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消息──20年ぶりのガランへ

※リアルタイムの話ではありません。過去話です。


 日本に転移してから20年の月日が流れた。あの時私は17で、一緒に跳んだ「としお」は10歳だった。

 オキザリスが私たちを助け、以降オキザリスは私の人生の羅針盤となった。


 仕事のアシスタントをしてくれている百合に、ガランへ跳ぼうと思っている事を話した。

 橘銀河の養女である百合が、私のことを想ってくれているのは知っている。私も、妻にするなら百合がいいと思っている。しかし百合の想いを受け入れるには、私のガランで止まったままの時計を動かす必要があった。

 

「故郷へ20年ぶりに帰って確認したいことがある。ガランの視察を兼ね1人でジャンプするつもりだ」

 すると百合は「連れて行ってほしい」と言った。

 

「私は雲水の生まれ故郷へ行って、暮らしていた痕跡を感じ、あなたが愛した人たちについて知っておきたいの。お願い、連れて行って。魔法が足りないのだったら、ギンが私のために溜めておいてくれた魔法を使えば往復できるわ」

 

 百合の強い気持ちに押された。

「ありがとう。魔法は何とかなるよ。一緒に行こう」


 

 橘氏に了解を取り、ガランのオキザリスに連絡をして3週間後、私と百合は水晶に入りガランへ跳んだ。

 

 ガランに着くと、水晶の前に立っている人たちがいた。

「お疲れ様!」

「ようこそガランへ雲水さん、百合さん」

「ありがとう」

 

 水晶から出ると、復旧された神殿があった。以前とは造りが違うが、高い天井や祭壇、壁に掛けられた武器や防具の飾りなどに見覚えがあり懐かしかった。

 

「水晶は一回り小さくなったけど、魔法を圧縮する技術が進んだから、これでも以前よりたくさん入っているんだ」

 声を掛けてきた男は嬉しそうに笑っていた。

「今は雲水なんだって? ゼクス」

 隣にいる同じ顔の男が言った。

 

「ネオ! リオ! 君たちかい?」

 ようやく気づいてそう言うと、2人は子供の頃のように抱きついてきた。

「そうだよ! 懐かしいな」

 

「私もいるわよ」

「リィサ! ごめん、気づかなくて。美人になったから」

「ゼクスも変わらないわ。私たち最近、オキザリスの協力者メンバーになったのよ」


「まさか君たちが出迎えてくれるとは。探す手間が省けたよ」

 

「今は討伐隊の仕事が忙しいから協力者としてしか動けないけどね」

「今日はゼクスが来ると聞いたんで、昔なじみの権限で出迎えの権利をもぎ取ったよ」

 ネオとリオが双子の妙で続けて話す。

「ルカは元気? 一緒に跳んだのよね?」

「ああ、彼も公務員として働いている」

 

 しばし再会を喜び合った。すっかり大人になった3人を見て、やっと時が動き始めた。

 

「橘百合さんね、素敵な方! 話は聞いてらっしゃるかしら、私たちは子供時代、プレ討伐隊の仲間だったの。私はリィサ・ブルーフィールド、よろしくね」

「ネオ・ローズハルトとリオ・ローズハルトです」

「皆さんの事は雲水さんから聞いています。こちらこそよろしくお願いします」

 社交的で親切だったリィサ。変わっていない。握手を交わすとすっかり馴染みの仲間のように笑い合った。

 

「ここへ2人で来たということは、恋人なのかしら?」

 リィサがこっそり囁いたので「秘書だよ」と言った。

 百合がエルダー・リリーに似ているという者はいなかった。村の年長者でも覚えている者は少ないだろう。彼女の時代が過去のものとなったのを感じた。


 青い部屋と離れにあった私の部屋はなくなっていた。温室は破壊されたままだ。修復は難しいだろう。

 私は青い部屋がなくなっているのがショックだった。温室にも忘れがたい想い出があるが、あの部屋は特別な空間だったのだ。


 双子とリィサと私たちは、談話室で話をすることにした。

 歩きながら見た村はすっかり姿を変えていた。よく見た素朴な小屋は堅牢そうな新しい建物に変わっている。畑は全体に専用のシールドが施されているらしい。一方荒れたまま放置されている畑や廃墟もあった。

 村は少しずつ復活してきたところだと言う。しかし油断できない状況は続いているらしい。


 村長の制度はなくなり、神殿の結界は今も張られていないようだ。

 この状態がいつまで続くのかは分からない。


 

 談話室でリィサが「後の2人について」と重い口調で言った時、すべてを察した。

 

「モンドとレティアは亡くなっているの」

「……残念だ」

 

 オキザリスでは私信は禁止されているから、消息を聞くことはできなかった。でも、もう少し早く来たかった。


「あの2人は結婚したんだ、出会って10年後に」と、コーヒーカップに目をやりながらリオが言った。

「……結婚?」

 頭が良く鉱物マニアで風変わりなモンドと、読書が好きで赤毛にそばかすのレティアが容易に思い出された。

 

「私は最初からお似合いだと思っていたわ」とリィサが微笑み、続けた。

「レティアはヒーラーとして討伐隊に入り、モンドは鉱物と魔法の研究所に勤めていたの。2人は結婚して子供が何人かいたわ。それがみんな……一家で集まってどこかへ出掛けた時に魔物に襲われて亡くなったの」

 

 私は頷いて聞く事しかできなかった。

 20年という月日の中で結ばれ、生まれ育った命があった。それは幸せな光景だっただろう。慈しみ、喜び、未来に希望を持つ……人間が必死で守ってきたものを魔王がいとも簡単に奪っていく辛い現実。

 一刻も早くこの世界を変えたい。


 私はマキナの消息について聞いてみた。


「ゼクスと婚約していた長いお下げの人ね。魔法使いだったわね、可愛い人だった。結婚したと聞いたけど、それからは……ネオとリオは知ってる?」

 

「知らないなあ」

「うん」


「ありがとう、支部に行ったら聞いてみるよ」

 

 空気を変えるようにネオが明るい調子で話し始めた。

「神殿で話した件だけど、魔法を圧縮する技術はモンドの研究の成果なんだ。これで魔法の消費が激しい討伐隊の戦いはかなり有利になった。最近は回復魔法が充填できる魔法衣の開発なども盛んだよ」

 

「モンドが……そうか。子供の頃の夢を叶えたんだな」

 

「魔法はガラン東で魔石が大量に見つかったし、圧縮して保存しておけば魔王襲来にも備えられる」

「ガランはきっと大丈夫だな」

「そう思いたいね」


「破壊の後には恵みもあるわ。魔王に焼かれた地ほど作物がよく育つし、倒された木は有効利用できる。壊滅的になった場所でも温泉が湧いたりするから。どんなに絶望してもまた立ち上がれるという、励ましのように感じる」

 

「たくましいのさ、人間は。どんなに悲しんでもいつかは涙が枯れる。生きていかなければならないからね」

 

 ネオとリオは独身らしい。ネオは討伐隊の宿舎での暮らしが気に入っているらしい。リオは「こんな時代だから家族を持つのが怖いよ」と言っていた。

 魔法については、ネオがオキザリスの能力開発トレーニングを受けている最中だ。

 リィサは結婚して4人の子供がいるらしい。学び舎で教師をしていている。


 それぞれ討伐隊の出勤時間と子供の世話があるからと、談話室を出た後解散した。

 忙しい中を出迎えに来てくれたお礼と会えて嬉しかった事を伝え、握手をして別れた。


「夕食まで一緒にいると思ったが」

 そう言うと百合は「皆、あなたに気を遣っているのよ。今も泣きそうな顔をしているわよ」と心配そうに私を見た。

「そうか」


 明日、支部を訪ねよう。

 見上げると無数の星が見えた。日本では見えない星空を今日は堪能しよう。

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