1/22
プロローグ
二十歳にして、父に代わり領地を治める若き領主代行。
その名は、ヨアヒム・フォン・シュヴァルツ。
病床に伏した父から領務を引き継ぎ、八つの村、四千人の領民を預かる男である。
若いからと侮ることなかれ。
領内の三つの村へ水を引くため、大規模な用水路工事を計画。
必要な資金を商人から調達し、百名近い領民を動かし、工事を陣頭指揮する。
測量も自ら行う。
領内で揉め事があれば裁定を下し、隣領との交渉では長年険悪だった関係を改善してみせる。
領民からの信頼も厚い。
勤勉。有能。責任感もある。
実に将来有望な人物である。
――以上が、昨日までの俺である。
いや。
正確には、昨日までこの身体で生きていた人間と言うべきか。
一方の俺は、二十一世紀の日本で暮らしていたごく平凡な人間だ。
測量なんてやったことがない。
百人はおろか、十人の人間も動かしたことがない。
もちろん、領地経営なんてしたこともない。
そんな俺が、ヨアヒム・フォン・シュヴァルツの中の人となってしまった。
そのうえ、できることなら楽に生きたい。
これは、そんな俺の奮戦記――になる予定である。




