3−22 聴取
一夜にして大勢の人が連れ去られた街は人々が寝静まった真夜中だったため直ぐには気づかれる事が無かった。だが朝に近づくにつれて騒然となり。余波は時間と共に広がり。日が昇る前に地元の騎士団によって捜索隊が組まれた。
しかし捜索から一時間後に街の商店街の広場で集団で倒れている姿を発見された。
外傷は無く。ほとんどは寝巻き姿、素足で発見されたためなんらかの魔術的干渉よる可能性が高いとして。王都の第三騎士団にすぐさま協力要請が入ったがその数時間後直ぐに魔術師総会に調査権が移った。
「うぅーんおなか痛い」
ベットゴロン寝返りを打ったアルメは腹を抑えて唸る。
何が何だわからない。気がついたらアルメは椅子に座っており、目の前には豪華な食事が並べられていた。いつもならその光景に我を忘れて食事を初めてしまう所だが。
アルメの胃はすでに満腹でこれ以上は入らないと悲鳴を上げていた。自身に起こった不可解な現状に混乱する中、目の前に並んだ食事に手を伸ばす白い手が視界に入り。冷静になる。
……何だ夢か……
黙々と隣で食事をする白髪の男。そういえばリベルテが彼の魔術で変な夢を見るなどと聴いた様な、無かった様なと思いこれがその影響なのかと、その時アルメは思ったが後日あの光景が現実で起こった事だと腹の腹痛とリベルテの言葉で理解した。
「はぁー痛い痛いなー」
再びゴロンと寝返りを打ったアルメの視界にベットに短く散らばる白髪が視界に入る。
白髪の男はアルメのベット側に座り顔のみをベットに横にした状態で干し肉をモゴモゴと齧っている。
「お前はへぇーきそうだな……」
それもそうかとアルメは思った普段どれだけ食べても物足りない表情をしているのだ。
文字通り。底無しの胃袋なのだろう。
「君はまるで病人の様に苦しむんだね。隣に本当の怪我人が居るのに」
「怪我はすっかり治っていますよ。リベルテさんのおかげで……恥ずかしながら一度の魔力消費が多かった様です」
ベットから上半身を起こしクッションに背を預けたオネットが自身の右腕をさすりながら答えるとアルメは再び寝返りを打ちオネットとリベルテの方を向く。
「回復魔術って腹痛にも聞くの?」
「試すならまずは胃の中の物を消化してからにしてね」
オネットのベット脇の椅子に腰掛けたリベルテは本をめくりながら真顔でそう言った。
「本当に君達は何の戦力にならないね」
しかし真顔は一変し不機嫌そうな表情で奥のベットで休むアルメ達もとい白髪の男をみやる。
「私は仕方ないだろ、こいつにも複雑な攻略法は不向きだろ?」
確かにアルメと彼を放置したのもそう思い至ったからだ。しかし最後の最後まで、そう魔女が連れ去った街の人までの転移すらこの男は協力をする姿勢を示さなかった。
それもこれも、魔女の空間が崩れ魔術から逃れた人々同様にアルメも意識を手放したからだ。
おかげで対話もままならない、もとい出来ない男にあれやこれやと話しても転移に協力をしてくれる事は無く、その後魔女との戦闘以上に魔力を消費し疲労感に襲われたのは言うまでもない。
「とゆうか、リベルテなんでこの部屋にいるんだよ、疲れてるんなら自分の部屋で休めよ」
数時間前のことを思い出し、溜め息を滲ませたリベルテにアルメがそう言うとリベルテは再び本に視線を下ろして話出す。
「連れの治療を優先したいと言えばどんな魔術師も流石に遠慮するだろう。すでに魔術師総会に報告が済んでいるんだから僕達の仕事は終わっているのに、研究しか脳が無い魔術師はどうして……」
後半愚痴が出かかったリベルテは短い溜め息でそれを止める。
転移後、自分達が止まっていた宿に戻ったリベルテは直ぐに魔術師総会に緊急報告文を転移で送った。それにより、すでに第三騎士団に入っていた報告は総会本部に届いたリベルテの魔女討伐の報告により取り消さた。
以降の後始末は、総会所属の魔術師数名がその任務を受け、今現在被害に合った人々の体調や使用された魔術の調査をしている。
そんな魔術師達は街に到着するやいなや、実際に魔女の空間にて魔女とその弟子に相対したリベルテ達の元に現れ、その詳細を聞きたいと押し合いになりながら詰め寄って来たらしい。
一も二も無く「連れの治療」を発してこの部屋に入って来たリベルテは、それ以降この部屋に居座っている。
とは言え、事実治療はすでに終わっているのでリベルテのやる事は休息以外無いのだが。部屋に二つしか無いベットはリベルテより重症な二人が使っているため、適当な椅子を何故かオネットの近くに持って行き、いつのまにか持っていた本を読み始めた。
「本、全て返却していなかったのですか?」
「この本は魔女の結界内で転がっていた物だよ。幾つか空間を破壊している時に拾った」
「本が一冊だけ?」
「いや、魔女にしては少ない上に比較的新しい本しか無かったけど、図書室の様な部屋があってね。
何と無く手に取ってみるとこの街の刻印が背表紙に押されていたから、一応持って帰ったんだよ」
「そうなんですね……あの魔女この街の出入りをよくしていたのでしょうか?」
適当にページをめくるリベルテの手元を見ながらそう尋ねると、リベルテは興味が無いのか少しの間無言だったが、しばらくして答えた。
「本は身分証を持っていないと借りれないし、盗んでいないなら人に紛れていたのかもね」
「後日、その本を返しに行きましょうね……そうすれば魔女が身分証を持っていたか知れますし」
「どうして知る必要があるの?」
「気になりませんか?身分証があると言う事は人に紛れて暮らす期間が合ったと言う事ですし。それがわかれば、今回の大勢の人を一度に攫う手段をとった理由が想像できます」
すでに消えた魔女であるにも関わらずオネットはその前の行動に興味が湧いてしまったらしい。
そんな事を知ったとして何の利も得る事は出来ないのにと、すでに魔女の見た目も忘れてしまったリベルテは興味も無くして。オネットの話しに適当に相槌を打とうかとしたが。隣で横になっているアルメが興味を持ってしまったらしく。オネットに尋ねた。
「大勢を攫った動機がわかるの?」
「想像の範囲ですが。まず、この街での魔女による被害はここ二十年以上起こっていません。これは総会本部の魔術被害累計書を見た事があるので知っているのですが。実はこの年数は街の規模によってはそうおかしな話では無いんです。その地に住まう人の数が少なければ少ないほど魔女は姿を現しません。理由は単純で、見つかるリスクが高いからです。人が少ない分大気中の魔力の流れは単純化しますし。魔力生物である彼女達は魔術関連以外の攻撃手段は持ち合わせていません。何度か戦闘を重ねて気づいたのですが。彼女達の体は元来の自然サイクル、つまり繁殖の工程へて作られた体では無いから、形だけで魔術の補助によって動く前提の単純な作りをしている様で。物理的攻撃にはかなり脆い様です、下手に魔術を使わずに、人を捕食するとなれば。返り討ちに会う可能性があります。
例え影から襲っても、彼女達に人を一撃で仕留めれる可能性は低く。逃げられ、助けてを呼ばれれば。街の中であれば直ぐに人が駆けつけます。それ故にこの街での狩は魔女にとってそれなりにリスクがあるのに今回は一人、二人では無く大勢の人を連れ去りました。この行動はおかしく一件大規模な転移術を使用したため計画的な行動に見えますが転移ほど痕跡の残る魔術はありません」
そうして息継ぎも忘れた様に話始めたオネットは自身の考察材料は一から説明し始めようやく今回の魔女の話に繋がった時、隣で本をめくっていたリベルテの横槍が入る。
「あの転移術、短時間で痕跡を消す様に調整されていたよ。僕も見た事無い魔術語の組み替えをしている見たいだったし、かなり計画的だった」
自身も知らない情報にフリーズしたオネットは羞恥心によりアルメに方をチラリとみると。アルメはスースーと寝息を立てて眠っていた。
「そう………なのですね。お恥ずかしい想像を長々と……」
「気にする必要無いよ」
顔を俯け羞恥とショックそれと少しの安堵を感じるオネットにリベルテは軽い口調で慰めの言葉を発した。
「寝付けの朗読になった様だし」
しかし次にはいつもの遠回しな皮肉を言いオネットは小さな唸り声をあげる。今日は何も話さないとオネットも布団に潜ろうとしたが、リベルテの方から話題を変えて話かけて来た。
「そう言えば君、前にこの著作の事。話して無かったっけ?」
リベルテに手にある本はオネットも探し回っただけあって馴染み深い「アルガレアの波」だった。その本が魔女の元に合ったのなら……もしかしてと一昨日の光景を思い出した。
しかしそうだったとしても、時は進み続けるしか出来ない。いくら過去を思って行動しても全て妄想の中の出来事でありオネットは早々に考えるのをやめてリベルテの問いに答える。
「はい、本をお渡しした時に話した内容ですよね?以前学園で教師されていたと……」
「そうその話し。君はこの作者のことどれだけ知っているの?」
前回話した時はさほど興味が有る様に見えなかったが、どうやらそうでは無かった様だ。
「どれだけ?実際にお会いした事は無いので……」
「そっか、君って一つの情報を出すと芋づる式に湧いて出るから。面白い話しが聞けると思ったんだけど……」
先ほど自身の考察のハズレを途中で指摘された身である。再びペラペラと動き出しそうな口をグッと堪えるが。せっかくの話題を無下にするのは忍びない。オネットは主観を取り除いた知っている確定的な話をする事にした。
「お姿は教員時代の写真を拝見しました。とても穏やかそうな人だと思った記憶はあります。そうそれで教師を辞められた理由を知りたいと思って。当時から学園にお勤めしている教授や教員にお話をお聞きして回ったんです。」
入学当時から魔術書を読み更けっていたオネットが「アルガレアの波」に辿りつくのは直ぐだった。
過去に学園で教授をしていたことに気づいたのは。オネットが二年生の頃。学園の歴史に興味を持った瞬間がありその日の内に記録室(今世まで学園で行われた行事や事件、出来事を記録した書を保管する場所)に向かい。二十年前の資料でその著者の名前を見つけた。
「リギー・スルス氏は……どうやら……今から十年程前に突然総会本部から自ら除籍願いを出された様で、そのまま学園もお辞めになられたそうです。深い理由はどの方もハッキリとは教えてくれれませんでした」
何と無く。リベルテがこの話に興味を持った理由を話している最中に思い至ってしまい。オネットは言葉を続けるのを躊躇ってしまいそうになった。
思い出したのは。スリス氏の退職日。
十年前のその日それはオネットも忘れられない日。……尊敬するルガルデの訃報を父から知らされた日だ。
「そう……それ以外は知らないの?」
「えぇ、個人の事ですし。本当に急にお辞めになられたとしか……」
空気が変わった。そう感じたのは気のせいでは無い様だ。
リベルテの何処か掴みどころ無い立ち居振る舞いも。冷たくも一定の距離を保つ姿勢も。
リベルテの処世術なのだろうと……
しかし今は僅かに手を伸ばされている様なそんな空気を感じた。
「その人は僕の父の指導者でも合った様だよ」
本を閉じその表紙に手を置いて、リベルテは俯きながらも話す。
「そうなのですね」
「うん……」
……
「だから、僕はその人に話を聞きたい」
僅かな間の後発せられたその言葉は、何処か力が込められたいた。




