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森口家の六つ子は、神様の後始末係です —龍神さまからのご指名—  作者: 織村蜜柑


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第八十六話「知らせをつなぐ者」

〖前書き〗


前回まで:


山で降り始めた強い雨。


まだ下流の河原は静かだったが、

人々は水が見える前から動き始めていた。


上流で変化を見る者。

知らせを受け取る者。

さらに次の村へ渡す者。


龍地で学んだ「見続ける」という理は、

大きな水から暮らしを守るための

新しい流れへ変わり始めていた。

馬の姿が、道の向こうへ消えた。


その直後だった。


別の男が、河原の上流側から駆けてくる。


「水、増えてる!」

草を刈っていた男が振り返った。

「どれくらいだ!」

「まだ河原の中だ! でも、濁ってきた!」


信玄たちの視線が、一斉に川へ向いた。


先ほどまで澄んでいた流れに、

茶色い筋が混じっている。


細かな枝。


草。


山から流された土。


三那兜が眉を寄せた。

「もう来たのか」

「まだ始まりでしょうな」

勘助が答える。


信玄は、先ほど馬が走っていった道を見る。

「知らせは、届くか」

「届けば動ける」

一鶴が言った。

「でも、途中で誰かがいなかったら?」


六嗣の言葉に、

四糸乃が紙から顔を上げる。

「その場所で、知らせが止まります」


水は、

人がいなくても流れる。


だが、言葉は違う。


受け取る者がいなければ、

そこで途切れる。


樹玄が静かに言った。

「ならば、渡す相手を決めておく必要があります」

信玄が振り返る。

「決めておく?」

「雨が降ってから探すのでは遅いでしょう」


勘助の目が細くなった。

「上で見る者。

受け取る者。

次へ走る者」


「役目を決めるのか」

一鶴が呟く。


四糸乃が頷いた。

「誰かがいるだろう、ではなく」


六嗣が続ける。

「誰が見るのか。

誰が受け取るのか。

誰が次へ渡すのか」


三那兜が笑った。

「また役割分担だな」


五風が川を見る。

「一人に全部やらせない」


その言葉に、

信玄がわずかに目を動かした。


また同じところへ戻ってくる。


一つに集めすぎない。

一人へ背負わせない。

一つの村だけで守らない。

一つの土手だけで受けない。

二羽花が道の向こうを見る。


「伝えに行った人は、戻らないの?」

「戻る必要はない」

勘助が答えた。

「知らせを受け取った者が、

さらに次へ走ればよい」


信玄の視線が鋭くなる。

「戻るのではなく、渡す」

「左様」


知らせは、

一人が最後まで運ばなくていい。


最初の者が受ける。

次へ渡す。

受け取った者が、

またその先へ。


六嗣が紙へ書き足す。


見る者。

受ける者。

渡す者。

そして、

次に待つ者。


「待つ者も必要ですね」

四糸乃が言った。

「誰かが来ると分かっていなければ、

知らせを受け取れません」

一鶴が腕を組む。

「つまり、上から下まで、

最初からつながってなきゃ駄目なのか」

「そういうことでしょうな」


勘助が川沿いの道を見る。


村。

その先の村。

さらにその先。


水の流れに沿うように、

人のつながりも続いていく。


遠くで、再び雷が鳴った。


今度は少し近い。


川の茶色も、

先ほどより濃くなっている。


だが、

人々は慌てていなかった。


知らせが来る。

受け取る者がいる。

次へ渡す者がいる。

それが分かっているだけで、

動き方が変わる。


信玄は低く呟いた。

「水を治めるのは、

土や石だけではないのだな」

勘助が横目で見る。

「ようやく、そこまで来られましたか」

信玄が睨む。

「最初から分かっていた顔をするな」


勘助は楽しそうに笑った。


そのやり取りを見て、

六嗣も小さく笑う。


だが、信玄の目はすぐに川へ戻った。


見る。

受ける。

渡す。

待つ。


それぞれが、

自分の場所で役目を果たす。


水より先に知らせを流すためには、


人の流れもまた、

あらかじめ作っておかなければならない。


土手を重ねるように。

村をつなぐように。

人の役目もまた、

途切れないように、

次へ重ねていく必要があった。


挿絵(By みてみん)

〖後書き〗


今回のまとめ:


・上流から、実際に川が濁り始めたという知らせが届く


・知らせは、水と違って受け取る人がいなければ途中で止まってしまう


・信玄たちは「見る者」「受け取る者」「次へ渡す者」をあらかじめ決めておく必要に気づく


・一人が最後まで運ぶのではなく、村から村へ役目を渡していく仕組みが見え始める


作者ノート:


前話では「水より先に知らせを流す」という考えが生まれました。


今回は、その知らせを途中で途切れさせないためには、

人の役割そのものをあらかじめつないでおく必要があると気づく回です。


龍地から続く「一人へ背負わせない」という理が、

情報の流れにも広がっています。


キーワード:


甲斐盆地/武田信玄/山本勘助/森口樹玄/六人/増水/知らせ/役割分担/上流/下流/治水/領国経営

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