エピローグ
判決から数か月後。翔太郎の名前は新聞の片隅に小さく載り、やがて人々の記憶から薄れていった。大学の掲示板からは彼の噂が消え、街のカフェでももう誰も彼の話をしなくなった。社会は新しい事件や話題に移り、翔太郎は「過去の犯人」として記録の中に閉じ込められた。
独房の窓から差し込む光は季節とともに変わり、春の柔らかさを帯び始めていた。翔太郎は机に向かい、ノートを開いた。そこには「俺は犯人じゃない」と繰り返し書かれていた。だが、ページの隅には「俺が犯人だ」とも記されていた。文字は二重に重なり、どちらが真実か分からなくなっていた。
彼はペンを置き、静かに目を閉じた。心の奥で最後の声が囁いた。
――でもオレは殺してない。作品が暴走しちゃったんだ。
その言葉は誰にも届かず、鉄格子の影に溶けていった。
外の世界では、翔太郎のノートに記された矛盾した文字は、後に研究者たちの議論を呼ぶことになる。
「彼は犯人だったのか、それとも自己の断絶に囚われただけなのか」
だが、翔太郎自身はもう答えなかった。彼の沈黙こそが、最後の証言だった。
そして裁判で証拠として提出された一つ一つが彼の犯行を示していた。
もう、彼の犯行は揺るぎないものに変化していた。
彼は控訴しなかった。
それでも翔太郎はいつも心のどこかで思っていた。
「それでもオレは殺してない。オレは犯人じゃないんだ」
でも、それが言葉になることも誰かに伝わる事もなかった。




