、私は特に高望みはしません」
「まあ、そうだな。最悪の場合は婿を取るというのもあるからな。ガッハッハッハッ!」
この日の朝も、実に平和な会話が繰り広げられていた。
無事に朝食を終わらせた一家は、家令が用意した馬車に乗って、いざ洗礼式が行われる神殿へと向かう。
洗礼式が行われるのは、王都のすぐ近くに構えている神殿の中だ。
5歳になった子どもたちは、年に数回設定された洗礼式の日を選び、その日に神殿へと赴く。そのため、洗礼式の日取りを決めれば、貴族たちはしばらく前から王都に滞在するようになる。
つまり、ルルリたちドラゴベルク家の面々も、王都に滞在していた。
平民も含めて多くの5歳児が集まっている。
集まった子どもたちは、身分の高い方から順番に洗礼を受けていく。
公爵家の娘であるルルリは、ほぼ一番最初になる。この日の公爵令嬢はルルリしかいなかったので、一番目が決定した。
平民まで含めて多くの人たちが見守る中、ルルリは一番最初に洗礼を受ける。
「では、お父様、お母様、行ってまいります」
5歳児でありながらも、しっかりとした口調で両親に告げると、ルルリは洗礼を与えてくれるという水晶の前に立つ。
透明な水晶の中を覗き込むと、なんとも不思議な光がぐるぐると回っている。
「それでは、ルルリ・ドラゴベルクよ。水晶に手をかざし、洗礼を受け取りなさい」
「はい」
司教に言われて、ルルリは水晶に手を添える。
その瞬間、光がルルリの手へと寄ってくる。手と光が接触した瞬間、水晶は大きな光を放つ。
「それでは、手をどけて下さい。光に洗礼の結果が浮かび上がりますのでね」
「はい」
ルルリは手をどけて、どんなスキルを授かるのかわくわくとした表情で光を見ている。
やがて、光に文字が浮かび上がると、どういうわけか司教が震え始めてしまった。
「げ、”撃神の砲槌”です」
司教がスキル名を呼びあげると、神殿の中が騒がしくなる。
一体どういうことなのだろうか。ルルリはきょとんとした表情でその様子を見ている。
その直後、すぐに両親が呼ばれ、ルルリは両親ともども別室へと案内される。
別室に移動したルルリは、とても衝撃的な事実を告げられる。
「撃神とは、神を撃つということか。なんと不吉なスキルを授かったのだ」
「お、お父様……?」
頭を抱える父親の姿を見て、ルルリは戸惑いを隠せない。
「あなた、さすがにそれは5歳の子どもには酷というものよ。せめて穏便に済ませませんと」
「あ、ああ。そうだな……」
両親の様子を見て、ルルリの不安はどんどんと大きくなっていく。
困った表情を浮かべるルルリの肩を、父親はがっつりとつかんでいる。
「悪いが、こんな不吉なスキルを授かってしまった以上、お前を手元に置いていくわけにはいかん。俺とてこんなことをしたくはないのだが、周りからどういわれるか分かったものではない。……お前とは親子の縁を切らせてもらう」
「お父様、どうしてですか。私、何か悪いことをしてしまったでしょうか」
「すまないな、ルルリ。お前は追放だ」
「つい、ほう……? 嫌です、お父様……。私を、私を捨てないで下さい!」
わくわくして臨んだはずの洗礼式は、思ってもみなかった結末を迎えることになる。
あまりのショックに、ルルリは泣きじゃくりながら訴える。しかし、両親の決断は覆ることはなかった。
自分は捨てられるという現実が確定した瞬間、ルルリの意識はぷつりと切れてしまったのだった。




