プロローグ
2028年2月11日
バングラデシュ 南東部 バンダルバン県タンチ
豪雨は3日前から降り続いていた。
昼を過ぎても空は暗く、臨時診療所の屋根を叩く雨音は一向に弱まらない。
診療所として使われているのは、普段なら集会所か何かに使われているらしい平屋の建物だった。廊下には泥のついた靴跡が幾重にも重なり、入口付近には簡易ベッドに横たえられた負傷者が並んでいる。骨折や裂傷、脱水症状、高熱。連日の豪雨で発生した大規模土砂崩れに巻き込まれた者もいれば、道路が寸断されて何時間も歩いてきた者もいた。
泣いている子供や怒鳴る男の声に、どこかで誰かが吐く音まで混じっている。発電機が低い音を立て続け、消毒薬と汗と泥の臭いが籠もった診療所の衛生環境は最悪だった。
アメリカから派遣された医師、ダニエル・モリスは、とうの昔に腕時計を見るのをやめていた。15分毎に新しい患者が担ぎ込まれ、ここでまともな治療を施せるのはモリスと同じくアメリカから派遣された医師のヘリソンの2人だけだったが、そのヘリソンは1時間前に気絶して倒れ込んでしまい、今や彼1人だった。
最後にまともに寝たのはいつだったか。彼は下手したら患者の“ゲロ桶”に顔を突っ込んで眠ってしまわないか、そんな不安を抱えながらも、寝不足でふらつく足でベッドの上で呻く患者の容態を見ていく。
その時、一瞬の大きなエンジン音と、続いて金属がひしゃげるような、物凄い衝突音が聞こえてきた。
モリスはその音に文字通り後頭部を殴打されたような感覚を覚え、手にしていたクリップボードを叩きつけるようにしてその部屋を飛び出し、音の方向へ向かった。
泥に汚れた白くて古いトヨタ車がレンガの壁に突っ込んでいる。
ブレーキの音はしなかった。いや、聞き漏らしていただけかもしれないが、ドライバーは相当に慌てていたのだろう。
そこへ、同じように汚れた服を着ている看護師も遅れてやってくる。
ナディア・アクテル。
ここでは珍しい、英語を理解できる看護師だった。流暢とは言い難いが、モリスがこの診療所で働くうえでは彼女の存在がほとんど生命線になっている。
運転席から男が飛び出してきた。
ぶつけた衝撃か、額がぱっくりと割れ、血が吹き出している。だがそんなことにはまるで気づいていないのか、後部座席を開け、中からぐったりと足から血を流した少女を抱き抱える。
ほとんどよろめくような姿勢で、その男はモリスに近づき、何かをしきりに喚き立てた。
モリスには分からない。そもそも彼はベンガル語すら分からず、そのために横にいるナディアに通訳を頼んでいる。
モリスは彼女に目配せをした。
しかしナディアは首を横に振る。
「彼の言っていることが、よく分からない」
「ベンガル語じゃないのか?」
「違うと思う。山の方の言葉かも」
それはつまり言葉そのものが分からないということか。
さらに聞こうとした時、喚き続ける男は少女をモリスに押し付けた。思わず一歩後退する。
その少女は10歳を少し過ぎたくらいだろうか。濡れた黒髪が顔に張りつき、腕は力なく垂れ下がっている。素足には泥と血の混じった液体がこびりついていた。
要するに、この男は少女を助けてもらいに来たのだ。
クソッ。また患者が増えた。
医師として有るまじき考えであることは理解している。それでも、モリスは今この状況そのものを呪った。
「この子を処置室に連れていけ」
ナディアにそう伝えると、モリスは救急バッグと必要な器具を取るため、駆け足で自分のオフィスへ戻った。
運転手の男はなおも外で何かを訴え続けている。声が裏返っていた。別のスタッフが何とか会話をしようと試みているが、上手くはいっていないらしい。
やはりベンガル語ではない。ここに暮らす少数民族の言葉なのだろうか。
モリスは「処置室」と今は呼ばれている、ただの物置部屋に入った。無菌室などあるはずもない。
少女は簡易ベッドに寝かされていた。
モリスは手袋をつけると、まず少女の顔を覗き込んだ。
「聞こえるか?」
反応はない。
呼吸が浅い。胸の動きを見ながら気道が塞がっていないことを確認し、ナディアに酸素を用意するよう指示する。脈は弱く、速い。額に手を当てると、手のひらが焼けるように熱かった。
本来なら血圧や意識状態、いつからこうなったのか、どのような経過を辿ったのか、確認すべきことはいくらでもある。だが患者本人は昏睡状態で、連れてきた男から事情を聞くのも今のところ不可能だった。
まず命に関わる異常を確認しながら、出血している足も見なければならない。泥に汚れた深い傷であれば、すでに感染を起こしていてもおかしくはなかった。
そこへ男の看護師が入ってくる。
マン・チン・マルマ。
英語はほとんど話せないが、同じ医療従事者である以上、求められたことは的確に行う男で、モリスがここで信頼しているスタッフの1人だった。少なくとも、数日間一緒に働いたことで、壊滅的に意思疎通ができなかったということは記憶にない。
モリスが合図すると、マン・チンは清潔なタオルと器具を準備する。
余計な刺激を与えないよう、傷の周りを慎重に拭き、泥と血を取り除いていく。
傷が見え始めたところで、モリスは手を止めた。
皮膚が裂けている。一か所ではない。半円状に並んだ傷があり、足の反対側にも同じような痕がある。
「……これは歯型か?」
マン・チンが覗き込む。
「Dog?」
モリスは首を傾げた。
犬にしては傷の幅が広い。牙による深い傷とも違い、歯の並びも妙だった。
その時、ナディアが部屋へ飛び込んできた。
どうやらあの男からどうにかして事情を聞き取ったらしい。少女の足を指差し、次に自分の口を指差す。
「その子、人に噛まれた。何時間か前」
「人?」
モリスは彼女を見る。
「それは本気か?」
ナディアは頷く。
彼女自身、信じられないという顔だった。だが、あれだけ慌てて入ってきた以上、それなりに確かな情報なのだろう。
「誰に?」
ナディアは首を振った。
そこまでは分からないらしい。
人に噛まれた。
災害の混乱で誰かに襲われたのか、薬物か何かで錯乱した人間だったのか。考えようとすれば理由はいくらでも思いつくが、幼い少女の足へ噛みついた理由だけは理解できなかった。
だが今は、そんなことはどうでもいい。処置が先だった。
「生理食塩水。もっと持ってきて。傷を徹底的に洗う」
ナディアが頷く。
「破傷風の予防接種歴も確認したいが……あの男から聞けるか?」
「やってみる」
「あと抗菌薬。アモキシシリン・クラブラン酸。静注で準備してくれ」
マン・チンが薬品棚の方へ動く。
必要なら壊死した組織を除去しなければならない。その準備もいる。
少女の脚に付着した残りの泥を、生理食塩水で洗い流していく。透明な液体が傷口を伝い、赤黒い血と一緒にトレーへ落ちた。
少女は動かなかった。
ナディアがベンガル語で何かを呼びかけても反応はなく、マン・チンが少女の肩を軽く叩いても変わらない。
モリスは眉を寄せ、再び頸動脈に指を当てた。数秒待って位置を変え、もう一度確かめる。
「……ダメだ。脈が止まった」
ナディアが彼を見る。
モリスはすぐに胸骨圧迫を始めた。
周囲の音が一気に遠くなる。
一定のリズムで圧迫を続ける間に、マン・チンが酸素バッグを持ってきて換気を補助する。付き添いの男が入口で何かを叫んでいたが、誰かが彼を押しとどめていた。
圧迫と換気を繰り返し、何度か頸動脈を確認したが、脈は戻らない。自発呼吸もない。
それでも続けた。
どれほど時間が経ったのか、モリスには分からなかった。
もう一度、脈を確認する。
何もない。
少女の胸は、自分たちが動かしている時だけ動いていた。
モリスは手を止めた。この子はもう助からない。
その判断をすることだけは、この数日間で嫌というほど上手くなってしまった。
モリスは時刻を告げ、マン・チンがクリップボードに記録した。
手袋を外し、大きく息を吐く。
次の患者が待っている。ここでは1人にいつまでも時間を使えない。それが何度も繰り返されてきた。
「彼女を覆える布を用意して、ここを消毒してくれ」
ナディアが頷いた。
どうやって、あの男に少女の死を伝えようか。
見るに、彼はこの子の父親だろう。
……クソ。
ナディアは男に話をするため、部屋を出ていった。マン・チンも何かを取りに行くため、後を追うように外へ出る。
処置室には、モリスと少女の遺体だけが残された。
隣の部屋では、まだ別の負傷者たちが待っている。
モリスは簡易ベッドに背を向け、ぐったりと椅子に座り込んだ。天井を見上げると、疲れと絶望が容赦なく彼を叩き潰そうとしていた。
「Doctor」
ナディアの声がドア越しに聞こえた。
「容態が急に悪くなった患者が2人いる」
モリスは目を閉じたまま答える。
「分かった。すぐ行く」
そうは言ったものの、椅子から立ち上がる気力が起きない。
眠るつもりはなかった。ほんの数秒だけ休むつもりで、ゆっくりと目を閉じた。
その時、背後で小さな金属音がした。
モリスは目を開けなかった。
マン・チンが戻ってきたのだろう。
簡易ベッドの脚が床を擦るような音だった。
振り返らずに話す。
「すまない。ナディアに伝えてくれ。モリスは少し休むと」
マン・チンにも理解できるように、ゆっくりと簡単な英語で言う。
返事がない。
いつもなら「OK」だとか「Yeah」だとか、何かしら返事がある。
モリスは目を開け、ゆっくり振り返った。
少女が、簡易ベッドの上で上半身を起こしていた。
見開かれた目が、モリスをじっと見据えている。
次の瞬間、少女は両手を伸ばし、彼へ掴みかかろうとした。
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2028年2月17日 バングラデシュ ダッカ
**TOP SECRET // SCI // ORCON // NOFORN**
**特別取扱区分:V**
**記録番号:DHK-SA/0516-0142**
**件名:バングラデシュ南東部事案/緊急情報照合**
**通信方式:区画化情報用暗号通信回線**
**参加:CIAダッカ支局、CIA南アジア担当、NSA、DIA、NGA、国務省情報調査局**
**追加参加には発信元承認を要する**
本記録には人的情報、通信情報及び国家偵察資産から得られた情報を含む。情報源及び収集手段を特定し得る部分の再配布を禁ずる。
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01:42 ダッカ支局
南東部事案について暫定評価を更新する。
過去48時間、チッタゴン、ランガマティ、バンダルバン周辺で通常を大きく上回る軍・政府通信が確認されている。携帯通信が断続的に停止した地域では衛星電話の使用量が増加しており、公開SNSでも14日夜以降、軍車両、道路封鎖、病院周辺での発砲を撮影した映像が相次いでいる。相当数は既に削除されている。
現地政府から大使館への公式説明は「感染症への対応に伴う局地的な治安上の混乱」。感染症の名称、確認患者数、死亡者数について回答を求めたが、現時点で応答はない。
何らかの重大事案が進行しているとの評価については確信度を高に変更する。ただし、事象の性質については判断を保留する。
昨日まで検討していた武装勢力による治安事案、大規模暴動、軍または治安機関内部の政治的不安定化という各仮説については、現在確認されている部隊配置と通信内容に整合しない点が増えている。特に、チッタゴン丘陵地帯における通常の対武装勢力作戦として説明することは難しい。
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01:51 ラングレー/南アジア担当
了解。
ダッカは、KNF、UPDFその他武装組織に対する治安作戦という第一仮説の確度を引き下げるべきと見ている、という理解でよいか。
整合しない観測事項を示してほしい。
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02:03 NSA/フォート・ミード
通信情報から補足する。
バングラデシュ陸軍第24歩兵師団に関連すると評価している通信網と、国境警備隊南東地域の通信量は14日未明から急増している。一部の下位戦術通信を復元したが、既知武装組織、敵陣地、武器、攻撃方向に関する報告は予想より少ない。
反対に頻出するのは、民間人、患者、死亡者、病院、隔離、搬送、道路封鎖。
15日夕方以降、「死亡確認後」「再度活動」「収容区域から分離」「接触を避けろ」に相当する表現が、複数の独立した通信網で現れている。
翻訳誤りを疑い再解析したが、結果は変わっていない。
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02:11 ラングレー
復元した通信を第24歩兵師団隷下部隊のものと判断している根拠は?
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02:14 NSA
発信地点、使用周波数、過去の通信パターンとの照合から、第24歩兵師団隷下部隊に帰属すると高い確度で評価している通信が複数ある。
別系統については国境警備隊南東地域のものと評価している。
ダッカの軍司令部とチッタゴン方面との暗号通信も急増している。こちらは通信の存在のみ確認しており、内容は取得できていない。
通信量の増加そのものは、通常の国内治安作戦でも説明できる。
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02:27 DIA当直
軍事面からも、大規模な対反乱作戦または内戦という評価には同意しない。
NGA提供画像と公開映像を照合した。第24歩兵師団の車両は山岳部へ集中せず、チッタゴンからランガマティ方面の幹線、病院、橋梁、地方行政施設へ分散している。305歩兵旅団に関連するとみられる部隊についても、攻撃準備より交通統制と地域封鎖に近い。
15日未明以降、少なくとも3か所で配置放棄の形跡がある。残置車両に大規模な戦闘損傷は確認できないが、計画された撤収にも見えない。
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02:36 NGA/スプリングフィールド
確認した。
NROの光学収集衛星USA-427及び合成開口レーダー衛星USA-431の画像では、ランガマティ南方の道路上に放置された軍用車両と、別地点の医療施設外周に集まる軍車両を確認している。
大規模な交戦痕跡はない。
14日まで遡って再処理し、同地域を次回収集の優先対象へ追加する。
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02:44 ラングレー
了解。ダッカ、現地情報源から新規報告は。
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02:53 ダッカ支局
MASON-4は15日午後からランガマティ・サダルに入り、ランガマティ総合病院を中心に現地確認を続けている。
本人は以前から同病院及び地区保健当局の関係者に接点を持っており、今回は既存の接触経路のみ使用させている。立入制限区域への侵入、軍施設または部隊配置への接近は指示していない。
最後の定時連絡は15日23時18分。それ以前に映像2本、静止画11枚、状況報告を送信している。
以後、こちらからの呼び出しに応答していない。
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02:57 ラングレー
本人からの送信であることは確認したか。
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03:04 ダッカ支局
高い確度で確認している。
専用端末の暗号認証及び本人確認手順は正常。添付音声も過去記録と一致している。
端末奪取の可能性は完全には排除できないが、本人による送信との評価は高い。
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03:09 ラングレー
映像を送ってほしい。
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03:17 ダッカ支局
送信した。
映像2本、静止画11枚、最終状況報告を含む。
MASON-4からの最後の送信は以下。
「死亡確認済み対象の再活動を確認。発砲後も行動継続。負傷者収容区域でも同様の事象が発生したとの情報あり。軍が病院敷地を封鎖中。これ以上の接近は困難。現在地を離れる」
以後、応答なし。
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03:26 ラングレー
受領した。
NGAは撮影地点、DIAは映像内の部隊、技術部門は改変の有無を確認。NSAは同地点、同時刻の通信を再検索してほしい。
MASON-4への再接触はもう一度試みる。
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03:38 NSA
時刻が一致する通信を検出した。
映像送信と同時間帯に、同地区の戦術網で緊急通信量が急増している。復元部分に「撃っても止まらない」と翻訳できる箇所が一件、その後の別送信では「頭部」に相当する語が繰り返されている。
別担当による再解析に回した。
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03:45 DIA
映像内の部隊は第24歩兵師団系統である可能性が高い。
通常の群衆鎮圧とは見えない。射撃中の兵士とは別に負傷者を回収しようとしている兵士がおり、その直後に隊形が崩れている。
医療担当にも映像を回し、死亡判定そのものが誤っていた可能性を評価させる。
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03:58 NGA
撮影地点はMASON-4の報告地点と一致する。
映像が別地点で撮影された形跡はない。真正性については技術解析待ち。
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04:06 国務省情報調査局
周辺国及び主要国の動きについて追加する。
インドはトリプラ、ミゾラム方面の一部国境地点で部隊と医療要員を増やしている。ニューデリーからの公表はない。
中国側の動きはさらに早い。在バングラデシュ中国大使館と本国間の通信量は13日朝から増加しており、昨夜は通常時間外に複数の大使館車両が移動した。職員家族の一部が移動準備に入ったとの情報もあるが、未確認。
北京が何を把握しているかは不明。
日本にも小規模ながら通常とは異なる動きがある。在バングラデシュ日本大使館は15日午後から在留邦人の所在確認を再実施し、ダッカ国際空港の夜間運用、燃料補給、駐機、政府航空機が短時間で到着した場合の処理を個別に照会している。
日本政府内で自衛隊機または政府専用機の派遣を具体的に検討、あるいは準備する意思があると判断できる兆候は、現時点では確認できていない。
フランスも在留国民の連絡態勢を更新し、ダッカ空港が使用不能となった場合の退避経路と、ジブチ所在部隊を中継に使用する際の条件について非公式に確認を始めている。
いずれも正式な退避措置には移行していない。
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04:29 ラングレー
日本、フランス両政府への正式照会は行わない。
日本については横田、フランスについては既存の軍・外交連絡系統を通じ、通常外の輸送準備または待機措置が始まっていないか確認してほしい。
相手国の計画自体を求める必要はない。我々が見ているものを、彼らも見ているのかを確認したい。
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04:43 NSA
追加情報。
最初の地点から約70キロ離れた別の通信網で、「死亡」「咬傷」「死亡後」に相当する語が同一交信内に存在することを確認した。翻訳確度は中。
同一事象を指しているかは不明。
また、バングラデシュ軍中央及びDGFIに関連するとみられる通信量が過去6時間で急増している。内容は取得できていない。
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04:50 ダッカ支局
DGFI側には1系統の情報源がある。
直接この件を照会すれば、こちらの関心を露出する可能性が高い。通常接触の範囲で、南東部への要員移動と軍・情報機関間の臨時調整の有無だけ確認する。
MASON-4については依然応答なし。
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05:19 NSA
「頭部」に関する通信の再解析が終了した。
「頭部損壊を確認した対象は再活動していない」
この解釈が最も自然。
別の通信では「死亡者を負傷者収容所へ入れるな」と明示的に命令している。同じ旅団内の異なる二部隊から確認された。
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05:25 ラングレー
DIAは時系列を作成し、通常の負傷者処置を行っていた部隊が、いつ死亡者の分離を始めたか確認してほしい。
NSAは、その指示が上級司令部から下達されたものか、現地部隊の判断から始まったものか可能な範囲で判定する。
追加の人的情報源を現地へ投入する判断は保留する。新規投入の要否は作戦局と長官室へ上げる。米政府要員の直接投入または軍の支援を必要とする場合は、国家安全保障会議側へ上申する。
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05:42 国務省情報調査局
照会結果。
日本から在日米軍への正式な支援要請はない。ただし過去24時間以内に、日本側から南アジア方面での米軍輸送拠点使用実績と、第三国へ航空機を一時待機させる場合の一般的な調整方法について非公式な問い合わせがあった。
フランスも正式な退避決定は行っていない。一方、ジブチ所在部隊に対し、輸送機の運用状況、受入能力、退避者を一時収容する場合の即応可能時間について照会している。
日仏ともに退避開始の段階ではない。
ただし、平時の確認作業からは外れ始めている。
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06:02 ラングレー/南アジア担当
評価を改める。
武装勢力による攻撃、通常の暴動、軍内部抗争は主要仮説から除外する。
「未知の医学的事象に起因する複数地点の治安危機」を第一仮説とする。
死亡確認後の自発運動については、MASON-4の報告、バングラデシュ軍通信、別地点からの通信が相互に整合している。技術解析終了までは完全確認扱いにしない。
ただし警戒基準は超えた。本件を即時配布へ変更する。
国家安全保障会議インド太平洋担当を追加する。
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06:04 システム
国家安全保障会議インド太平洋担当が参加しました。
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06:11 国家安全保障会議/インド太平洋担当
これまでの記録を確認した。
現時点では、本件のみを理由とした大統領への緊急報告は求めない。ただし通常の地域情勢報告として処理する段階も過ぎている。
国家情報長官室へ即時共有し、本朝の大統領日例情報報告への収載審査を求めること。
国家安全保障補佐官向けには06時50分までに一枚にまとめてほしい。
記載事項は、複数の情報源から確認されている事実、依然確認できていない事項、バングラデシュ政府・軍・治安機関が実際に取っている措置、中国、インド、日本、フランス、その他の国で確認されている非公表の行動変化。
原因についての推測は不要。
中国が我々より早い段階で事態を把握していた可能性についても評価は付けず、確認された行動と時刻のみ記載する。
MASON-4から再接触があった場合は通常の報告順序を飛ばし、ラングレー当直、本件担当、国家情報長官室へ同時に即時報告すること。
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06:18 ダッカ支局
了解。
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06:30 ダッカ支局
MASON-4への最後の呼び出しにも応答なし。
専用端末は、23時18分の送信以降ネットワーク上に再出現していない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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