2−11 隠れた魔女
月明かりの下、その模様は怪しく光りどこか虚な目をした女の足元を照らした。
オネット、カーシェ先に攻撃を仕掛けたのはカーシェだった。
彼女の足元の土は隆起し土を巻き上げ、月光に反射する金属を生成した。
「⁉︎」
オネットはすかさず、防御壁で攻撃を止めるが魔術で作った防御壁に衝突するとそれらの金属はわずかに貫通し、オネットとアルメにその静止した姿を見せた。
それはアルメには見覚え無いものだがオネットにはあった。細長い針、はかつてオネットがここで拾ったものと造形と酷似していた。それもそのはず、針を頼りににこの場所まで来たのだ。
魔女が使用者である事は考えずともわかった。
「最近の魔術は脆弱ね、以前はこの程度びくともしなかったのに」
カーシェは再びゆっくりと歩みを進めてオネット達に近づいた。彼女の周りにはするどい針がこちらに針先を向けて漂っている。
オネットは一度防御壁を解除するとパラパラと針が地面に落ちた。
「オネット…私が注意を引くから、士団に報告してくれ」
アルメは小声で彼女を促す、しかしオネットは首を縦には降らなかった。
そうこうしている間に再びアルメとオネットに向かって攻撃が飛んでくる。
もう一度防御壁を展開すると今度は数個が跳ね返る様に、光を反射してあたりに散らばるのが見えた。
「あら?」
「確かに、古代の方に比べたら、随分と魔力は劣るでしょう……その代わりより効率を上げ対応スピードも貴方とは格段に違いますよ」
「うふふ」
魔女は不敵に笑う、その声はアルメには乾いた様に聞こえた。
そして異変は起きた。わずかに悪寒が走り、アルメは背後の木箱に目線を向けると、わずかに動いたそれに危険を察知しオネットの腕を掴み横に飛び退いた。
瞬間背後の黒い棺桶は破ぜた。
アルメは立ち上がり、残骸に目線をやれば土煙にまみれながら棺桶の中身がその姿を表した。
それは見覚えのある甲冑だった。
(あの時カーシェさんが運んでいたもの)
それは初日にたまたま見かけた彼女が運び出していたものだ。邸内で道を間違え、壁掛けランプも付いていない場所に来てしまい引き換えそうとした時、薄暗い廊下を歩くカーシェを見かけた。
その時のカーシェの驚いた表情は今でも鮮明に思い出せる。
「噂の鎧、ですね」
「嗚呼、魔女じゃなくってよかったって言いたいけど」
「どうでしょう、魔力探知も吹き飛ばされ魔力の流れを見る事はできませんが恐らく魔女と同格か……」
(そーいや動くんだったな)
冷や汗を流しアルメは思案したが当然、打開策などは浮かばない。
「アルメさん私が注意を引きますので、魔術士団に報告をっ」
オネットの言葉を遮り、その刃は再び襲いかかった、裁縫ばりほどの大きさだったそれは先ほどよりも太く早い。防御壁を再び貫通したが、オネット達に届く事はなかった。
(本数が減っている)
「魔術の効率化ぐらい私にもできる」
「そうですか、古臭い生き物はお堅い脳みそしか持ち合わせていない方が多いので」
誰に対する嫌味なのか。
オネットは嬉々として反撃を開始した、一方的にやられたままなのは意に反する。
杖の魔術語が怪しく光輝く、今もっとも効率の良い魔法は風魔術、アルメもよく見たリベルテが使う蜃気楼の様な弾丸だった。
暗闇で波を打つ様に揺れる弾丸、風を回転させ空気を圧縮して表す魔術は、使い手によっては弾丸の様に的を貫く事ができる。
「っ行くよ!」
「はい!」
オネットの遮られた言葉を汲み取り、攻撃の瞬間に合わせてアルメは走り出す。
オネットは魔女に攻撃の隙を与えないために、攻撃を繰り出し続けた。
残念ながら、攻撃は魔女の作った防御壁を破壊する事なく、攻撃は無効化されるが、魔女はその場を動けなかった。
いや動く必要がなかった。
「後ろだ!」
アルメの叫びと共に背後の気配に気づいたがすでに時は遅く、オネットは防御壁を作る暇なく背後から攻撃に体を吹き飛ばされた。
「っ!」
いつのまにか動き始めたのだろう、再び魔力探知を行い、警戒をしていたはずだが、その鎧はオネットの背後に現た。硬い鉄の腕がオネットの右脇腹に拳を繰り出し、信じれれない怪力を見せた。
「オネッ」
「危なかった、この敷地の外に出られたら。もう掴まれる事ができなくなるから」
オネットの攻撃から解放された魔女はすかさず鎖でアルメを捉えた。黒く重い鎖、かつてリベルテが使用したものと違い。魔術ではなく、まるで本物の鎖に縛られている様だった。
「カーシェさん、貴方が本当に魔女ならどうして私達の前に姿を表した。ただ魔力を得るためならあのまま潜んでいれば良かったのに」
アルメの問いは注意をこちらに向けるためのものだった。
しかしカーシェは小さい声ながらにその問いに答えた。
「潜み続ける…………私はねただここから出たいだけ」
月を見つめるその姿、その眼が見る物はきっとアルメには見えないもの。
「ッ!」
ギリギリとアルメを締め付ける鎖の力は強くなり、硬く冷たい鉄の感覚が熱を持った皮膚と痛みによって感じなくなる。
「アルメさん!!」
オネットは助けに入るが、鎧に阻まれアルメの元に辿り着け無い。防御壁で身を守るが魔女の針の攻撃とは違い、鎧の攻撃は、近接的で武器を持っておらず。冷たい鉄の拳を振り下ろすだけでなのに容易くオネットの防御壁を砕いてしまう。
それでも生身の人間とは違い、何処か機械的でぎこちない動きは、オネットの身体能力でもわずかに避ける事ができた。頬に擦り傷ができたが、オネットは気にせず思考を回し、打開策を見出す。わずかにプライドが横切ったが、すぐに打ち消し今できる最善の魔術を放つ。
自身が生み出せる最高硬度の防御壁を作る。一撃を防いだその瞬間に杖をから魔術を放つ。
空高く上がった白い光、数秒当たりは一面を光で照らた。
「救助信号です、すぐに士団が駆けつけますよ、それ以上アルメさんに何かすれば」
「そう」
オネットの脅しは残念ながらカーシェには効かなかった様だ。
アルメは鎖から解き放たれたがそれは死を覚悟した。
旧校舎の壁目掛け、カーシェによって叩き着けられ、土煙を上げ壁のを砕くほどのに威力を全身に浴びた。
声にならない叫びを上げてオネットはアルメにもとえ駆け寄る。自分でも驚くほど体がよく動き、鈍い鎧の攻撃は防御壁を使わずとも避けることができた。
「アルメさん!アルメさん!」
「ッゴホ」
「すいません!私のせいで」
「違う、ごめん、何もできずに」
「動かないでください!何処が痛みますか⁉︎」
「大丈夫、どこも折れてない、運良く受け身をとれたから打撲程度で済んだ」
オネットは回復魔術をかける、アルメはこう言うが骨が折れていては設備が無い今、治療ができない。
「驚いた、今の人って頑丈なのね」
錆びた鉄の擦れる不快な音を立ててその鎧はカーシェの元へ歩みよる。
少し目を見開いた表情は再び虚な物になりアルメ達から視線を外し近付いてくるその鎧に手を伸ばした。
まるで絵物語りの様に鎧は魔女の手を取り跪いた。
「気色が悪い」
「オネット……」
「アルメさん士団はもうすぐ来ます。それまで何がなんでも守り通します」
「攻撃は効かないんだろう、二対一だ、私を置いて逃げくれ、私も走れないわけじゃ無い」
「わかっています。守りに徹しって時間を稼ぎます」
オネット冷静だった。二人別々に逃げてもあの鎖に捕まれば、今後は間違いなく殺されてしまうかもしれない。
「……ありがとう」
アルメは例を言う事しかできず。オネットを巻き込んでしまった自分を責めた。
「来ます!」
再び放たれた攻撃、杖を握り締め最高硬度の防御壁を作り出した。
鎖の群れは蛇の様に硬い体をくねらせオネットの防御壁に衝突する。鉄が擦れ火花が散るが、防御壁は破壊される事なく、オネット達を守った。
しかし、いつまで持つか。冷や汗を垂らすオネットはひしめく鎖の間から悠々とこちらに目を向ける物達を恨めしそうに睨みつけた。
そして…わずかな亀裂が視界に入る




