第20章 静寂の塔――不自然な戦場
影の中を進む。
音はない。
気配もない。
存在すら感じさせない。
それが、カナヴィンの新たな戦い方だった。
アサシン。
正面から敵を打ち倒す戦士ではない。
敵に気づかれる前に。
敵が反応する前に。
敵が自分の死を理解する前に終わらせる。
それが暗殺者。
カナヴィンは影の中を移動しながら、敵の塔内部を進んでいた。
左側の小型ジェムは破壊した。
敵モンスターも倒した。
そして現在。
次の目的地。
中央レーン。
「……」
カナヴィンは影から姿を現す。
周囲を確認する。
中央エリア。
そこには巨大な空間が広がっていた。
左と同じように、小型ジェムが存在している。
しかし――
「……」
静かすぎる。
カナヴィンはゆっくり歩く。
カタ……。
自分の骨の足音だけが響く。
敵の気配。
なし。
モンスターの気配。
なし。
罠の気配。
なし。
「……?」
カナヴィンは首を傾げた。
「誰もいない?」
彼は周囲を見る。
隠れている可能性も考えた。
敵はA+レベルのモンスターを配置していた。
ならば、中央にも防衛がいるはず。
しかし。
どれだけ探しても。
何もいない。
「……」
カナヴィンは小型ジェムを見る。
「まさか……」
彼は近づく。
「本当に守ってないのか?」
返事はない。
当然だ。
宝石は喋らない。
……たぶん。
カナヴィンは少し考えた。
「いや、待て」
腕を組む。
「これ、逆に怪しくないか?」
何もない。
敵もいない。
あまりにも簡単すぎる。
普通なら喜ぶ場面だ。
だが。
戦闘経験を積んできたカナヴィンには分かる。
簡単すぎる勝利ほど危険なものはない。
「……」
しばらく考える。
そして。
「……まあいいか」
諦めた。
「考えても分からない」
カナヴィンらしい判断だった。
深く考えることもある。
しかし、分からないものを永遠に考えるタイプでもない。
「敵がいないなら、壊すだけだ」
彼は短剣を構える。
そして。
小型ジェムへ攻撃を開始した。
カンッ!!
カンッ!!
カンッ!!
「……」
硬い。
とにかく硬い。
「またか……」
カナヴィンはため息を吐く。
「なんでジェムってこんなに丈夫なんだ?」
敵モンスターより硬い。
壁より硬い。
もはや、この塔の素材全部ジェムで作った方がいいのではないかと思うほどだった。
「攻撃力じゃなくて耐久力で勝負してるのか?」
しかし。
少しずつ。
確実に。
ヒビが増えていく。
カナヴィンは攻撃を続ける。
時間が経過する。
そして――
バキィィィン!!
中央小型ジェムが砕け散った。
【中央レーン小型ジェム破壊】
【報酬獲得】
カナヴィンは表示を見る。
「……」
特別なことはない。
ただ、勝利への道が一つ開いただけ。
彼は周囲を見る。
「それにしても……」
腕を組む。
「本当に誰もいなかったな」
不自然。
あまりにも不自然。
しかし。
彼は肩をすくめた。
「まあ、いいか」
そして再び影へ入る。
次。
右側。
カナヴィンは移動する。
敵の右レーン。
そこに到着した瞬間。
彼は止まった。
「……」
また。
何もいない。
敵モンスター。
なし。
防衛兵。
なし。
罠。
なし。
あるものはただ一つ。
小型ジェムだけ。
「……」
沈黙。
カナヴィンはゆっくり近づく。
「……」
ジェムを見る。
「……」
周囲を見る。
「……」
もう一度見る。
そして。
「……何?」
思わず声が出た。
「いや……」
彼は困惑する。
「さすがにおかしくないか?」
左側。
敵はいた。
A+モンスター。
強力だった。
なのに。
中央。
誰もいない。
右。
誰もいない。
「……」
カナヴィンの青い炎が揺れる。
何かがおかしい。
敵が防衛を放棄している?
それとも――
何か別の目的がある?
「……」
彼は少し警戒する。
しかし。
数秒後。
「……」
肩を落とした。
「まあ……」
短剣を取り出す。
「考えても分からない」
彼はジェムを見る。
「なら壊すだけだ」
そして。
再び攻撃。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
時間が過ぎる。
ジェムの耐久値は少しずつ減る。
「……」
カナヴィンは無言で攻撃を続ける。
何度も。
何度も。
そして。
最後の一撃。
バキィィィン!!
右側小型ジェム。
破壊。
【右レーン小型ジェム破壊】
カナヴィンは確認する。
三つの小型ジェム。
残りなし。
これで敵の防衛力は大きく下がった。
「……」
彼は敵の巨大ジェムを見る。
ここまで来れば。
あと一つ。
敵の本体。
巨大ジェムを破壊すれば勝利。
カナヴィンは歩き出す。
しかし。
頭の片隅に疑問が残っていた。
「……」
なぜ。
敵はいなかった?
なぜ。
Sランクの塔なのに。
防衛が薄すぎる?
「何かあるはずだ」
彼は呟く。
しかし。
答えはまだ出ない。
そして。
ついに。
敵の巨大ジェムの前へ到着する。
巨大な空間。
中央に存在する。
赤黒く輝く巨大な宝石。
それは。
自分の白いジェムとは正反対だった。
白と黒。
光と闇。
守る者と侵略する者。
カナヴィンは立ち止まる。
「……」
彼はその巨大ジェムを見る。
その瞬間。
彼の青い炎が――
大きく揺れる。
そして。
ゆっくりと。
燃え上がる。
「……」
カナヴィンの眼窩に宿る青い炎。
それは今までとは違う。
警戒。
興奮。
そして――
戦意。
巨大な炎となって、激しく燃え上がった。




