雑談の結果と、失われた者に対する情報共有
大学時代、サークルの飲み会で先輩から聞いた話があります。
当時は酔いも手伝って笑いながら聞いていましたが、今思い返すと妙に引っかかる部分が多く、忘れられずにいます。
その内容を、できるだけ当時のまま書き起こしました。
軽い気持ちで読んでいただければ。
大学時代の話です。
所属していたサークルの飲み会にてOBの方と話をする機会があり、その折にその人から聞きました。
そのOBの人・・・Aさんとしましょうか・・・。
中肉中背で、特に目を引く顔立ちではありませんが、面倒見の良い方だったようで、先輩方からは慕われていました。
また、こう言った飲み会にも頻繁に顔を出してくれていたので、材工時期が異なる後輩にも知られた存在でした。
反面、社会人になってからの話題は豊富な割に、在学中の話は殆ど聞いた事が有りませんでした。
その日は、たまたま興が乗ったのか、私たちのテーブルにて、懐かしい学生生活の思い出話をしてくれました。
Aさんは入学とほぼ同時に、このサークルに参加したそうです。
その時、同じ新入生と言う事で、BとCという友人ができて、学生生活の最初から3人で行動を共にしていたそうです。
とにかく馬が合ったのか、この3人でいる時は常にご機嫌で、楽しい大学生活だったと、懐かしそうに話しだしました。
転機は3年時の夏のテスト休み。
Aは地元出身の自宅住まいだったので、集まるのはもっぱら下宿だったBかCの部屋だったそうです。
その時も、いつもの様にBの部屋で、雑談に花を咲かせていたそうです。
と、いつも控えめなCが、突然「夏休み前に何かしたい」と言い出しました。
Cは、山陰出身で上京しており、移動には非常に時間がかかるのだそうです。
で、例年の夏はテスト休み中は3人で遊んで、夏休みには帰省、後期授業が始まるまでは田舎で過ごすというパターンだったそうです。
つまり、この集まりが終わると、後期授業までお別れって訳です。
ところが、年次も3年となると、来年は就職活動や卒論などのイベントが目白押しです。
もしも何かするのであれば、今のタイミングであろう・・・と、言う訳です。
なるほど、主張はもっともです。
3年間もいっしょに居て、そう言えば何か記念的な事はしたことがありません。
後で振り返った時に、青春を感じる様なイベントが欲しいとの事でした。
Cは、結構裕福な家の出だったみたいです。
所謂、地元の有力者の息子であったらしく、経済的には恵まれていました。
反面、様々な柵に縛られていて、実家の指示は絶対って感じだったみたいです。
そういう状況で、卒業してしまえば田舎に帰らないわけにはいかない事情もあり、都会で過ごした思い出が欲しかったのでしょう。
そういう話が出れば、もともと仲良し3人組です。
早速何をしようかと話し合いを始めまして、出て来た解答が「ナンパ」でした。
しかも、大学構内で声をかけるんじゃなくて、繁華街まで出張ってやってみようじゃないかと、大遠征計画が立ち上がりました。
まあ、社会人になったらなかなか実行できないでしょうし、失敗しても、今の学生時分なら笑い話にできます。
特に、Cは地元では有名人です。
結果がどうであれ洒落にならない結果になるでしょう。
なら、旅の恥は搔き捨てとばかりに、学生時代の間に体験しておきたいと考えたでしょうし、AとBも思い出の為に笑いものになる覚悟を決めたのだとの事でした。
ソコソコ長い付き合いの中で、Cが田舎に帰りたがっていない事は薄々感づいていました。
しかし、同時に律儀で正義感の強いCが、実家の願いを無視して家を出るという選択をしがたいのも分かっていたそうです。
この計画は、Cの束縛されていない時間の、最後のビッグイベントとして稼働を始めた訳です。
当日は、昼過ぎに渋谷界隈へと出陣・・・。
改札を出たのに地上に出られず右往左往したとか、109の前で記念写真を撮って周囲に笑われたとか、なかなかに貴重な体験を重ねます。
で、肝心のナンパの成果ですが・・・。
おやつの時間を挟んで、そろそろ夕食の時間かって時分まで粘ったそうですが、結果は残念ながら成果なし。
そもそも女性に声をかけるのも慣れていない男が3人群れているわけですから、単独の女性には敬遠されちゃいます。
また、二人組や四人以上だと余りが生じてしまい、お互いに気まずい。
そんなこんなで、時間は過ぎて・・・これ以上遅くなると、せっかく誰かを捕まえても遊んでいる間に帰れなくなっちゃうと判断し、遠征断念を決断したそうです。
戦果ゼロでしたが、一日中みんなと他愛もない時間を過ごせたCは、それなりに満足した様でした。
「何年後かに、また、リベンジしようぜ」
男三人の友情の誓いの元、撤収にかかります。
が、そこで状況が変わります。
たまたま前を通りかかった女性の3人組の一人が、Cに声をかけて来たのです。
かなり積極的な人らしく、あまり乗り気じゃ無さそうな残りの二人を引っ張る様にしてAさんたちと合流し、カラオケで一頻り盛り上がったのだそうです。
で、いよいよお開きの時間です。
Aさんたちは相談しました。
どうも、3人娘の一人、Dは、Cが気に入っているみたいだ。
だから、DCをペアにして、残りのABとEFを適当にペアにして解散すると良いのでは?と。
あわよくば、AもEかFと上手いこと行くかも・・・って感じです。
計画は半分成功。
つまり、CとDは連れ立って仲良く去っていき・・・ABEFは、それを見送った後に解散と言う運びです。
なんとか、AEとBFのペアに分かれる事まではできたものの、各々、別の改札にてお別れ。
辛うじてお互いの電話番号を交換はしたものの、まだ携帯電話などなかった時代故に、自宅の電話番号です。
さすがに無邪気にかけてみる気にならず、Aの夏は終わったとの事。
で、新学期です。
心機一転、新たな出会いに期待しつつ、とりあえず日常に戻ってヘラヘラ過ごせればいいやって思っていたのもつかの間、学校で突然目つきの鋭い男たちに囲まれたA。
相手は噂に名高いMIB・・・では無くて、警察の刑事さんだったそうです。
なんでも、学校側に話を聞きに来ていて、その過程でAとBの名前が出たのだそうです。
とは言われても、AもBも警察のご厄介になる様な記憶はありません。
せいぜい自転車で車道を逆走して怒られたくらいしか心当たりが無く、二人して狼狽えていたところ、刑事さんは事情を説明してくれました。
・・・その内容は、驚くべきものであり、かつ、途方に暮れるものだったそうです。
つまり、Cが行方不明になっている・・・との話でした。
なるほど、ひと夏の間、一切連絡していないので事情が伝わってきていないのは納得です。
ただ、それがどうして自分たちとかかわるのか?
例年、Cは帰省してしまい連絡なしで新学期に再会がパターンです。
つまり、失踪したにせよ事故にあったにせよ、帰省後の話しである以上、A達には預かり知れない内容の・・・はず・・・ですよね?
そこで刑事さんは不可解な情報を提示します。
つまり、Cは帰省していない・・・と。
Cの部屋には帰省の為の荷物がそのまま残されており、しばらく人の出入りの形跡はなかったとの事。
電気や新聞も止めて在り、ガスの使用も認められない状態だったそうです。
電気や新聞を律儀に止めている辺り、几帳面なCらしいとか、愚にも憑かない事を考えながらAは、刑事さんの話を聞いていたそうです。
若干、現実逃避してたみたいですね。
刑事さんたちは、Cの地元で出された失踪届に基づいてCの足取りを追うべく地元を奔走し、結局手掛かりなしとなったのだそうです。
で、学校まで事情聴取に来たところで、交友関係の情報からAとBが浮上したという事です。
刑事さんはお決まりのセリフを口にします。
「Cさんに最後にあったのは何時ですか?」
渋谷でナンパ・・・とは、ちょっと恥ずかしかったそうですが、変に誤魔化して怪しまれるのも得策じゃありません。
AとBは、別々の場所で当日の話を詳細に伝えたそうです。
で、各々の話を突合すると、矛盾が無い。
AとBは、失踪の直接原因の容疑者からは外れたみたいです。
と、ここで次の情報源候補が浮上します。
・・・つまり、ナンパで意気投合した(のは、CとDだけですが・・・)相手の方が、さらに先の情報を知っていると・・・。
特にDは、少なくとも現時点で確認できるCの最期の同行者です。
刑事さんたちも、今までの調査では全く出てこなかった情報に色めき立ちます。
DがCを同行したかは知りませんが、少なくとも広大な東京のどこかで行方不明の人物を探すよりも、東京の何処そこから足取り不明となった人物の方が探しやすいのは間違いなさそうです。
ナンパ相手程度の関係で、刑事さんに電話番号を伝えるのはちょっと抵抗があったものの、背に腹は代えられません。
連絡先を伝えて、その日はお開きになったそうです。
で、翌日、Aの所へEから電話が入ったそうです。
曰く「関係ない事件に巻き込むな」と・・・。
ここで問題なのは、AもBも各々の相手としか連絡先を交換していないという事です。
つまり、CとDがよろしく渋谷の街に消えた後、各々も宜しくしようとAEとBFペアに分散し、その後にお互いの連絡先を交換したという事です。
結局、AはDの連絡先を直接は知らないんですね。
ただ、3人組の一員であるEの連絡先は分かるので、そこから芋づる式に追いかけられると考えてたわけです。
これは、Bも同様で、FからDが辿れると思ってたみたいです。
警察もこの情報から、失踪事件が解決するまではいかないまでも何らかの進展を期待してEへと連絡したみたいです。
が、結論から言うと状況は進展しませんでした。
・・・むしろ、より迷走を始めます。
困惑すべき事実ですが、EからもFからもDへのルートは繋がっていませんでした。
彼女たち曰く「私たちは、もともとEとFの二人組だった」との事。
・・・正直、ここまで聞いた時にはAさんが何言ってんのかよくわかりませんでした。
奇妙な事に、カラオケに一緒に行った経緯が、ABとEFでは若干異なるのです。
前者は「3人組同士で意気投合した」と思ってました。
後者は・・・「男3人に女1人の集団に、合流した」と認識しているのです。
EF・・・彼女たちは、明らかにペアになっていたCDと一緒に行動しているABを、「付き合っているカップルの楽しい時間に、空気も読まずに同行している無粋もの」と考えていたそうです。
そして、「二人の時間をCDに持ってもらって、ハッピーになってもらう。その為に、ABを引き剥がしてあげよう」と、行動したのだそうです。
つまり、DはEFの関係者では無くて、ABCの身内と考えてたわけです。
・・・なるほど、関係ない事件に巻き込まれてますね。
こうなってくると、どちらかが偽証している事になるのですが、警察の足取り調査によって、合流直前までABCは3人組で行動し、EFは二人で行動していたことが確認出来ちゃいました。
結局、誰の関係者でもないDが最有力容疑者となったものの、その存在の特定情報は皆無と言う有様です。
結局、Dは特定されませんでした。
Cも帰還せず・・・今も連絡が無いそうです。
AもBも心配しましたが、学生が出来る捜索なんてたかが知れています。
結局、何もつかめずに終わり・・・この事件は、Aの心に刻まれたまま、現在に至っているという顛末でした。
・・・奇妙なのはCの実家です。
捜査中もその後も、AにもBにも一切の接触が無いそうです。
身内の失踪にあたって、現地で一番近くにいただろう人物に確認に来ないなんてあるんでしょうか?
まるで、Cの東京での行動に何の関心も無いかの様な態度に感じられます。
だから、ひょっとしたら、Cは何処からかひょっこり帰っているかも知れないし・・・或いは、Cが帰って来なかった事にしたかったのか・・・とか・・・。
詳細は不明ですが、地元ではかなり有力な古い家らしいので、何かあるのかもしない・・・とは、酔っぱらったAの言葉です。
Cは、田舎から都会に出てきて、明らかに卒業後の帰郷を望んでいませんでした。
自由な都会を知って故郷を捨てようとした存在・・・裏切り者を、地元のナニかが連れ戻したのでは?
などと考えている様子でした。
その時点で立派な社会人として振舞っていたAは、Cの事を教訓に「都会は怖いところだよ」と、後輩だった我々に語ってくれました。
終わり
この話には、はっきりした結末も真相もありません。
Aさん自身も「今でも分からない」と言っていました。
読んだ方がどう受け取るかで、まったく違う物語になると思います。
最後までお付き合いくださり、感謝します。




