第14話 忌み子・簫叡
「申し訳ありませんでした!!!」
気がついた時には俺はその場で土下座していた。
(大恩人を忘れるなどあってはならない事なのに――――――ッ!!!)
土下座する俺に2人の老将軍の内、劉綏が俺の肩にそっと触れてきた。
「忘れることなど誰にでもあること。お気になさいますな のう王忠殿」
「左様 我らの歳になると忘れるのが当たり前になっとる。こうして思い出してくれただけで嬉しいかぎりよ」
この2人の老将軍を紹介するには先ずあの騒動の話をしなくちゃいけない。
しばしお付き合いいただこう――――――
俺がまだ20代の頃、晋の都・洛陽で学問に励んだり、悪友と娼館やら酒屋でドンチャン騒ぎの毎日を送っていた。
そんなある日、簫叡という人物と知り合った。
簫叡は匈奴の出身らしく、分裂した部族を統一して王になると日々豪語していた。
豪胆で小さいことに拘らない性格で彼を慕う者も多くおり、今思えば王というよりは将軍のが適任だったのではと思えてくる。
しかしこの簫叡こそがこれから起こる騒動のキッカケになることを当時の俺は知る由もなく親交を深めていった............
300年4月、趙王・司馬倫は朝廷で現帝・司馬衷を傀儡にして専横の限りを尽くしていた買南風とその一族を誅殺、用無しとなった現帝から帝位を簒奪すると自ら皇帝の座についた。
――――――ここに文字の読み書きが出来ない皇帝が爆誕したのだ...........当然ながら彼に政など出来るはずもなく、案の定寵臣の孫秀に丸投げされた。
無能な皇帝は求心力を得る為に貴賎や能力を問わず自分に協力してくれた者に官爵をバラ撒いたのだ。
洛陽城内は勿論のことだが地方にまで混乱が波及した。能の無い輩が官爵を武器に良民や忠臣を嬲る............地獄さながらの光景が現出したのだ。
「曜 機は熟した 我はそろそろ事を起こそうと思う」
ある日、洛陽城外の森林に呼び出された俺は簫叡からそう告げられた。
「し、勝算はあるのか?」
「匈奴の軍勢5千が我に協力してくれるそうだ 奴らは邙山より南下して洛陽北西の金墉城を攻める。そして我々は洛陽城内にいる同志800人と共に都の西側を拠点にして、太極殿のある宮城を目指す」
「なるほど匈奴軍が金墉城に敵を引きつけてる間に俺らが宮城にいる司馬倫の首を取る..........ということか」
簫叡はコクリと頷いた。
そして予定通りに永寧寺にて起兵した簫叡軍800人は晋兵と変わらぬ軍装で、宣陽門から宮城に続く大通りを驀進。
――――――全てが順調そうに見えた。
しかし、とあるキッカケにより状況は晋軍有利に傾いてしまう...........
「何故、金墉の衛兵がいる!!? 匈奴兵は何をしてるんだ!!」
そう匈奴軍が引きつけている筈の金墉の衛兵が宮城からぞろぞろと出てきたのだ。
この増援によって当初800対200だったのが、800対1200までに戦力差が広がり正面突破はこの時点でほぼ不可能となっていた。
奮戦すること半日...........状況は悪化の一途を辿っていく。事態を聞きつけた宣陽、西陽、西明、津陽の城門から駆けつけてきた衛兵によって簫叡軍は退路を断たれたのだ。
勝敗は決した!! そう判断した簫叡と俺は無常にも同志達を見捨てて逃走を図った。
殺到する衛兵共を斬り伏せながら何とか包囲を突破する。
あちらこちらに大小様々な傷を負いつつもよく分からん邸に逃げ込んだ俺と簫叡は恐らく一緒に逃げることは出来ないだろうと感じ、別れの杯を交わした。
「...........我はこれから父・劉淵の元に落ち延びようと思う 曜はどうする?」
「お、俺は..............」
話していなかったが簫叡の本姓は「劉」なのだ。
劉淵が洛陽を離れる前夜、とある娼館で都一と名高い美女・簫氏と一夜限りの関係を持ったのだという。そして簫氏は劉淵の子を身籠もった。そして産まれてきたのが簫叡であったという。
しかし劉淵自身は簫叡を実子とは認めないばかりか会うことも拒んだのだ。その為、彼は劉姓にも関わらず母方の簫姓を名乗っているだ.............
そんな彼が劉淵の元に帰るのだ 匈奴を二分する一大騒動になりかねない...........そう予想した俺は簫叡と別行動の道を選んだのだ。
余談ではあるが父・劉淵はこの騒動の余波を受け左賢王・五部大都督の役職を剥奪されている。




