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くいかえし  作者: Kot
ムレスズメの様に
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3−26 とある村の図書館で

「図書館と言うほど大きくはありませんが。魔術書は全てこちらに保管してあります」

フローレに案内された場所は二階建ての母屋でこの村で一番大きな建物だ。


「ありがとうございます、フローレさん」


オネットはそうお礼を言うと。開かれた扉のな中に足を踏み入れる。


「お好きなだけご利用していただけてかまいません。私は村の南側にいますので。何かあれば村の者に伝えてください。直ぐに駆け付けますので」

フローレはそう言うと軽く礼をしてとそっと扉を閉めた。


規則正しく並ぶ本棚と隙間無く納められた本達。この世でオネットが一番落ち着く光景に軽く息を吐くとオネットはゆっくり見渡しながら奥に進んだ。


見慣れた本、懐かしい本に目を取られながら進み本棚の角を曲がると案の定本の壁が出来つつ有るのをオネットは見た。


「リベルテさん、総会とは違うんですよここは」


声をかけられ、床にあぐらをかいて座っていた青年は本から顔を上げオネットを確認すると。再び本に視線を戻し口を開いた。


「心配しなくても、汚さない様に配慮しているよ」

「床に置くのが問題なのです」


少し怒った顔でオネットに言われたリベルテはチラリとその表情を確認すると。仕方が無いと言った様子で右手を本から離し、軽く手を上げた。


するとリベルテの周りに築きつつ有る本の山は床から少し浮き上がり。リベルテはこれで良いかとオネットを見た。


「もう、子供の様な対応を…」


「子供はこんな丁寧な魔術は使えないよ」


「そうですか……それで何」「ああぁ!」


肩をすくめてそう言ったリベルテ、オネットは諦めて彼に進捗の程を聞こうとしたが直後、大きな声がし肩が跳ねた。

「お兄ちゃん!魔術を使う時は呼ぶって言った!」

声のする方を見ると一人の少年がリベルテを指差し、駆け足でこちらに向かって来た。


「……」


明らかに自身の事を指していると分かっているはずのリベルテは、しかし少年に視線を移す事なく本に視線を移したままでいるが、先ほどまで間をおかずに動いていた手は止まっている。


「お兄ちゃん〜魔じゅつぅ〜」


リベルテの元に到着した少年は彼の背に突進しその背に乗り上げる。


「重い、邪魔しないで」

「え〜」

子供とリベルテという意外な組み合わせにオネットは数度瞬きをしたが。対応に困っているリベルテを見かねてオネットは少年に声をかけた。

「こんにちは」

声かけニコリと微笑むと少年はオネットに気づいて口を開けたまま動きを止めた。

どうしたのかと内心慌てたが。再び笑顔で話しかけた。


「君は魔術に興味があるの?」

「うん、」


「お姉さんも魔術師なんだ」

「そうなの?おねちゃんが?」

少し訝しげで怪しむ視線にオネットは面食らっう。魔女が守るこの村でその視線を向けられるとは思わなかったからだ。


「そうだよ、ほら」

オネットは魔術師である事を証明するため。杖を差し出して見せる。

少年は描かれた魔術語を見て目を輝かせた。


「何の魔術が使えるの?」

「たくさんあるよ、何が見たい?」

「蝶々!」

水や火などのがくると思ったがまさか昆虫を指名してくるとは思わなかった。魔術で生き物を作る事はできないが、しかし視覚的または聴覚的錯覚を利用して、少年が見たい「蝶々」を作り出す事はできる。

杖に描かれた魔術語がオネットの魔力によって光。まばらに光その光景を少年は目を輝かせて見入った。

やがて杖から光の粒が溢れ出して少年の目の前に集まり羽を形作る。

「君の蝶々はどんな色かな」

「…青色!」


光の粒は青く発色するとまるで生きている蝶の様に羽を羽ばたかせて少年の目の前で浮遊した。


「わぁ〜青色蝶々!綺麗」


リベルテの肩から手を離して少年は光の蝶に手を伸ばす。一度羽を掴もうとしたその手は戸惑い、生き物を扱う様に小さな手でお椀を作った。


蝶は飛びつかれたのか、その手に止まってパタリと羽を閉じる。触覚がこちらを探る様に動いてまるで懐いている様だ。


「可愛い!」


「かわいい?」


「みんなに見せて来ていい!?」


リベルテの呟きは聞こえなかった様で興奮のまま少年はオネットに問う。オネットは頷いて自身の手を少年の手にそっと添え。魔力の固定をする。


「今日の夕方、太陽がオレンジになった時に花畑に離して上げてね」

「うん!魔術師のおねえちゃん、ありがとう!」


少年はキラキラした瞳でオネットに礼を言った後。足元に浮かぶ本の山を慎重に避けて出口に駆けた。その背をオネットは手を振り見送る。誰かが喜ぶ魔術を使ったのはいつぶりだろうと、達成感と懐かしいさが心に広がった。


「何が、可笑しいですか?」


背後でクスクスと漏れ出た声に振り返ると。リベルテは顔を背けて口元を手で覆っている。


「ふっ、いやごめん君が子供と触れ合う姿が意外で」

「それはリベルテさんもですよ。魔術を見せる約束をされていた良いですし」


オネットはリベルテの作り上げた本の壁越しに彼の隣に座った。


「あれは追い返すための冗談だよ、僕が魔術書を読んでいたらいつの間にか隣にいたんだ」

「冗談だなんて、見せてあげれば良いでは無いですか。そんなに減る者でも無いでしょう?」

「君はここまでどうやって来たのか忘れたの?」

「足りませんでしたか?」

そう言ってオネットがローブの内ポケットを探りポーションを取り出すと。リベルテは心底嫌そうな顔を作り「いらない」と声を上げた。


「それで、スリス氏の魔術書は見つかりましたか」

「うん、ここにあるほとんどがスリス氏の寄贈した魔術書だよ。奥付けのページにサインが書いてある」

リベルテはそう言うと最後から二番目のページを開いて見せた。


発行日や出版社の書いてあるそのページの一番下には確かにスリス氏の指名が描かれてある。


「盗難防止だろうね。使われているインクに本人の魔力が込めてある」


「ではあの家から持ち出したのは。やはり知人の方ですかね」

「そうだね、さっき魔女の家で聞いた話しでは「スリス氏本人はここにいない」て言っていたよね」

「彼の使いの方はこの場所に出入りしていたと。もしくは」

「今はいないだろうね、魔力探知には引っかからなかった。魔女の結界の中に、結界を張るとは思えないし」

「そうですね、少なくとも私達は歓迎されてこの場所に入る事ができたわけですし」


「運が良ければ。会えるだろうけど、そこまでこの場所に長いする気は無い。スリス氏の魔力……微弱だけど。この魔力を探せば……」


「また、王都方面に向かいますか?」

「僕の探知範囲が通用する距離内で街を移動すれば、何か引っかかるだろうし。幸い魔術師総会からは特にこの旅の期限が決められていないからね」


「わかりました」


今後の方針を確認しオネットが頷くとリベルテは本を完全に閉じてオネットを見やる。


「それに、いつまでもラシラス家のご令嬢を預かってもいられないないからね」

「どうしてそんな酷いことを言うんです?」

「事実だろう君は本来の居場所にあるべきだ」

「私は総会から依頼を受けた魔術師です。本来の職務を全うしています」


ここまでの間それなりに信頼を得たと自負していたオネットは、まるで初めて会った時同様の拒絶を感じ胸のうちに焦りが生じた。それと同時にどうしてその様な事を言うのか疑問が生まれる。


「リベルテさん急にどうしたのですか?まるで突き放されている様で悲しくなります」

「そうやって、切に感情を伝えてくるところ嫌いじゃ無いよ」

「え!」

いきなりの好感を伝えられてオネットは驚き声を上げると、リベルテに横目で睨まれ口を押さえた。

「僕なりに君を思っているんだ。同行すると聞いてから君の事情はあらかた聞いている。と言うか釘を刺されたと言ってもいいかな」


「釘?…………何を聞かれましたか」

何かを悟ったのか、オネットが急に真顔になりリベルテは一瞬困惑したが。表情に表す事なく続けた。


「君のご尊父のこと…………それとアシヌス家の長男との婚約」

「まだしていません!」

「……大きな声でをださいで」

「すみません、でも私は婚約には反対していて、それを父と話し合うため王都には一度戻らなければなりませんが。具体的な期限もまだ示されていませんし」


「この旅のを利用して時間稼ぎをする気なんだ。あわよくば有耶無耶のままにしたいと」

「そこまでは思っていません。ただ私でなくともラシラスにはもう一人娘もいますし……」


そこまで言うとオネットは俯き無言になる。落ち着きがなくなったのか。杖を膝に置いて撫で始める。


「さっきの少年に見せた魔術、魔力を光の屈折を利用して可視化した。とてつもなく汎用性の欠片もない魔術だ」

「なんて酷いことを言うのですか」

「…そのま魔術は誰から教わったの?」

「誰からだと思います?」

唐突な質問だが、オネットはニヤケ顔でリベルテに質問をし返した。


「……王宮魔術師長」

「違います。ルガルデ先生からですよ」


オネットにニヤケ顔で聞かれなくてもなんとなく予想はしていた。他でもない自身も父から習ったのだ。


「ただの娯楽程度の魔術を生徒に教えるなんて……」

「先生らしいではありませんか。彼の方は魔術は人の心に寄り添う物とおしゃっていました」


オネットは先程の魔術を使用し光の粒を表す。黄金に輝くそれは集まりやがて小さな人の形を作った。


オネット膝の上。椅子に座り本を読むその姿は女性でたまに書物をしたりと忙しなく動いている。


「私の母です……寂しくなった時。この魔術は母の姿を写してくださいました」

「……そう」


女性は立ち上がり優雅に歩く、確かに貴族に女性だとわかる仕草も表現しており。オネットが母の姿を今でも明確に覚えていることがわかる。


「よく覚えているんだね、そうやって動く姿を表現できるのは凄いと思うよ」

「ありがとうございます。何度も使用したので一番得意な魔術なんです」

「なるほど、だから君は攻撃魔術が下手なのか」


褒められ喜ぶオネットにリベルテはすかさず揚げ足を取る。

確かに初めの頃は苦戦したが。経験を重ねて一人で戦える程度にはなってきたと。オネットは内心思う。

 

「そう、揶揄わないでください。リベルテさん、もし良ければ好きな人や動物を表現しましょうか」


「…………特に好きな物は無い」

「人もですか?」


他意はないのであろう。単純な疑問で首を傾げてそう問うオネットにリベルテは無言で視線を向ける。

彼女の膝には幼い少女と本を読む母親の姿がある。


「父さん…覚えてる……」

「もちろん」


母子の姿は一度消えて黄金の粒は再び集まり人の姿を形作る。

片手に本を持ち歩く姿。座って本を指差し話しかける姿。跪いて手を差し出す姿、その手から光の粒が形作れており魔術を使用している姿である事がわかる。オネットが見てきたルガルデの姿なのだろう。



そう、父はこう言う姿をしていた。



輝く光の粒の向こうに、白いローブを羽織り、自分と同じ長い金髪を一つに括り。杖を持たず、変わりに魔術書を片手に歩きまわる。そんな姿。


「どうですか、リベルテさん」


オネットの声がや優しく響く。自由に動く黄金の光に見入ってすぐに答えられなかった。


「……そっくりだ……」


「リベルテ!フローレが夕ご飯ご馳走してくれるって!」


突然開けられた扉に今は見たく無い黒髪と白髪が現れる。ため息を呑み込み彼女の元から散っていく黄金を目で追う。不意に先程の自分の様子を思い出す。


……声は震えていなかっただろうか。僅かに滲み初めていた自分の視界をこの場で拭うのは憚れる。

そっと彼女を覗き見ると。彼女は笑顔で乱入者の話しに頷いている。

目が会ったその榛色の瞳は僅かに驚いてリベルテを彼等の視線から隠すため立ち上がる。


涙を拭ったのはいつぶりだろうか。

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