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くいかえし  作者: Kot
アルメリアな感情
20/101

20.恐ろしい食欲

遅くなりました。


日が暮れても、グランは戻って来なかった。

木々の隙間から夕日が漏れ出ている光景を背にルシアは、建物内に戻る。

少年はルシアが建物を出た時と同じ位置、同じ方向を見ていた。その背は微動だにしない。


「人形?」


まるで息遣いすら感じない、内にある大きな塊の魔力だけが、その存在を示している。魔術抑制陣があるため、ルシアの張った結界内でなければルシアは感知できないが、結界内にいる今、その魔力の異常さがわかる。渦を巻いている、大きな魔力はそれ自体が生きている様で、ハリケーンの様に渦を巻く。


内に押し込まれているためその魔力を肌で感じる事は出来ない、その事にルシアは安堵した。

 

突然、結界に干渉する魔力を感じた、それは同士、いや総帥の物だろう。建物にかけた結界を解き、ルシアはグランを出迎える。

眉間に深い皺を寄せた男は、その帰りの遅さに機嫌を損ねていることに察しがつく、同士がいないためその威圧感にいつもより萎縮してしまう。

 

ニコニコヘラヘラ、それがルシアの同士、ブラン、従っている様でしたがっていない、無垢で自分の楽しい事しか興味を持たない男との対話は大変だが、少なくとも今一番そばにいて欲しい存在だ。しかし昨日の襲撃からもうすぐ一日が経とうとしている今、彼がリベルテに倒されてしまったと理解せざるを得ない。


「クソども、急ぐぞ、魔術師総会が動き嗅ぎ回っている、ブランの奴め仕留め損ねただけではなく、王都騎士団で幽閉せれている様だ」


いっそ殺されていれば良いものを、そんな言葉はリシアには聞こえない、ブランの安否を確認出来た、それだけで今少しの不安が消えていった。


きっと彼は牢屋の中で、傷だらけでも良い笑顔でニコニコヘラヘラいつも通りの彼でいるのだろう。


「そいつを連れて来い」


冷たい声で言い放つ、少年を目ですら示さず、グランは建物を出てた。

命令通りルシアは少年の方肩に手を置き建物の外に転移する、結界の丁度中央、目に見えないが足元から薄らと感じる魔力、恐らくこれが、リベルテの魔術抑制陣を解く手立てなのだろう、少年から手を離し直ぐに結界の端により息を潜める。


日が沈み周囲を照らすのは、結界越しの月明かり、それと魔術で作り出した。小さな灯りの球体だ。フワフワとまるで飛び回る様に中央の彼等の周りを照らす。離れた場所からそれを見たルシアは、まるで蛍の様だと思ったがこれから何が行われるかを考えると、綺麗などと思う事は出来なかった。


魔術移送、彼等が本当に親子ならどちらも傷つく事なく終わる。冷や汗を浮かべながら、彼等の動作を注視する。


「面倒な事をしてくれたな、感情など持ち合わせてはいないと思っていたが」


「……」


「……まぁいい、返してもらおう、()()()()


グランが魔術を使う、総帥だけありその魔力はリシアを足元にも及ばせない。

少年を中心に魔術陣が発動する、淡く光白い魔術陣は見た事が無い魔術語を組み合わせてありその大きさは中心から広がる様に大きくなり半径三メートルほどだろうか、グランの爪先から拳一つ開けたあたりまで魔術陣が光輝いている。


しかし、その数秒後不意に少年の手首がバチリと何かに反応した。結界にも干渉が合ったのだろう、グランの眉間の皺は深く刻まれている。少年は依然無表情だが、何かに狙いを定める様に、結界、その外を見る。


「何をする気だ?」


グランの張った結界内、彼の中の魔力の異変に気付いたのだろう、少年はその問いには答え無いが、直ぐに答えはわかる、


その人物達は皆何が起きたのかわからない、そんな表情をしていた。

転移術、それも結界内にすり抜けて現れた、結界を張った本人でなければ出来ないが、グランがそれ行った様には見えなかった。


事態は予測していなかったが己の行うべき事は決まっている、ルシア剣を抜き戦闘に備えた。


 





「お前、元の姿に」


リベルテが魔術抑制陣を解き久々に見たその姿は、たった数日振りなのに懐かしく見えた。


「アルメ!彼から離れろ!!」


リベルテの叫び声と共に地面が更に割れ、地面に描かれた魔術陣は跡形も見えない。


「っ!魔獣だ」


彼を狙う触手はあっという間に、アルメごと彼を囲いもんでしまう、地面と共に掬い上げられて、わずかに触手の間から見えたその黒い巨体は、いくつものドス黒く赤い瞳を持つ、魔獣だった。


完全に触手に囲まれる前に彼はアルメを脇に抱え込み、手の平を地面に向け、風魔術を地面向かい放つ、暴風はアルメ達を空えと持ち上げ、済んでで魔獣の触手から抜け出した。


回転する体、その腕から振り落とされ無い様に、彼の腕を掴む、風に煽られながら下を見ると、その巨体はまるでタコ様だとアルメは思った。いくつもの触手、その間々には赤い点が光輝いている。

「ウォ!!」

突然頭上がビリビリと光を放つ、一瞬見えた、ドームの様な物は、アルメ達を閉じ込めているのだろう。


「お前!、リベルテ達を置いて逃げるきか!」


アルメの言葉に彼は体勢を整えて魔獣に狙いを定め、手の平に魔術陣を浮かべる、紫色のそれは心無しかいつもより大きく、瞬時に魔獣に向けて攻撃を打ち放った。


ドーンと大きな音が響く、体のヒリツク様な感覚は、他の魔術師からは感じる事はない物だ、反動で浮いたままになっていた体は、勢いよく落下したが、再び風魔術で勢いを殺し、無事着地する事が出来た。


地面から出てきた魔獣、その少し離れた場所に足をつけアルメは立ち上がり、あたりを見渡す。


「リベルテ!無事か!」


直ぐに黄金に輝く防御壁を見つけ駆け寄る。


「大丈夫か⁉︎」


「せめて合図ぐらいして欲しいよ、出来ないだろうけど」


防御壁の中には少年達の姿もありアルメは安堵した。リベルテは防御壁を解くと、直ぐに、視線をグランに向ける、一歩も動いていないのだろう、対面した時と同じ位置に男は立っていた、フードの間から見えた不適な笑みから、己の手駒を倒されたにも関わらず変わらない。


「君は彼等を連れて隠れていて、この結界はあの男を殺さないと解けない」


今にも飛びかかりそうだった先程よりも、幾分か落ち着いた声でリベルテ言う、アルメも同感で、魔術師の戦闘に巻き込まれ無い様に少年達の手を取り、彼等から離れた。


アルメ達が離れた瞬間、魔術同士が衝突する音が響いた、どちらが攻撃したかは、わからないが、

感覚からして、リベルテだろう、アルメは急いで身を潜める場所を探す、魔獣の触手の間を駆け足で通り抜ける、魔獣は一切動かず、その力無い触手は四方八方に倒れていた。

改めて周囲を見渡すが、木の根元付近が黒く変色しおり、踏みしめている地面は結界を境に同じ様に黒くなっていた。

何かの遺跡の様な物もあり、アルメのその影に身を隠すことにした。


子供達にしゃがむ様に片手で合図をして、自身も影に隠れるする、しかし当然の様にアルメの後に白髪の男が入り込んで来た、彼は何故かと問うアルメの視線を赤い瞳でキョトンと見返す。

見つめ合う両者、先に動いたのはアルメだった。


「何、当たり前の様についてきてんだ!」


思わず大きな声が出てしまい、後ろの兄弟がビクリと肩を跳ねさせた。


「強いんだから戦ってくれよ!」


「……」スン


「自分は関係ありませんみたいな顔をするな!そんなことないからな!自覚持て!」


わずかながらに、視線をずらした彼にアルメは悩んだ、戦いたくない人間に無理に戦えと言うのも、おかしな話だ、かといって自分は足で纏いになるだろう、リベルテ一人に任せて何か合ったては目覚めが悪い。アルメはダメ元で交渉することにした。


「飯奢ってやるから、何でも!好きなだけ!」


「……」フン


反応は芳しくなく、無表情ながらも腹立たしく鼻を鳴らした。彼を動かす可能性がある手立ては、食べ物しか思いつかない、更に考えるが食べ物しか思いつかない。


「じゃあ、他に何か欲しい物とか、何かして欲しい事とか、」


彼はスッと指を刺した、それは先程彼が倒したタコの様な魔獣だ。


「あれを、食べたいと?」

頷かないが、そうなのだろう、アルメの言葉が正解だったのか彼は立ち上がり、転移した、結界の外には出られない、リベルテの加勢に向かったのだろう。


「結局食べ物か、……あれを食べたいと思うのか……」


タコの様だと思ったが、アルメは珍しく食欲が沸かない、気持ち悪く動いた触手、何より身体中にある無数の赤い目、きっと誰が見ても思う、気色が悪いと。


「ゲテモノもいけたんだな、恐ろしい食欲だ」


どう調理するか考えながら、アルメは魔獣に近づいた、その背後で少年達はそんなやり取りをしていたアルメ達を少し引いた目で見ていた。


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