14話
裁判所の法廷は、冬の光に包まれていた。窓から差し込む白い光が床に広がり、木製の椅子と机を冷たく照らしていた。翔太郎は被告席に座り、両手を膝の上に置いた。手錠は外されていたが、心は鉄の枷に縛られていた。
検察官が立ち上がり、証拠を提示した。
「被告人・鳥越翔太郎は、事件当夜、図書館付近で目撃されている。複数の証言が一致している。そして、彼のノートには『俺が犯人だ』と書かれている」
法廷にざわめきが広がった。傍聴席の人々は囁き合い、視線を翔太郎に向けた。彼はその視線を受け止めることなく、ただ机の木目を見つめていた。
弁護人が立ち上がった。
「被告人は精神的に不安定でした。ノートの記述は自己暗示のようなものであり、真実を示すものではありません。彼は事件に異常に執着し、自分を犯人だと思い込むようになったのです」
だが、裁判官の表情は動かなかった。証言と記録は積み重なり、翔太郎を犯人として確定する材料となっていた。
判決の日。裁判官は静かに告げた。
「被告人・鳥越翔太郎を有罪とする」
その言葉は、法廷の空気を凍らせた。翔太郎は目を閉じ、深く息を吸った。抵抗はしなかった。控訴もしなかった。
「それでいい」
心の奥でそう呟いた。
だが、夜、独房に戻ると、鉄格子の影が壁に伸び、冷たい空気が漂っていた。翔太郎はベッドに横たわり、天井を見つめた。記憶の断片が浮かび上がる。事件当夜の自分の姿――慌てて歩く影、何かを握りしめる手。だが、それは「自分じゃない自分」だった。
「俺は……俺じゃない。あれは俺じゃない」
声は震え、涙が頬を伝った。
幻覚のように、独房の隅にもう一人の自分が座っている気がした。影は笑い、囁いた。
――お前がやったんだ。
――証言は積み重なっている。
翔太郎は頭を抱え、声を上げた。
「違う……俺じゃない……」
だが、鉄格子の外では誰も答えなかった。社会は彼を犯人として認識し、判決は確定していた。
翌朝、独房の窓から差し込む光が床に広がった。翔太郎はノートを開き、震える手で文字を書いた。
「俺は犯人じゃない」
だが、次の瞬間、ペン先は勝手に動き、「俺が犯人だ」と書き込んでいた。汗が紙に滲み、文字は歪んだ。
翔太郎はペンを落とし、天井を見つめた。心の奥で最後の声が囁いた。
――でもオレは殺してない。作品が暴走しちゃったんだ。
その言葉は、独房の闇に溶け、誰にも届かなかった。




