4ー1 あの場所の影
第4章開幕します。
北部の雪は早い。一年の半分は雪景色が広がる土地だが、人口は多く大きな街が要塞の様な防御壁によって護られている。
その街の人が行き交う中央通り。街灯の光が届かない薄暗い路地裏に魔術陣が現れた。
「うわぁ!せまっ」
路地は細く二人がギリギリ並んで歩け無い程度の細さしか無い。その場所に三人の人が転移し。アルメは壁に押し付けられ。オネットは肩を掴んでいた手が振り払われてリベルテが走り出そうとしている事に気づいた。
「リベルテさん落ち着いて!」
オネットはリベルテの腕を掴み彼を落ち着かせるために全体重をかけて壁に押し付けた。
(オネット意外と乱暴……)
しかし成人男性の力にオネットが敵うわけなくオネットはリベルテに押されて尻餅をついてしまう。
「おい!」
咄嗟にアルメがオネットに駆け寄る。瞬間真横から魔術陣が発動し半透明な鎖がリベルテの体に巻き付き彼の体を拘束した。
「落ち着いてください、リベルテさん」
「っは」
体を拘束されたリベルテは自身が魔術を使える事を忘れたのか只鎖の拘束から逃れようともがき、やがて冷静になったのか大人しくなった。
「リベルテ、このまま路地から飛び出したら街の人達に怪しまれる。いつもなら街の外で転移して正式に街に入っただろう?」
本来であれば身分証の提示をしてからで無いと街を囲う防御壁の中に入る事は出来ない。
リベルテ達は街の住民でも無いのにその壁を転移で超えてしまったために不法に入ってしまった事になる。王都やタイバンの街、その中央にそびえ建つ総会の本拠地程の魔力研究が盛んで無いと転移術を通さない防御壁を作る事は魔力的維持がかかる上にそもそも構成そのものが出来ない。
「せっかくの痕跡だし、追いたい気持ちはわかるけど犯罪者になったら本末転倒だろう?……もう遅いかもしれないけど……」
「何かあれば緊急時として総会の名を出しましょう。ラシラスの名を出しても良いですよ」
「職権乱用だ……」
緊張を感じるられたない彼女達に話声にリベルテの体から力が抜け。リベルテは地面に座り込む。
「リベルテさん」
オネットは拘束魔術を解きリベルテに近づいて彼の背中に手を当て支える。
「…………わかってるよ、……少し取り乱した」
「あの方とは面識が?」
「……いや、直接は無い、でも恐らくエグレゴアにいた」
何故面識が無いのにわかるのかと思ったが、アルメはフローレの家であの男がリベルテと対面した時につぶやいた言葉を思い出す。「リベル……」それを聞いた時は何処かで聞いた事がある様な気がしたが、あれは確かゴーデンの街で若い魔術師に化ていた老人の魔術師。確かリベルテが「カリヤ先生」と言っていた人物がリベルテを呼ぶ時に言った言葉だ。
「それで、あんなに取り乱したのか?いくらなでも我を忘れすぎな様な……」
「もし、エグレゴアがスリス氏に接触をしていたら彼の身の保証は出来ないでしょ、実際スリス氏は三年以上もあの村に訪れていない様だし」
「確かに、エグレゴアの関係者がすでに接触していれば何らかの危害を加えられていても可笑しくはありませんね」
オネットに支えてられて立ち上がったリベルテは建物の壁に寄りかかった。
「エグレゴア、今騎士団や魔術士団が調査してヤバいことやっていた奴らはみんな捕まったんじゃ無いのか。」
「ほとんどはそうですが、実際は証拠不十分として補導されずにいる魔術師も多いんです。特に貴族が関与いている場合、内部調査すら困難な家系もありますからね」
「調査協力を拒否するって有りなのか?」
「貴族の中には代々特定の魔術を受け継ぎ研究を重ねてきた家も有ります。私のラシラス家も代々王宮魔術師長を担って王宮の守護を担ってきました。その守護するための魔術陣や構築方法は秘匿権益が有ります。これは仮になのですが。ラシラス家の者が犯罪に手を染めたとしましょう。しかしラシラス家には秘匿権益が有り、身内の一人が犯罪を犯した可能性があるからと言って。屋敷内を安易に調べさせる事は。王宮の安全のために例え相手が王都騎士団であっても拒否する事が出来ます」
オネットは一度ここで言葉を切り続けた。
「これがもし、身内一人の犯行ではなく。御家全体、当主によって犯行が助長された場合は証拠を調査範囲外に持ち込んで隠蔽したり。犯罪の実行者を事故に見せかけ消したりする事が可能でになります」
「なんか、嫌な情報だな」
「そうなった場所は国王の判断に委ねます。国王がラシラス家は臣下として信用ならないと判断されれば、ラシラス家は貴族席の剥奪までは行かずとも。王宮の守護の任務を解かれて秘匿権益が解除させます、そこからは騎士団の調査を入り後法にに則り処罰されるだけです」
「それはすごく……」
「面倒ですよね……これらは王家有りきの国であると言う考えから生まれる流れにすぎません。実際に過去の文献には愚王によって守られた貴族家系もあります。この国が王政国家である以上は王家の利益、損害が最も重要視されます。巻き込まれた人は不幸だったで終わらせられる」
「今回もそうなる……貴族がいるのか」
「…………いいえ」
今までの説明を聞いたアルメには意外な返答がオネットから発せられてアルメはオネットの顔を見上げた。
「今回は王都を代表する魔術組織が犯罪の温床になっていました。そのため調査権利が騎士団から魔術士団に移り。魔術師総会による独自調査が行われています」
「それって今オネットが教えてくれない場合と状況が違うって事?」
「はい、魔術師総会は魔術の総本でありアシヌス家の魔術知識は秘匿権益を持つ家系より魔術的に優れている場合があります。そうなればその家が王家から担っている役割を担うのを引き換えに秘匿権益を無視して調査する事が可能になります」
オネットはアルメに顔を向けて微笑む。そして真剣な顔をして言葉を続けた。
「判断は当主である総帥に委ねられていますが。あの方はどんな手を使っても完全摘発をするでしょう」
「そうとは限らないでしょう……」
すると壁に背を預けるリベルテが小さな声でそう言った。
「何故そう思うのですか?」
「……僕がここにいるからだよ……」
まるで罪の告白をしている様にリベルテは下を向いたまま話す。
「あの地下にいた人間は全員グランの共犯者だ。証拠が不十分でも僕にあったと証言させれば言い……でもあの人はそうしなかった。逆に禁足地調査で僕を遠ざける様な真似をして、君と言う監視を付けて僕をエグレゴアから遠ざけている」
「監視だなんて」
「現に君は王都に行きたく無いんでしょう?」
下を向いたままそう言ったリベルテに、図星を突かれたオネットは言葉を詰まらせたが、直ぐに静かな声でリベルテに言葉を紡ぐ。
「リベルテさん、確かに私は王都にはまだ行きたくはありません。でもリーブル総帥からはただリベルテさんの補佐を務める任を仰せつかっただけです。総会はただリベルテさんにはルガルデ先生の意思をついで欲しいだけではないでしょうか」
「………………」
リベルテは黙ってしまった。その胸の内はリベルテ以外には計れず。アルメはどう声をかければ良いかわからない。
しばしの沈黙のあとオネットがリベルテの手を取った。
「リベルテさん、先程は拘束魔術を使用してしまい申し訳ありません。でも冷静になって欲しかったのです。感情の赴くままに動いては後悔する結果になりかねません」
「……冷静にしてくれたのは感謝するけど、君のせいで完全に見失ってしまったね。今から追うにも時間が経ちすぎてしまった」
リベルテは不貞腐れそう言うが、オネットは穏やかな表情を変え無かった。
「リベルテさん、ご自分が魔術師である事を忘れてしまったのですか?」
リベルテはその言葉を聞き唇をを尖らせそっぽを向いた。アルメはオネットの言葉の理解は出来なかったが。どうにかなるらしい事はわかり安堵したと同時に背中に衝突された。
「うぁっ!」
「きゃ!」
アルメとオネットは体勢を崩す。どうやら白髪の男は今転移してきた様だ。
「狭いって……」




