3.こいつ
アルメ達がいた場所よりさらに一時間進んだ先にある街、『タイバン』
かつてこの地は魔女の処刑場があり、その血が染み付いた街は魔力の流れが溜まりやすく、東西南北の中で魔獣の発生が多い。
それと同時に、魔術の開発も目まぐるしく奇しくももっとも魔術が発展した街になっていった。
「身分証を提示してください」
「はい」
五メートル程ある高さの外壁はよく見ると細かな魔術語が刻まれている。
強固な魔術で守られた入り口のない街は。門の様な四角い線を引かれた場所に身分証を当てると壁が透け通り抜けることができる。
「身分証の提示してください」
「ん?」
ふと後ろを見ると男の姿がない。結局アルメが何度言っても、お願いしても、男は転移をすることはなく歩いて街に到着した。
そんな男は串焼きにした肉を食べながら後ろをついて来ていたはずだが数分待っても、男が壁を抜けてくることはない。
ふと後ろに気配を感じ振り向くと、案の定男が肉を食べながら後ろにいた。三度目になると流石に驚くことはなく、呆れの様なものを感じた。
いつのまに街に入ったのかわからないが、問題が無いことにして街を歩き始めた。
「先にギルドによるかな」
夜になっても街は明るい、特に門からギルドに行く道にある屋台はこれからが本番と酒や肉などが並び、毎日お祭りの様な光景見ることができる。
アルメは欲望に耐えながらギルドに真っ直ぐ向かうが、男はそうでなかった様で。
「なんだあんた!」
客の持っている食べ物に手を伸ばし、押し合いになっている様子をみてアルメは逃げたくなった。
「何やってるんだよ、こっち」
男の腕を掴み、こちらにくる様引っ張るが男は動かない。
「金が入ったら買えばいいじゃん!早くギルドに行くぞ!」
抵抗感がなくなり、絡まれていた客に軽く会釈をして、アルメは男の腕掴んだままギルドに向かった。
ギルドは酒場も併設してあり、受付の向かい側は賑わっていた。
受付は空いており、ギルド職員が一人座っているだけだった。カウンターに頬杖をついてダルそうにしている職員は赤毛を跳ねさせたボサボサの頭を上下に揺らしている。
「客だぞ、ローリエ」
「うごッ……あー、討伐承諾書はお持ちですか?」
寝ぼけた頭で、思い出したかの様に手続きを始める娘はアルメの親友でもある。
「はい、牛型の魔術の承諾書と戦利品………あとこれも買い取って欲しい別でお願いげきるか」
「おー鱗じゃん、このサイズはトカゲ」
「蛇だよ、」
「綺麗に解体されているね、ちょっと待ってな」
ローリエは承諾書と戦利品を持ってカウンターの奥にに下がった。後しばらくして、お盆に依頼完了の金額を持って来た。
「はい、報酬金と買取金」
二つのトレーにそれぞれ銀貨4枚と金貨1枚乗せれれていた。
「ありがとう……あのさの相談があるんだけど」
アルメは銀貨のみ財布にしまうとトレーの金貨をチラ見した後ズイっとローリエに顔を寄せ呟いた。するとローリエは無言で手で金マークを作る。
「わかったよ」
アルメは財布から銅貨一枚を取り出しカウンターに置いたが、ローリエは指を三つ立てた。
「じゃあいい」
「わかった、二枚で聴く」
もう一枚銅貨を机に置くと小声で話始める。チラリと視線を背後の男に向けると男は酒場の方を見ておりこちらを気にしてはいない。
「後ろのさ、多分……冒険者だと思うんだけど、付き纏われてて調べてくれない?どっかパーティに入ってるんだっら連絡つけて欲しい」
「えー、いいよ」
あからさまな態度だが、本来はギルドの業務だ渡した銅貨はチップで早くして欲しい意図がこめられている。付き合いの長いローリエはその意図をくみとり「残業だ」と愚痴を言っていたがすぐに取り掛かってくれるらしく、アルメは両手のひらを合わせ感謝の形をとった。
少し時間が掛かる様なで、アルメは、男に振りかえり金貨を手渡した。
男が狩った魔獣の取り分だ。
「これ、あんたの分」
差し出された金貨を男は受け取るが金貨を目元辺りまで掲げると、それに噛みついた。
「何してんだ!馬鹿か……これで飯を買うんだよ、こっち!」
アルメは彼の手を引き 酒場に足を向けた。
「あれだけ食べたのに、まだ食べるのかよ、……何食べたい」
メニューを見せたが男の反応は薄い、アメルは諦め「適当に頼むな」と声をかけウエイトレスを呼んだ。
「ハンバーグ二つ、あと水」
ウエイトレスが下がったあとアルメは男に向き直る。男は他の客の食べ物が気になる様であちらこちらに視線お向けている。
「子供か」
周囲は笑い声に怒鳴り声、さらには泣き声まで聞こえとても騒がしい。そんな中で唯一アルメ達の席だけ静かだった。
笑上戸、泣き上戸、酒は人を大胆にする。ある女冒険者もその一人の様で、アルメ達の席にグラス片手に近づいて来た。防具を外した姿でラインがわかりやすい服を着ているため酒に酔った無粋な冒険者にチラチラ見られている。
「何〜この机は、静かね〜」
女は馴れ馴れしくアルメ肩に手を置いた。無論アルメは知らない冒険者だ。
「私も混ぜて〜」
机は円形になっていて、向かい合って座っていた二人の間に、女は椅子を持ってきて座り足を組んだ
(かっ絡まれた)
アルメは初め面倒くさいと思ったが、この無言の時間から解放されるのなら良いかと思い、空気に徹し頼ん料理を待つことにした。
女冒険者はすっかり目の前の男に夢中で、アルメに話を振ることはない。
体を男に向け、机に肘をついて顔の距離を近づける。
「お酒は嫌い?良かったらオススメのお酒、奢りましょうか?」
(この人よくここまで、話続けられるな)
男はアルメの時と同様一言も喋らない、首すら振らないが視線は女冒険者し向けられている。
「お待たせしましたー!」
美味しそうな香りとともにハンバーグが届いた。
日替わりのコーンスープも付いておりさっそく一口味わう。甘すぎず少しサッパリしているスープは、たっぷりとかかったデミグラスソースによく合う。ハンバーグは片手ほどの大きさがあり、切り割ると中からチーズがたっぷりと出てきて思わず「おお〜」と声が出た。
アルメも魔獣の肉を散々食べたが何せ大食漢、しかもプロが調理し料理は別腹だ。
さて食べるかとフォークを口に持って行こうとした時、チリンチリンとベルが鳴りギルドカウンターから呼び出しがかかった。
調べてもらった上待たせるのは申し訳なかったため、アルメは泣く泣く席をたった。
男を見ると話しかけられているのをそっちのけで食べ進めていた。
「わからんかった」
ギルドカウンターに行くと、開口一番そう言われた。
「まず冒険者じゃないね、どっかのパーティがやっとてるなら書類申請があるけど、無かった」
「……タイバンの森林で会ったんだけど」
「とゆうか街に入ったんなら身分証あるでしょ、見せてもらったら」
街に入るなら魔術壁に身分証をかざす必要がある。しかし男が入った姿をしかり見たわけではないのでアルメは面倒なことになりそうで不安だった。
「あのさ、もしかったら貴族の可能性はない?魔術師みたいだしかなり強い」
アルメはハンバーグを食べている男を改めて見た。
少し長い白髪はサラサラで、もともと着ている服も汚れておらず綺麗だ。赤い瞳はその白い色素と合わさると神秘的に見えた。
離れてみるとよくわかる。男は浮く、その容姿も、配色も、何もかも周りから一つ二つ上の存在に思えた。
「それで、職員としての勤めは果たしたんだけど」
その声にアルメは視線を戻すとローリエはニヤニヤと笑みを浮かべていた。そう彼女にはもう一つ顔があった
ハーっとため息をつき財布から銀貨を一枚取り出した。いわゆる情報屋だ。
じゃあっと軽く挨拶をかわし、アルメが席に戻ると女はいなくなっていたついでにアルメの分のハンバーグも、綺麗に完食されていた。
空の皿を見下ろししばらくフリーズしたアルメ、やがて腹の底から出てきた掠れた小さい声は誰にも届く事なく周囲の喧騒に溶けてしまった。
「こいつ」