8.少し似ている
pixivでアルメと無口な男の設定イラストを上げています。
https://www.pixiv.net/artworks/116677636
カフェのお客はピーク時をすぎてまばらだった、先に会計を済ませるらしく、アルメはカウンター横のショーケースを見る。
「すみません、アップルパイ二切れとミルクティー」
「かしこまりました」
会計を済ませると、空いている壁ぎわの席についた。席は全て二人がけできる様になっており、アルメは入り口付近が見える席に座ってアップルパイが来るのを待つ。
やがて店員がアップルパイを持ってくる、ミルクティーは自分で調節できる様に。ポットに入った紅茶とミルクが分けられて提供された。
「いや、何してるんだ私は」
並ばれた、デザートを見て言う。
仕方ないのだ、アルメじゃどうにもできない、魔術のことはサッパリと言っていいほどだ。
彼が今まで、断るごとに使っていた転移術に頼る他ない。
いや、そもそもお迎えが来たのかも?
金髪の男の拒否反応から、彼が帰りたく無いのだとしたら、子供の姿にして回収しやすくした。
そう考えてアルメは、アップルパイにフォークをさした。
サクッ、と良い音を立てたパイ生地と、ゴロゴロしたりんごのコンポート、どちらも、食感がしっかりと感じられる。
アッサリした甘さのコンポートは、お皿の隅に盛られたホイップと絡めれば、柔らかな甘さになり、飽きない。
アルメはミルクティーを作る際、紅茶七、ミルク三の割合で入れる。砂糖は入れる時もあれば入れない時もある。
今回は入れずに、優しくスッキリした、ミルクティーで口をリセットする。
アルメの心はすっかり落ち着きを取り戻していた。
そうして、一つ目のアップルパイを堪能し、二個目にフォーク差した時、目の前の席に人が座った。
「相席いいかな?」
見覚えのある金髪の青年、アルメは席を立とうとしたが、椅子から立ち上がれなかった。
見ると、床から半透明の鎖の様なものが、椅子ごとアルメの足に絡みついていた。
「拘束魔術だよ、命を取るものじゃ無いから安心して」
店員が来たため男はそこで言葉をきる、アップルパイとミルクティー、同じメニューに困惑しながらも、店員に助けを求めようと視線を向けるが、頬を染め、恥ずかしがるような姿にアルメは、何も言うことができなかった。
「あまり、さわがないでね、魔術を使わないといけない」
もう使っているが、これは、脅しなのだろう。
「残念だけど探し人はいないぞ、」
「そうみたいだね。あんなに遠くに飛ばされて無ければ、間に合ったのに」
間に合った?
とりあえず話を聴くことにしたアルメはその言葉の意味を図れなかった。
「僕は初めから、彼に危害を加える気はなかったんだ」
「随分と痛めつけている様だったけどな、」
「先に、攻撃してきたのは彼だよ。僕は自分の身を守っただけ」
男は、アップルパイにフォークを差す、
「それに、君たちの目的地に早く着く様、転移したんだ。お礼を言って欲しいんだけど」
ミルクティーを少し口に含む、優雅な姿は、彼の育ちの良さを伺えた。
「私は、いらないんだっけな、」
「困っていたんでしょ、厄介ごとに巻き込まれて……なんだっけな、ローリエ……」
アルメは口に入れる予定のアップルパイを下げ、男を見やる
「随分と扱いにくい古典魔術だね、範囲内の声を聴きく、人の噂話を軸に情報を集めているなんて、
それだと完全に秘匿される、情報は得ることができない」
「ローリエの情報元はお前だな、」
「あのまま、ギルド近くにいられたら接触しにくかったからね、街を出てもらった方が都合が良かった」
肩をすくめる様な仕草をして、男は続ける。
「それに魔術の使えない君には、これ以上関わって欲しくなかったからね、……彼と僕の問題だったから、まぁ拒否されてしまったけど」
「あいつがお前を拒否した理由はなんだ?」
「首を突っ込むんだ。」
「ここまできて、何も知らずにキッパり縁切りは無理だ」
アルメの性質情、関わった物事に蚊帳の外にされるのは、腹立たしく感じるのだ。
腕を組み椅子にもたれる体制で男を見るアルメに男は言った。
「実は、よくわからないんだよね、彼と直接言葉を交わしたことはないから」
「は?、そうだーなんだ言ってたろ。」
転移で街の外に出される前の会話を思い出す。
「なんとなくは理解できるだけだよ、」
男は言葉をきる
「彼と僕は、少し似てるんだ」
*
「起こせ」
そう言われて連れてこられ先には、寝台が部屋のど真ん中に鎮座していた。
寝台の上にはおよそ、二十手前の白髪の青年が仰向けに寝かせられており、その寝顔はとても穏やかだ。
「四年前に行われた魔術移送の実験後からこの状態らしい、」
聞いてもいないのに、同僚の魔術師はそう答えた。
「なんだ、失敗作じゃないか、やけに丁寧に扱われているね」
「おい、グラン様のご子息だぞ、一応でも慎みを持て」
形だけでも、慎みを持ったつもりらしい同僚は、くだらないことで注意してくる。
「うるさいな、案内しか出来ないんだから、余計なことを喋るな」
少しイラついてそう返せば、同僚は無言になり、口元を歪ませた。実際事実だからだろう。
その様子を見たら、気分が良くなり、仕事にとりかかるため、寝台に近づいた。
そばで見たら、その要因が薄らと見えた。
眠っている男の周りに薄らとモヤが見える、ベールの様にほのかに波打ち、柔らかそうなその魔術は、確かにエグレゴアが元来研究してきた魔術とは別物のようだった。
「なんの魔術を移送したの?」
同僚は口籠りながら答えた。
「聞いた話では、魔獣の魔術らしが」
「魔獣の魔術?」
そんなものは、四年前にはとっくに研究し終えている。
魔術移送実験はそもそも、他者から他者に魔術、魔力を移す実験だ、成功すれば、元来持ちうる魔術の他に、移送した者の魔術が使える様になる
「起こすことはできるけど、使える様になるかわからないな」
「それなら問題ない、意識があれば良いと」
ああ、なるほど総帥様は、この魔術が欲しいのか。
「わかったよ、始めるから、部屋の外の出ててくれる」
同僚は動かなかった、どうやら、どんな魔術を使うか知りたいらし、
魔術は生まれながらの特性が強くでる、実際同僚と自分との差は天と地程差がある。
「君の身の安全はできないよ、ご子息様の中にある魔術はどんなものかわからないだろ?」
そういえば、同僚は扉の外にでって言った。
魔術移送は本来、親から子へ、魔術を相伝するための手法だが、エグレゴアはそれを研究し、魔力や特性そのもそを移送させるのに成功した。しかし元来の移送する、道として、血の繋がりが無ければ、成功しないため失敗するリスクは高い。
失敗すれば、移送先の脳は破壊され、運が良かったら生き残れるが、廃人になる。
総帥様は、この魔術を得るために自身の子供を利用したのか、いや、本物かどうかも怪しな、
あの人、隠しごとが多いから、
「まぁどうでもいいか」
自分はただ、恩人の願いを叶えるだけだ。
記憶もないボロ雑巾のような自分を拾ってくれた恩人に。
未知の魔術だ、あのベールを取っ払うには、魔力で押し切るしかない。
四年とゆう年月でようやく綻んできたのであろうベールの魔術、その中に隠されたものは何か気にならなくもないが、自分がお目にかかれることは無いかもしれない。
魔力の消費が激しい、目の前が霞む、息が吐けない、
「ッくっかはぁ!」
体の異常で周囲の魔力が感じられない、顔を上げて確認にないといけないのに、頭が痛くまるで脳を食いちぎられた様な感覚、
実際喰われている、今までこの場所で感じてきた、感情が何かに剥ぎ取られるように食われ、下から黒い物が湧いてくる。
数秒で無くなった痛み、その激痛から髪の毛を強く握り込んでいたみたいだ。手のひらには数本の抜けた金髪が見えた。その既視感は、黒い物の形を形成した。
「父さん……ッ!」
顔を上げたら寝台は空だった。部屋のどこにも眠っていた男はいない。
「おい!終わったか⁈成功したのか⁈」
同僚が薄らと扉を開けて、こちらに問いてくる
「見ればわかるだろ、成功だよ、……ただご子息様は、遊びに出かけたらしい」
「はぁ⁈、どうするんだよッ、お前すごい顔色だぞ、」
同僚は部屋に入ってきてそんなことを言った、自分でもわかっている。
体が冷たく、フラフラする。
「お迎えに上がらないと、君は、総帥様に報告して」
「ちょっ、おい!」
元同僚との会話がこの場所での最後の会話になるとは、きっと少し前の自分なら納得できなかったかもしれない。
読んでくださりありがとうございます。