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彼が失敗する話

胎児よ


胎児よ


何故踊る


母親の心がわかって


おそろしいのか


「八ツ!?」


ウトウトとまどろんでいたら唐突にドグラマグラの冒頭部分が頭に浮かんだ。

『鏡面感染性Alice』を投稿してから早三日、反応は無く投稿サイトを試験石にしようとしても無駄ではないかと考え始めていた。PVは毎日5程度。ポイントは絶無、逆お気に入りは虚空の彼方と、フリューゲルに全裸で挑むような感覚すら覚えていた。


「…ロラ完遂する…『鏡面感染性Alice』を捨てるか」


今までで一番の出来だと自負している『鏡面感染性Alice』だったが読者が居なくてはこれが正しいのか、将又つまらないのか分からない。

いっそ狂気に染まれるような…新奇な読み物へ変えてしまおうか。


最近の日課となった速報サイトに目を向ける。

投稿作品の晒しやライトノベルについての記事がずらりと並んでいた。


「晒しね…」


晒し、スレで『読んで感想くれ!』と自分の作品を売り込む行為だが…大抵の作品にオブラートに包めば頑張ろう。そのまま言うならカスと、文章力の無さを露呈させて爆死する人が絶えない。


詰んだ。


書く熱量も無ければ展開を考える時間と精神的な余裕も無い。


「畜生」


自然とその言葉は口から漏れ出ていた。言葉は呪詛のように体に纏わりついて体を重くする。

平日の昼下がり、瞼が重い。

授業用のノートには書いては消した苦悩の跡があった。


霧島さんならどうするんだろう。

俺の事大好き?フリスキー!な霧島さんならば答えをくれそうな気がする。


行間に込めるべき想いを、俺は探していた。


「きょっす、懐。…景気は良くなさそうだな」


「真田か」


親友ヅラして近づくコイツの化けの皮を剥いだら…そうしたら良い文章は出てくるのか?

下らないラブコメ同盟の真の姿を白日の下に晒せば俺は楽になれるのか?


馬鹿げている。

こんなことを考える俺が嫌いで嫌いで仕方がない。


「悪い、ちょっと顔洗ってくる」


「お、そっか。俺も付いて行くけど良いよな?主に女の子漁り的な意味で」


「……」


俺だけが辛気臭い。

だけれど、コイツには…真田だけには虚偽も、欺瞞も、猜疑も、すべてが通じない。

それがラブコメ同盟。


『なあ懐。ラブコメってあるだろ?あれってラブとコメディーなんだぜ、知ってたか』


『知ってる』


『俺達もそうありたかったよな…毎日笑って、茶番みたいな青春を送ってさ。将来、今のどん底を笑って語れるんだ』


『そうだったら良いね』


『お前も俺も嘘を付かない、砂糖みたいな世界があれば良いのにな…』


これがラブコメ同盟の発端。

俺達が同じ傷を目印に作った、同情と、希望と、挫折の城。


蛇口を捻ると水が勢いよく顔に掛かる。冷たい温度が火照った肌に気持ちいい。


「…落ち着いた。冷静沈着っと」


コツコツとリノリウムの床を踏みしめる音がした。

俺はその人物を知っている。


「懐君」


「霧島さんか、こんにちは」


「懐君」


「今日は良い天気だね」


「懐君」


「大丈夫、小説は順調…」



「嘘を付かなくても良いのよ…?」


言われたくなかった。


それだけは絶対に。


だから言葉を弄した。でも、無駄だった。


「ぷはは、嘘?付いてないよ。それにソースが無い情報は信じない性質でね。いやーごめんごめん」


「…あなたは真田君の前ではそんな風に笑わないわ」


「そうかな?うーんそうかもしれないね」


「私は真田君に貴方の様子がおかしいからって頼まれたの」


真田、お前のやったことは酷く正しい。残酷なくらいに、ただ正しい。

だが、正しいだけでしかない。

俺、僕と言う人間を過大評価している。


「」


このままでは僕は彼女を傷つける。


「」


嘘をで彼女を傷つける。

口を開いたらいけない。口を開いたらいけない。口を開いたらいけない。口を開いたらいけない。口を開いたらいけない。口を開いたらいけない。口を開いたらいけない。


「ねえ」


「」


「懐君」


「」


「私」



「いい加減僕に付きまとうのを止めてくれないかな。メイワクだよ、そういうのってアレ…ストーカーってやつでしょ僕は不味いと思うな」



畜生。

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