100 通達
「それじゃおつかれ~」
焼肉店に入ってとりあえず乾杯。
みんなアルコールは飲めない為、ジュースや烏龍茶で。
「最悪な事にならなくて良かったね、二人は十分最悪と思うけど」
「ちゃんとケアしてやってくれよ?仕事仲間なんだからさ」
「了解です」
ピシッと敬礼しながら答える。
「それから、結城さんには特に気をつけといてよ?
絶対、何かコンタクトしてくるから。
ハニートラップとかに引っかかっちゃ駄目だよ?」
心配そうに言ってくる。
「大丈夫だって!あんな若い娘がこんな倍以上歳が離れたオッさんに媚びるもんか。
それにそんな事すれば、見返り求められると思うはずだから、逆にやぶ蛇みたいなことしないよ」
判ってないな〜川さん。
あの娘達より若い私と出来てるって思われてるの忘れてる。
こりゃ日頃からガッチリガードしとかないと危ないか、特に結城さんが。
あの人絶対に別の感情芽生えてるし。
「それでも目標達成するまで気をつけてね、絶対だよ?」
そう言って約束させた。
人間になれれば、直ぐにでも既成事実作ればいいから、それまでの辛抱だと自分に言い聞かせて。
女というものは意外に強かなのである、相手は全く気づいていない・・・というか全くモテない男なので、そういう考えに行き着かないだけだが。
「あっ」
「クリスどうした?」
「今、レベルアップの通達来ました。
これでレベル9だよ!やったね!」
みんな喜んでいる。
口々におめでとうと賞賛してくれている。
「いやぁ、ありがとう。
みんなの協力のおかげだよ」
謙遜しながらお礼を言っていると
「いや、川さんの人徳だよ。
今まで2年も掛からずここまで来たのは誰もいない、というか30年経ってもレベルアップしない人の方が多いんだから。
やっぱり自分だけが楽したいって思うよね」
「そんなものなのか?・・・・
それじゃ、スポーツ選手とか有名人になった人の方がまともだって事か。
お金目的だったとしても、チャリティとかちゃんと参加したりしてるしな」
あまりそういう事考えたことなかったんで、ちょっと意外だった。
「あとレベル一つだけど、その一つが大変なんだろうな。
今まで通りにやって1年掛かるかもしれないし、意外と早く達成するかもしれない。
どちらにせよ上がってみない事にはどうなるか判らないよな?
もしかしたら人間になれないのかもしれないし」
ちょっと重い空気が流れ始めた。
それを打ち消すように、
「とにかく、登ってみよう。
高みの園にまだ誰も行った事がないからどうなるか判んないけど、どう転んでも俺たちは家族。
それで良いじゃないか?」
・・・・・
「「「うん、それで良い」」」
「それじゃまとまった所で再度乾杯だ!」
それから焼肉を堪能しまくった。
それから1週間程何事もなく過ぎて行った。
あの3人組はここ数日で落ち着いたようで、人前では普通にしているように見える。
クリスから聴くと、やはり暗闇とか人気のない所は怖いようで、気をつけて歩いているようだ。
こればっかりは他人にはどうしようもない。
自分でどうにかするしかない為放置状態だ。
ただ、こちらの正体がバレバレの状態の為(人違いだと言っているが)何かある前にまた助けてもらえると思っているようで、少し安心して生活しているようだ。
その程度の心の拠り所くらいなら、利用してもらっても構わないし、またなんかあったら護るよ。
クリスが仲良くしているから、情報等入ってくるしこっちから話しかけるネタも無いからやはり放置状態だ。
こういうのをコミュ障って言うのだろう、仕方ない。
「そろそろ落ち着いたかい?」
休憩が終わった後クリスに話しかけた。
「だいぶ落ち着いて来たみたいだし、こちらから話題を振らない限り忘れてると思う」
それは良い傾向だけど、誰か護ってくれる奴を探した方がいいと思う。
「誰か護ってくれる男とでも引っ付けばいいのにな。
少しでも怖いと思うならそれもいいんじゃないかな?
悪手では無いと思うけど」
クリスが呆れたように
「それが一番難しいんじゃない。
今回も、好意からあんな事になってるんだから難しい選択だよ?」
中身の問題というならお互い様と思うけどな。
いつでも女性側が被害者という事が大前提なのかね。
時代は変わってもここら辺は変わらないんだろうな。
そう思いながら午後の仕事に戻るのだった。