第31話『まさかね』
たくさんのことがあった校外学習も終わり、それから一週間が過ぎた。
戻ってきた日常。
暦は6月、入梅の候。
その言葉通り、空は一面グレーの雲に覆われて。
しとしとと降る雨が、グラウンドのあちこちに水溜りを作っている。
個人的に雨の香りは好き。
でも、ジメジメするのは好きじゃない。
今月は半ば過ぎに体育祭、来月頭には期末テストもある。
高校生というのも、なかなかに行事がたくさんで忙しい。
更に今日は、6時限目は授業内容を変更して体育館に集まることになっていた。
「6時限目の特別授業は学年で集まるからね。2組だけ遅いとかないようにね」
5時限目の終了間際、ガク先生がみんなを見回して言う。
その言葉に、レンが前の席のユウトくんを突っついた。
「なぁ、特別授業ってなんだっけ?」
「は? お前、朝のホームルーム聞いてなかったの? 恋愛法についての話があるって言ってたじゃん」
そう、急遽開かれることとなった恋愛法講習会。
私たちは、恋愛法について改めて学ぶことになる。
たぶんこれは、この前の校外学習の一件のせいだと思う。
巻き込まれたとはいえ、騒動の中心にいる私としては肩身が狭い。
「あー、そうそう。資料を配るから男子に手伝ってもらおうかな」
不意に、ニコッと笑うガク先生。
「……じゃあ、金村と月島、いいかな?」
ひそひそ話をしていた二人は、ビクッと首をすくませた。
授業終了を告げるチャイムの音が鳴り響く。
「それじゃ、悪いけど二人は職員室まで来てね」
挨拶のあと、ガク先生はそう言って教室から出て行った。
ユウトくんが首を回らす。
そのジトッとした目に、レンは困ったように頬をかいた。
「……ったく。レンが話しかけてくるから、目立っちゃったじゃんか」
「悪かったって」
「しゃーない、行くかー」
ため息をつきながら、立ち上がるユウトくん。
レンも、それにならって席を立つ。
私は、そんなレンをずっと横目で見ていた。
レンがあのとき言った、
『もう、誰かを失うのは嫌だ……』
その言葉の意味は、いまだに聞けていない。
聞いてみたいけれど、私がむやみに触れていいことなのかもわからなくて。
私を抱き締めるレンの肩は震えていた。
その様子からして、とてもデリケートなことなんだと想像がつく。
うーん、どうしたものか……。
なーんて思っていると、不意にレンがこっちを向いた。
「……なぁ、さっきから何見てんの?」
バレてた!?
「や……べ、別にみてないし! 視線の先にレンがいただけだし!」
咄嗟に、そう嘘をつく。
「ふうん?」
「そ、それに、見たって減るもんじゃないじゃん!」
「……ってことは、やっぱり見てたってことだな」
そう言って、レンはイタズラな笑みを浮かべる。
その表情に、思わず胸がドキッと大きく脈打った。
「う、うるさいっ! ユウトくんが待ってるんだから早く行けっ!」
照れ隠しに拳を振り上げる。
レンは、笑いながら逃げて行った。
はぁ……。
なーんか、戻ってきた日常と一緒に、うちらの関係も校外学習前に戻った気がする。
あのとき抱き締められたのは、夢か幻だったのでしょうか……。
「ユイ、うちらも行くよ」
「早く、体育館いこー」
「あ、うんっ! 今行くー!」
アイリとミユを追って、私も教室から出る。
体育館へ向かう2年生の流れから少し離れた最後尾についた。
レンのことを思うとモヤモヤする。
なので、こういうときは楽しいことを話すのが一番!
「ね! 今年の体育祭って、何やるかなー?」
実は私は運動が好き。
決して得意なわけじゃないけれど。
足だって早いわけじゃないけれど。
でも、体を動かすことは好きだった。
ワクワクした気持ちで、指折り考える。
「まず、リレーでしょ。あと男子は騎馬戦、女子は創作ダンスとか……」
「イベント委員が話し合ってるみたいだけれど、どうせ去年と一緒でしょ。うちの高校、代わり映えしないんだから」
「わー、アイりん、辛口ーぃ」
体育祭を心待ちにする私に、アイリはあくまで毅然とした表情。
でも、あまり代わり映えしないのは本当のことで。
せっかくなんだし、何か新しいことをやってくれたらいいのにな……。
——と、そのとき。
流れとは逆に歩いてくる人の姿が目に入った。
その人物は……。
わ、ショウ先輩!
そう、それはショウ先輩だった。
校外学習後、顔を合わせるのは実は今回が初めてだ。
先輩が、ちらりとこっちを見た気がする。
何か言われるのかな?
また告白されたりする?
わー、わーっ!
アイリとミユの前でそんなの困るんだけど!
ドキドキしながら、うつむきがちに歩を進める。
でも、先輩は何も言わずに私の横を通り過ぎていった。
……あれ?
気付かなかった?
ううん。
一瞬だけど確かにこっちを見たし、それはないと思う。
じゃあ、あえてスルーされた?
となると、あのときの告白と、
『俺も譲る気はないけどね』
という言葉は何だったのだろう?
思わず足を止めて振り返る。
でも、先輩はまっすぐ前を向いたままで。
なんだかちょっと拍子抜けな気がして。
でも、何事もなかったことに安堵感を覚えて、私は息を吐いた。
そんな私をアイリが振り返る。
「なに? 気になっちゃってるの?」
「ち、ちがうって!」
私は前を向くと、急ぎ足でアイリとミユの間に入った。
「先輩ってー、今まで付き合ってた人たちと別れてるって話だよねー」
「え、そうなの?」
「あ、それ、私もウワサで聞いたわ。結構、修羅場にもなってるみたいよ」
「そうなんだ……」
「でもー! それって、たーくさんの人と付き合ってるからだしー。自業自得ってことだよー! 私、そーゆー人、きらーい!」
いつになく辛辣なミユ。
でも、今まで付き合ってた人たちと別れてるって、なんで?
「もしかして。ユイと、ちゃんと向き合うためだったりして」
「な……!? ちょ、ちょっと、アイリ! 変なこと言わないでよ!」
「ふふっ、冗談よ」
「まったく……」
私はため息をつきながら、ふと後ろを振り返る。
小さくなっていく先輩の背中。
「……まさかね」
私は、二人に聞こえないくらいの声でそっとつぶやいた。
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