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私の悪役令嬢の役割の終わり  作者: カネコ


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凱旋

 人々は凱旋する騎士団を一目見ようと、大通りを埋め尽くしていた。

 

 先頭はシグルド・クロイツなのは誰もが予想できたが、信じられない光景を目にしていた。

 

 シグルド・クロイツの腕の間に横乗りをした少女がいたのだ。紫に輝く黒髪、シグルドが西に向かう直前に結婚した少女、リディア。清楚な白いドレスを纏っていた。

 

 ユリウス王子との婚約破棄後、間も無く結婚した二人。政略的な、愛のない結婚だと誰も疑わなかった。

 

 ただ、今行進している二人はどうだろう。

 

 舞う花吹雪の花びらの一つがリディアの髪についたのをそっと取り除く。その手つきは甘い。これがどんな令嬢の求愛も跳ね除けた堅物と言われるシグルド・クロイツだとは。しかし二人は馬上で密着し語り合い笑顔を見せており、二人の親密さは疑いようがなかった。

 リディアのかつての友二人が信じられない思いでリディアとシグルドの睦まじさを見ていた。


 観衆は英雄の帰還に歓喜していた。

 シグルド様、クロイツ万歳、と歓声が聞こえる。

 リディアはシグルドとの仲を見せつけるようにしながらも観衆に手を振った。歓声が湧き上がる。


「聖女リディア様!」


 リディアの奇跡の話は王都まで届いていた。


 王城前広場階段上にて国王夫妻、王子、重臣らがシグルドを出迎えた。

 広場入口前にてシグルドは先に馬から降りると、リディアへ手を差し伸べ、丁寧に地面へ降ろした。

 そのままリディアを導くように手を差し出し、リディアもそっとその手に自らの手を重ねる。二人は並んで階段前まで進んだ。

 シグルドは階段中腹まで登り膝を付いた。リディアは一段下で同じように膝を付く。

 レオポルド王は厳かに言った。

 

「此度の働き、誠見事であった」

「畏れ多く。ただいまをもってして西部魔獣群討伐の任を果たし、帰還いたしました」

「北の壁クロイツ、王国の剣シグルドの名に恥じぬ働きであった」

 

 国王はリディアに視線を向けた。

 

「リディア、其方の働きも耳にした。我が国の民を救ったこと感謝しよう」

「畏れ多いお言葉にございます」

「余にとっても其方は娘のようなもの。楽にすると良い」

「有り難きお言葉。陛下の広いお心に感謝いたします」


 国王とリディアが会話している今もユリウスには信じられなかった。

 リディアが他人の妻になったことは受け入れられた。そこに愛がないことは明白だ。だが広場入口のシグルドとのやりとり。大事なもののように愛しているかのように扱っていた。

 リディアは自分のもののはずだった。婚約破棄してなお自分のものだということに揺らぎはない。それなのに!


 レオポルド王はシグルドにも言った。

 

「リディアが余の娘ならば、シグルド、其方も我が息子と言ってよいだろう」

「恐悦に存じます」

「二人ともしばし休むが良い。今宵は祝宴を設けておる」


 王族が城に戻っていく。ユリウスは足が地面に付いたかのように動かなかったが、重臣に促され彼らと共に城に戻って行った。

 シグルドとリディアも立ち上がり、侍従に城内に案内された。



 部屋は隣同士だが別々に用意された。

 リディアはシグルドの部屋の扉をノックした。

 

「リディアです」


 足音も聞こえなかったのに扉が開いた。

 

「姫君。どうぞ」

 

 シグルドに出迎えられリディアは部屋に入る。

 ソファに促され腰掛ける。

 部屋には侍従が控えていたが、シグルドは軽く手を振った。

「下がってくれ」

 一礼し、侍従は静かに部屋を出て行く。

 

 

「ちょっと、いえだいぶ緊張しました。これでも王家の方々とは親しくさせていただいていたのですが」

「公式の場となれば緊張するのも自然です」

「あの、旦那様……」

 

 リディアは立ち上がりシグルドの隣に座った。

 

「ここでは魔石のことなどは話さない方がいいですよね」

 

 耳元で息のような声で確認する。王城内は言わば敵地なのだ。

 リディアは気付いた。

 シグルドが意表を突かれたような顔をしたのを見るのは初めてだ。

 

「旦那様?」


 シグルドは苦笑した。そしてリディアの耳に口を寄せる。


「はい。その通りです。でも普通の会話なら問題ありません」


 シグルドもまた息のような声で囁いた。

 リディアは一瞬硬直した。


(びっ……くりした)


 耳元で声を聞くのは心臓に悪い。


(あっ、それで旦那様も?)


 恥ずかしくなって元の位置に戻ろうとしたリディアの手を握ってそれを阻止した。


「誰に見られても問題ありません。私たちは夫婦なのですから」


 優しくシグルドが言う。手は握られたままだ。


「そうっ……ですね」


(私、演技下手くそ――)


 シグルドが演技上手なのでは?演技なんて慣れてなさそうな人なのに。


「隣の座り心地が良くないならこちらに来ませんか?」


 シグルドは自身の腿の上を軽く叩いた。

 

「えっ!」


(恥ずかしいのだが?)


 でも今の私たちは、溺愛し溺愛される夫婦。座った方が自然?

 リディアは混乱した。


「で、では失礼します」


 リディアはシグルドの腿の上に座った。

 シグルドはクツクツと笑っている。演技なのかわからない。

 

 これで王城の監視などに見られてないなら、本当に一体何をしているんだ?

 でもシグルドが楽しそうにしてくれているならいいかと思った。



 レオポルド王に報告が入る。

「そうか、本当に仲睦まじいのか。宿では別室だというから不和を期待したが」

 

 王は監視役を手を振り下がらせた。

 

「ユリウスの愚か者めが」

 ローゼンベルク公爵の後ろ盾を無くした上、破棄したものが宝だったとは。宝だということを見抜けなかったのは王自身も同じだが、それを自覚した上で息子への苛立ちが上回った。

 

「だから王太子にできぬのだ。間抜けめ」

 

 ユリウスは他にも問題を抱えていた。聖女ティナとの婚姻を望んでいるが、勢力均衡というものを考えていない。神殿にこれ以上力を与えたくはなかった。

 平民王妃は民衆の支持を得られるだろう。しかし貴族の反発も招く。

 

 その点、今のリディアは理想的であった。聖女として民衆の支持もありローゼンベルク名は後ろ盾にもなり貴族の反発も招かない。

 ユリウスの弟、レオンハルトかセオドールと縁付けられれば良かったものを。

 その話はローゼンベルク公爵に打診はしたが、ユリウスのした断罪と婚約破棄によってリディアに瑕疵を負わせた以上、断られれば仕方のないことであり、むしろシグルド・クロイツとの婚姻を結ぶ後押しをしなければならなかった。

 今まで食料でクロイツに首輪をつけていたがリディアの奇跡によってその首輪は外されるだろう。

 

 奇跡を得るか、消すか、究極はそのどちらかだ。

 

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