第9-1話 ちょっとした仕掛け
生徒会。そのワードに驚きつつも、ピンとこなかった。
そういえば入学式の生徒代表で、生徒会会長が話していたわ。でも私の婚約破棄と生徒会に、なんの関係があるのかしら?
小首を傾げているたら、ヴィンセント先輩が答えを教えてくれた。
「シンシアの悪い噂を意図的に流している連中に、ちょーっと痛い目を見て貰うだけよ」
「(あ、先輩……目が笑っていない)……痛い目って?」
「ふふん♪ たいしたことはしてないわ。ただ噂が大きくなっているでしょう? これ以上広まったら、本当に辺境伯が総力をあげて動いたら不味いと思って、生徒会長に相談してみたのよ。生徒会長も馬鹿じゃないから、その意図は分かっていたみたいだし、元々噂に関しては悪質で風紀の乱れにもなるから、噂の発生源について調査中だったようよ。だから吹聴していた生徒は厳重注意または内申を下げることになるわ」
「!?」
ヴィンセント先輩がすでに行動を起こしてくれていたなんて、知らなかった。しかも生徒会を巻き込むなんて考え、私には逆立ちしても出てこない。
これで噂は解決する?
「ありがとうございます。……私も両親に頼るのは悪手だと思って無視を貫いていたのですが、それが良くなかったのかもしれません」
「いいのよ。悪いのは調子に乗った生徒たちなのだから。それと知り合いに頼んで魔法省の推薦枠に、シンシアの婚約者の名前を入れておいたわ」
「え? どうして?」
一瞬、ヴィンセント先輩の意図が分からずに眉を顰めた。私の反応を見てヴィンセント先輩は言葉を付け足す。
「これで彼は魔法省の就活で忙しくなるだろうし、何より魔法省の面談までには是が非でも、辺境伯令嬢のシンシアと婚約破棄していないと推薦は白紙になるわ」
「あ、そっか。私とレックスの婚約は辺境伯に婿入りするのが前提だけれど、魔法省に勤めるなら王都での勤務が数年は必須。魔法省に勤めるなら、私と婚約していると勤務が難しいと必ず言及される。だからその前に婚約破棄しないといけないのね!」
「その通り。シンシア有責での婚約破棄に固執せずに、とっとと自分の非を認めて婚約解消しておけば良かったのにねぇ」
ヴィンセント先輩は、フフフッと悪い笑みを浮かべていた。その姿を見ていると口元が緩む。
それにしても、すごい。レックスの夢を叶う手伝いになってしまうが、それでも向こうから婚約破棄をする事実が作れるのは嬉しい。こんな短時間に打開策を考えつくなんてヴィンセント先輩は本当にすごい!
「しかも今のシンシアは特待生の相棒として通常授業は免除になっているから、レックスと会う機会はない。焦る彼なら期末試験当日にシンシアのクラスに出向いて、婚約破棄の書類を持ってくるわ」
婚約破棄するタイミングまで予測が立てられるなんて、凄すぎる。
「ヴィンセント先輩、本当にすごいです。私では考えつきませんでした」
「沈黙だけが戦いじゃないわ。舐められないように反撃するのも大事よ」
「はい」
「あー、それと」
「?」
ヴィンセント先輩はとびきり笑顔で言葉を続けた。
「その婚約者の推薦はしたけれど、実力があるかは──彼次第だもの。フッフッフ」
「な、なるほど(確かにいくら推薦とは言っても実力がないと入れないものね)」
前世で闘病生活が長かったため人と関わることが少なかったし、今世の辺境地は一人前になって当たり前だったから、誰かに頼ることが苦手だった。
でも──。
「シンシアはもっと頼ることをこの学院で学ぶべきだわ」
「もっと……頼る。今もヴィンセント先輩に頼り切っているのに?」
「そうよ」
これ以上を望んでも良いのだろうか、図々しいと思われないか。負担になる気持ちをヴィンセント先輩はささっと取っ払ってしまう。
「それに気に入っている人に頼られるのって、嬉しくもあるわ」
「嬉しい……。め、迷惑ではなく?」
ヴィンセント先輩は私の額を小突いた。痛くはなかったけれど、少しビックリしてしまう。
「迷惑だって思ってないって言っているでしょう。もう甘え下手なんだから。そのあたりはこれから私が……これでもかと伝えてあげればいいのか……ふふっ」
「?」
最後のほうが聞き取れなかったけれど、ヴィンセント先輩が人格者すぎる!
レックスが私に黒い噂を流したのは将来魔法省に就職と、ライラと恋人関係になるためだけに私有責の婚約破棄を計画した。
この計画は私がすぐに折れると思っていたのだろう。私が噂を気にせずに学生生活をしていることで、噂の内容が酷くなり大事になっていった。
でもそれだけ……?
どこか引っかかる。
そんなことせずに誠心誠意、『自分の夢のためだ』と話して、頭を下げてくれたなら婚約解消には応じたのに……。あくまで私有責で悪者にして婚約破棄することに固執した。そもそもライラさんと浮気していたから、どっちにしても許す気はないわ!
婚約問題のことも両親が介入する前に、収拾が付きそうだ。今までなら実家に戻るのも良いかもしれないと思っていた。でもヴィンセント先輩やアンジェやキャシーと出会って、その考えは変わった。
みんなと学院生活を送りたい。だから両親に戻ってくるように言われても、戻らないだけの実績と理由を見つけなきゃ。
人外対策として婚約者がいないと求婚や略奪婚しても良いと思っているから、婚約解消したら新しい婚約者が必要……。
ふとヴィンセント先輩と目があった。
「……!(ヴィンセント先輩が新しい婚約者だったら…………ふああああ……!)」
「(すごく私のことを持ち上げてくれているけれど、私個人としてはシンシアを早く口説きたいから……下心でいっぱいなのだけど、気付いてない? セーフ? がっついてない? 私はすでに婚約は破棄しているし、あとはシンシアだけ)……何も事も迅速に。切り札の使い処も参考になったかしら?」
「はい!(私の状況のことも考えくださって……どうしよう、すごく嬉しい。これは惚れてしまう……。うう、でも駄目よ。アプローチは婚約破棄が終わってから!)」
「「(婚約破棄が終わったら、好きだってアピールする!)」」




