3−27 帰りを待つ村
空がオレンジになった頃、白い花もその色に染まる花畑で少年はそっと手を広げてその手に止まっている蝶を花畑に放した。
周囲には少年意外にも数名の子供達がその蝶の行末を見守っている。
蝶は羽ばたき空高く舞う。やがてまだ青が残る空に溶ける様に、光の粒になりそっといなくなった。
「オネット、リベルテは来ないって?」
「はい、まだいろいろと調べたい事があるらしく」
「本当に食べないよな。体大丈夫なのか?」
「研究色が強いと睡眠や食事を抜いて没頭してしまう方が多いいんです。そういった生活をしていると空腹に慣れて、あまり感じ無くなるんです。意外と死にませんよ」
「いや、体に悪いから……やった事ある主張だな……」
オネットの場合は試しでもしたのか。自分の実験の成果を発表されている様な表情で言うので、注意っすべきか心配すべきかわからない。
良い匂いが家々から漏れ出て小さな村は歩くだけでお腹が鳴る。
季節様々な花に囲まれた平家の戸をノックすると、扉は人の手を借りずとも開きアルメ達をでむかえた。
「おかえりなさい。丁度夕食の準備ができましたよ」
「ありがとうございますフローレさん」
「お客様ですから、おもてなしをさせて下さい。村の子供達を喜ばせてくれたお礼でもありますし」
フローレは皿をダイニングテーブルに置き微笑んだ。机の上には。パンにホワイトシチュー。チキンのソテー、サラダと机一杯に料理が並んでいる。
「ご馳走ですね」
まるでお祝いのだとアルメはソワソワとしながら席に着く。隣を見ると白髪の男も同様に席についてソワソワしていた。彼が手をつけずに我慢している様子を初めて見たとアルメは関心したが次の瞬間長い手がスッと伸びたのでアルメは思わず掴む。
「ふふ、おまたせ致しました。どうぞ遠慮せずお召し上がりください」
シチューは深皿に注がれ。チキンはナイフで切り分けられる。
至れり尽せりの食卓は穏やかに始まった。
「いただきます」
手を合わせてシチューを口に運ぶと。ミルクのクリーミーな風味が口に広がりお腹を温める。
チキンはたっぷりとかかった香ばしいソースと中に詰められた野菜の甘みが広がり食欲を増幅させる。
「美味しい」一言この言葉に尽きる。
「ありがとうございます」
フローレは心底嬉しそうな声と表情で食事をするアルメ達を見守り、自身も食事をした。
「フローレさんの先生は料理も教えてくれたんですね」
「えぇ、魔女は基本魔力さえあれば食事の必要性はありませんが、それでも食事を楽しむ味覚はありますし。私の先生はそれを楽しまないのはもったい無いと。色んな料理を食べさせてくれました」
「その方、フローレさんの元となった方ですか」
先の戦いで魔女とその分身体同士の距離や日常的な行動が気になったオネットは単純な好奇心からフローレにそう尋ねる。
フローレは一瞬手を止めたが。すぐに恥ずかしいそうな表情をして少し小さな声で答えた。
「違います……私…分身体、俗に言う魔女の弟子を持ったことが無くて」
「それってつまり!」
食事中にも関わらずオネットは興奮し、瞳をキラキラさせて隣に座るフローレを凝視する。アルメは何故かハラハラしながら向かいの席に座る二人をパンをかじりながら見守った。
「えぇ、元祖と言えば良いのか。今で言うと古代の時からこの生を貫いています」
「本当ですか!」
長く生きているとは思っていたが。古代時代からとはアルメも思わず食べる手が止まった。
「内緒ですよ」
照れながらそう言ったフローレにアルメもオネットも頷いた。
その後、夕食を終えた四人は食後のお茶を飲みながら語り合った。主にオネットがフローレに質問をしてフローレがそれに答えるだけで、アルメは会話にあまり参加しなかったが新鮮な内容に興味深く耳を傾けた。
そうしてすっかり日が沈んだ頃、家の扉がノックされた。
リベルテが来たのかとアルメ達は思ったが。開かれた扉の先にいたのはフードを深く被った男だった。
「出迎えが無いから何か合ったのかと思いました。フローレさん」
「申し訳ありません、お客様がいらしていて」
黒いフードを外しながら家に入ってくる姿は慣れている。歳は二十前半、リベルテと同じくらいの赤茶の髪色をした青年だ。
フローレはたち上がり青年に歩み寄ると、アルメ達に彼を紹介した。
「この方はアルデラ様、丁度皆様が探されているリギー・スリス様のお弟子さんになります」
思わぬ情報にアルメはフリーズし、オネットは立ち上がり、白髪の男はカップに紅茶を注いだ。
「探している……」
こちらの驚いた反応とは違い、アルデラと言われた男は眉を寄せて鋭い視線からは敵意を感じる。
オネットは慌てて敵意がない事を証明した。
「私達は総会本部から来た者です。総帥様から直々にリギー・スリス氏の捜索を依頼されました。
総会の指導員を引退されてから。四年前全く連絡取れなくなり、大変心配されていまして」
「……総会、魔術師総会の人間……」
オネットの話しを聞いて、男からは明らかな敵意はなくなったが眉間に皺は濃い。
フローレも何と声をかけたら良いから迷っているらしく。家の中の空気は硬く緊張していた。
「師匠はご存命だ。心配ならそれだけ知って入れば充分だろう。生憎、師匠の了承も無しにお前達に所在を教えるわけには行かない」
「そうですか……わかりました、アシヌス総帥にはそうお伝えします」
すぐに引いたオネットに拍子抜けしたのか。アルデラは眉間の皺を解いた。
家の空気が緊張から解放され、フローレも安堵しアルデラに要件を伺う。
「それにしても、アルデラ様が事前の連絡もせずに来られるなんて珍しいですね何かあったのですか?」
「あぁ、突然伺って申し訳無い。至急フローレ様に直接お尋ねしたい事があ」
アルデラがフローレに要件を言い終える前に閉じられていた家の扉が勢いよく開かれた。
「ビックリした。ノックぐらいしろよ」
アルメはやっと声を出しリベルテを嗜める。
しかしリベルテは口を開く事なく目の前の男から視線を外ずさない。その目は驚いているわけでも無く、訝しんでいる様子も無い。こちらが動揺するほど無表情で見据えている。
対してアルデラの方は目を見開き、その人物を視認してから数秒後、掠れた声で名を口にした。
「リ、リベール」
その名を耳に入れた途端リベルテの表情は一変し瞬時に彼の周りに魔術陣が展開された。
「アルデラ様!」
発動されたのは拘束魔術。アルデラは咄嗟にフローレを押し向かいくる鎖から遠ざけた。
しかし元より鎖は、アルデラしか捉えておらず。魔術陣から現れた全ての半透明な鎖はリベルテ意識通りアルデラの全身を拘束した。
「くっ!」
「っ!」
身動きが取れないアルデラ、しかし魔術を発動する事は可能だった。
拘束魔術に電撃が走りそれを受けたリベルテの魔術陣はバチンを音を立てて解除された。
アルデラを拘束していた鎖は彼から弾かれる様に消え。瞬間地面に魔術陣が浮かび上がる。
「待て!」
リベルテは叫ぶ、まるで宿敵でも前にしたかの様に。冷静さを欠いた姿にオネットとアルメは止める事も、手を貸す事も出来なかった。
アルデラは消えた。地面に現れた魔術陣は転移魔術だった様でリベルテが再び発動した拘束魔術が捉える前に彼は転移した。
「リベルテさんどうされたのですか!?」
何がトリガーだったのか。扉を開けた時はまだ冷静だったリベルテは混乱し周りが見えていない。
アルデラが消えた地面に手を置く姿にリベルテの次の行動を察したオネットは慌ててリベルテに駆け寄る。
フローレも理解し。オネットのローブと杖が急ぐ様に彼女の元に集まる。
「何、何すんの!?」
「アルデラさんを追って転移します」
「えっ!待って!」
冷静にそう言ったオネットはローブと杖を受け取りアルメに手を伸ばす。
アルメも焦りのままにリュックを背負いその手に捕まると同時にその姿はフローレの家からなくなっていた。
僅か数分。フローレは久々に感じた焦りにヘタリと床に座り込んだ。いきなりの事でお別れも出来なかったとため息が出る。その後訪れた静寂に無償なまでの寂しさが湧いてでた。
カタンとしばらくして部屋に音が響く。見るとダイニングテーブルには先程の騒ぎは無かったかの様に白髪の男がティーカップをソーサーに置いている。ゆっくりとこちらを向いた赤い瞳は無機質で何の焦りも感じていない様だが代わりにフローレの方がアワアワと焦り始める。
置いて行かれてしまったのだ。一度転移先を追い転移すると。痕跡は乱れて、間違った場所に転移してしまうかもしれない。フローレがどうすべきかと考えていると白髪の男は達上がり北の方角を向く。
フローレがどうしたのかと顔を上げて瞬きをした瞬間男の姿は消えていた。
空間に穴が空いた様な魔力は男が転移をし事をしらっしめた。
「この感覚久々ね」
置いて行かれた感覚。静かな部屋にカチャカチャと食器を片付ける音が響き出し。フローレは立ち上がった。




