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駄文拾遺集  作者: 秋鑑
4/6

中途半端な技術革新と、引率者からの譲渡について

技術の黎明期には、革新的な光と同時に迷信めいた影があるものです。


写真の普及と同時に氾濫した心霊写真とか、ラジオが受信した心霊電波とか。

・・・まあ、酔っ払いの戯言めいた思い出話と思ってくださいな。

中途半端な技術革新と、引率者からの譲渡について




少し昔の話です。


世間に携帯電話が普及し始め、PHSと一緒に流通してきた時期です。


気の利いた機種なら、ショートメールとか言う液晶画面に直接文字を送信できるタイプのモノも有りました。


今となっては、どうして搭載されていたのか、着信音を自分で編曲して使用できるものもありました。


個人携帯電話の黎明期・・・まさにカンブリア爆発と言った感じでした。


そんな中、友人の一人は「カメラ付き」携帯を入手してきました。


画素数が数十万画素・・・もっと低かったか?・・・だったので、撮影された画像は辛うじて人か建物かを識別できる程度の代物でしたが、自分で撮影したモノをその場で見られる。さらに、メールに添付すれば、画像共有も容易に・・・しかも、ほぼリアルタイムで実施できるという事実だけで、十分に未来的な予感を感じさせるものでした。


当時の携帯は、その保存メモリの容量も少なく、低画素の画像データですらたいして貯めておけない程度でしたが、それでもPCにコンバートして、その後にCDに焼いて保管していたものです。


そんな時期、その友人を含む数名とある繁華街に繰り出した時の話です。




お金もなかったので、方々の安い酒場をウロウロしつつ(デフレの時代だったので、収入は限られていましたが、飲食にはそれほど苦労はありませんでした。・・・今の若者は可哀そうですね)、3件目だったか、4件目だったか・・・。


ふと気が付くと、カメラ携帯君(カメ君にしましょうか・・・)が、見当たりません。皆で見渡しましたが、近くにはいないようです。


・・・そう言えば、トイレ行くから、先に行っといて・・・って言っていたような・・・。


はて、それは前の店の話だったか、前の前の店の話だったか・・・。


そこで、ふと思い出します。・・・携帯があるじゃない。


当時、何故かただで配布されていた携帯を、そう言えば私も持っていました。


あの当時は、何故こんな高価なものをタダで配っているのだろうかと、不思議に思ったものでしたが、そう言えば機種変更を繰り返しつつ30年近く継続して契約しているのだから、通信会社も十分に元が取れているのかも知れません。




さっそく携帯を取り出し(内ポケットから颯爽と)、手帳をカバンから引っ張り出してカメ君の番号を確認・・・そう、携帯入手で舞い上がっていた私は、サークルやら学生名簿やらの目ぼしい番号を片っ端から電話帳に記録して喜んでいたのですが・・・結果、電話帳分のメモリーはパンクしており、後から知った他人の携帯番号の余地が無くなっていました。


未来の機械である携帯片手に、過去の遺物である手帳を繰って電話番号をプッシュする・・・シュールな光景です。


ちょっと都市部を外れると、忽ち怪しくなっていた当時の電波状況でしたが、幸い繁華街は都会の一部だったようです。無事に接続した感じで、呼び出し音が鳴りだします。


1コール、2コール・・・8コール・・・得意満面で、片耳に携帯を押し当てて待ちますが、一向に受信する様子がありません。しかも、留守電とかいう機能が有料だったためか、カメ君の電話は留守電にも切り替わりません。


一旦電話を切って、仲間とこの後どうすべきかを相談しようとしました。・・・つまり、子供じゃないんだからこのまま放っておくか、探しに行くか・・・。


幸い、仲間の一人のアパートが徒歩圏内(とは言っても20分は歩きますが・・・)なので、イザとなって終電を逃しても寒風の下で野宿ってのは避けられます。放置も気が引けるし、探してみる事になりました。




と、私の携帯に受信ランプが点灯。・・・?電話じゃない?


ああ、携帯のメールだ・・・。




メールはカメ君からです。当時の携帯メールなんで、字数は非常に限られます。おそらく、全角で入れると50文字くらいでしょうか?慌てているのか、私の携帯の性能の為なのか、文章はかなり断片的でした。


「おわれててる おまえらどこ ばしょわからな」




カメ君のメールが続いて着信します


「でんわわだめ ちゃくしんおmでばれる とりい」




・・・なんだ?これ?




私は、慣れないケータイメールの返信を試みます。


「今どこにいる?周りに何か見えるか?こっちは、〇〇屋(個人経営の安い呑み屋)の前に居る。」


冷静に考えれば、今どこにいるか分かってれば、場所が分からないわけ無いんですが、冷静にまとめて考える事が出来ず、取り留めのないメールを送信。




・・・この送信も、通信速度の問題で全く進みません。


〇〇屋の薄いホッピーなら、ジョッキ一杯飲み干せる時間が経過して、やっと送信終了です。




直ぐに返信があります。


「〇〇やみえない とりいにいる ちかづいてるから おくへ」




「ちかづいてるから おくへ」


カメ君が、こちらに近付いて来ているから、通りの奥へ迎えに来いって言っているのか?


何かがカメ君に近付いているから、鳥居の奥へ移動するって言ってんのか?




感情も抑揚も取っ払うと、簡潔な文章はこれ程も難解になるのか・・・


友人たちも雁首揃えて困惑顔です。




移動すべきか・・・ココで待つべきか・・・


そこで、一人が道の端を指さします。




指さす先には、繁華街を含む商店街周辺の地図がありました。行政が設置する住宅地図的なモノでは無く、観光地などで見るお店の位置や観光地・見どころとかが載っているヤツです。縮尺の正確さには難がありますが、目印の特定には役に立ちそうです。




友人たちと地図を囲んで神社(鳥居と言ったら神社でしょ)を探します。


並行して、再度メールを


「鳥居の場所は分かるか?何神社?駅のどっち側?」


そして、送信・・・ホッピーの時間が始まります。




カメ君より返信


「しきゅうしきゅう かこまれてる さくのしたにえき みおろしてる」


・・・そうか、中途半端に漢字を混ぜるより、全部ひらがなにした方がデータ量が軽くなって送受信が速くなるんだ・・・。


って、しきゅうって至急か?




駅を見下ろす神社・・・地図には該当する神社は無い・・・が、見晴らし台が記載されてる。


そう言えば、花見の時に、見晴らし台の裾にお稲荷さんがあった気がする。


鳥居はソレか?




私は友人たちに推理を伝え、見晴らし台に向かう事にしました。


その際、友人の一人が駅前の交番へ行くと言ってきます。


「トラブってんのかも知らん。揉めてるとしたら、それを確認してから警察呼んでも手遅れんなる」




・・・ご説ごもっとも。ぱっと見渡して、一番ガタイの華奢なそいつを伝令に出しつつ、残りは見晴らし台へと走ります・・・申し訳ない・・・酔っぱらいがアタフタと集団で移動してるだけです。




見晴らし台の裾に到着します。記憶通りに、参道も兼ねているのか途中にお稲荷さんのお堂がひっそりと佇んでいます。


・・・色あせた鳥居を従えて・・・。




鳥居の周辺には人影がありません。・・・奥・・・は、やはり見晴らし台か・・・。


町の街灯の光が届くので、真っ暗闇って事はありませんが、それでも暗がりに伸びる急階段は人の勇気を委縮させるに十分な存在感です。


友人が上に向かって呼びかけます「カメ君、迎えに来たよ」


・・・返事があるなり、降りてきてくれるなりしてくれれば、どんなに幸いか・・・


しかし、階段はその暗さに相応しい沈黙を保っています。




行くか・・・。そう口にして、いつの間にか振り出した小雨の中、階段を上り始めます。


一応、メールを送信。


「とりい ついた これから おくへのぼる」




小雨の中、感じるのは周囲の友人たちのアルコール臭い息だけ。


まるで地獄への階段の様な(上ってますが・・・)状況に、皆無言になります。


そして・・・ついに・・・見晴らし台へ踏み込まんとした、階段数段前・・・まだ見晴らし台は見えません。


その瞬間に着信ランプが点灯・・・カメ君からだ。




「お役目ご苦労。コレは回収する。こちらは返却するので、如何様にでも」


・・・なんだこれ。文章が流ちょうになったのに、意味が分からない。




「ヤバい」


以外の言葉が見当たらない。日ごろから語彙の少ない方だが、居合わせた友人含めて駆使できる単語量が私の携帯並みに低下しているのが分かる。




とにかく急ぐべきだ。


誰ともなく急かされるようにあと数段上の見晴らし台に這うようにして登っていく。


小雨とは言え水分を含んだ階段は、その表面を泥濘と化し、私たちの足(なんなら手まで)絡め捕る。


数段が遠い。


まさに「奥」だ。




這う這うの体で見晴らし台に踏み込んだ私たちを迎えたのは、溢れるように目をくらませる圧倒的な光・・・に見えた、高台の下に見える繁華街のネオン。


・・・だけ?


誰もいないし、何もない。


花見の季節には熾烈な場所取り合戦が勃発するさして広くもない見晴らし台は、この時間では文字通りの空っぽだった。


「カメ君。迎えに来たよ」と、一応呼びかけはしたが、無駄な事は十分に察せられた。


階段での緊張と、何もない見晴らし台を見ての弛緩・・・どこか納得した様な「そうだよな・・・居るわきゃないよね」という常識的な思考。


繁華街の喧騒を離れた静謐の空間への闖入者に、本来の住人である小動物も驚いたのだろう。


へたり込んでいる私たちの頭上で、何かが飛び去る羽の音がした・・・。




茫然と座り込んでいる私たちの下へ、伝令に出ていた友人が警官二人を連れてやってきます。


警官は、腑抜けた様に崩れ落ちている私たちを見て少しギョッとしたようですが、直ぐに状況確認に入ります。


私たちは一部始終を話しました。


所謂事情聴取ですね。一通り話を聞き終わると、一応と言う事で、私の携帯も確認します。


そこで、警官が言います。


「今、電話したらかかるかな?」と。


そう言えばそうだ。これがカメ君の狂言だとしても、そうじゃないとしても、現状把握の一助にはなるだろう。そう思って電話をかけてみる・・・と、呼び出し音がなっている・・・私のカバンの中から・・・。




そうです。「トイレに行くから、先に行ってて」の、後に「なくすと不味いから持ってて」と・・・携帯は私が・・・預かった・・・のだ・・・。


警官の雰囲気が剣呑なモノになる。そりゃそうだ。一見すれば、警官相手に狂言をかましたのは私たちにしか見えない。立場が逆なら、私だってそう思う。


「署で詳しく話を聞こうか?」と、言われて、抗う術などありはしない。泥濘を這いずって泥まみれになった上に、やまない小雨にずぶ濡れになった酔っぱらい一行は、警察所へ連行された。




証拠品として警官に取り上げられた私の携帯は、単なるいたずらへのお小言を甘んじて受ける代償に返却された。


手渡した警官は、それでも悪意のある集団では無いと信じてくれたらしく「あんまり呑みすぎるなよ?」と、少し微笑みながら注してくれた。


携帯を受け取りつつ謝罪をした。そして、携帯を見ると、着信ランプが点灯している。


・・・?


当然、カメ君の携帯も警官が持っていた。その間、一切の操作はできない。じゃあ、この着信は一体?




・・・メールは、目の前に置いてあるカメ君の携帯からだった。よほど大きなデータなのだろう。少しずつ処理のバーが伸びていくが、その伸びは先ほど階段を上っていた私たちの歩み寄りもおぼつかないモノだった。


警官も、余りな現象にじっと液晶の処理中表示を凝視している。


やがて、それは、何らかの画像データであることが分かった。


上から、少しずつ像を結んでくる、明らかにカメ君の携帯のカメラで撮影された映像・・・




それは、一見すると暗い画面の中に四角い何かが描かれ、其の四角の左の方に点々と四角に比較すると随分小さな丸の様なモノが描かれている抽象画の様なモノだった。




が、ダウンロードが終了し、しっかりと画像となると・・・やっぱり抽象画・・・画素が低すぎだったんだろう・・・。


画面の右端が明るく、左側は暗い。其のグラデーションの中、右の明るい中に真っすぐな線・・・コレ・・・手摺?


よく見ると、その画像の真ん中に配された四角い部分は・・・見晴らし台・・・。


そして、暗がりに点々と描かれた「何か」は・・・へたり込んだ私たちだった。


今でいうと、まんまドローンによる空撮そのものだ。




「お役目ご苦労。コレは回収する。こちらは返却するので、如何様にでも」


カメ君の救助要請に応じて現場へ駆けつけた我々への労い。


カメ君を回収したことの報告。


カメ君のカメラの返却及び権利の譲渡宣言。




と、言う事か。


・・・その後、カメ君は未だに帰ってきていない。

どこへ消えたのか、誰が連れ去ったのか?

そういう細かいことは置いておいて、良くわからない技術への恐れが有ったのでしょう。


現在のAIも、この手の現象を引き起こしているのでしょうか?

技術は進んでも、人間は然程には変われないんでしょう。

ワクワクしますね。

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