12.解けたみたいだね
青年は焦っていた、自身に与えられた任務を、なに一つ達成できてないからだ。
夜の街で知られるゴーデンなら探し人の手がかりもすぐ見つけられると思ったが宛が外れてしまった。
既に一週間たってしまったため、そろそろ定期報告をしなければならない。
しかし、罵倒と催促、これから遅いくるストレスに、憂鬱な気持ちになっていた。
食欲は分かず、酒場の近くのを歩いただけでも、吐き気がしてきて、青年は急いで路地に入ろうとした。
しかし、その時、どこかで覚えのある魔力を感知した。
「リベル様」
それは、畏怖する上司の魔力だと感知し、まさか直接来たのかと辺りを見渡したがそれらしき人物はない、青年は腹を抑えながら路地に入り、嗚咽を漏らす、ストレスに弱いこの身体を憎んだのも数えられないほどだが、今晩はかなり酷く、胃酸が口から溢れ出すのを、虚ろなめで見ていた。
「ビンゴ」
硬直する身体、それは聞きたくもない声、見たくないのに、目が声のする方え向かう。
青年がこの世で一番恐怖する黄金色がそこにはいた。
*
アルメたちは、夜の街ゴーデンに来ていた。
来て早々宿を取り、リベルテは別行動を始める。アルメは野宿に慣れているとは言え、絶壁を登った疲れは残っていたらしく、四日振りのベットは心地よく、夢も見ずに爆睡していた。
時効は昼を過ぎていた。子供姿の彼は、また体が戻っていた。およそ十歳前後の姿で、すぐ横で眠っているアルメを見下ろしている。彼が目覚めておよそ5時間、爆睡するアルメを見下ろし続けた彼は体が元に戻ると同時に、その表情も乏しくなって来ていた。ただただアルメを見下ろし続ける姿は、側から見たら、健気で、しかしそれは半刻を過ぎた時点で、恐ろしく感じる。
腹の音が鳴る、誰のかもわからない音は、この部屋にいる物達からなったのだろう。
腹の虫の長い鳴き声が途切れると同時に、彼は倒れ込む様にアルメの腹に顔から落ちた。
「ぐうぇ!」
潰れたカエルの様な声と共にアルメは目を覚ました。
「お、お前また、重くなったな」
お腹から頭を下ろしながら、アルメは起き上がった、彼の姿がまたもだどったことに安堵したが、寝起きの気分は良くなく、こちらを見る子供のオデコに軽くデコピンをした。
「昼かー、寝過ぎたなー、飯は、近場で済ませて、」
ボリボリと頭をかきながら、予定を決めていく、頭はスッカリ覚醒し、リベルテから言われたことを思い出した。
「あーそう言えば昨晩、見張ってろって言われたんだった。」
スッと壁の隅に目を向ける、入り口から反対側のそこにおよそ10代後半の青年が椅子に拘束魔術で縛られていた、顔を俯き、フードを被っているのでわからないが、華奢な体型と肌の白はそこそこ身分のある物か、アルメにはわからないが、少なくともエグレゴアに関係する人物なのだろう。
「飯を買ってくるから、こいつ見張っていろよ、ジーと見とくだけでいいから、」
ベットから降り、彼の体を青年に向ける、再度念押しして、アルメは軽く身支度を開始した。
「……」
「……」
「……ぅ」
「う?、目覚めたか、というか寝てたのか?」
青年が拘束された状態で眠ることができるほど図太い神経の持ち主だとは思わなかったが、今更ながら、自分が爆睡している間もずっと起きていたと考えると気まずくなり、アルメは恐る恐る青年に話しかけた。
「水をください、」
「行き倒れみたいなことを言うなぁ、悪いが今、飲み水も切らしているんだ、大人しくしていてくれるなら、他にも買ってきてやるけど」
「……液体状の何かがいいです」
「……わかった」
青年のことを哀れな目で見ながら、アルメは部屋を出た。
青年はジッとこちらを見る少年に冷や汗が流れる、白い髪、赤い瞳は、何せ青年が探している人物の特徴と一致していたからだ、しかしその姿が幼く、本人かどうか確信を得ることができない、直接会った事が無い人物は魔力も知りようが無いため青年は無難に確認を取る。
「あの、グレン様のご子息様ですか?」
「……」
「僕、フォートといいます貴方を探すよう命を受けました。」
「……」
「あの、グラン様のご子息様ですよね?、エグレェッヒィッ!」
ガタンと椅子を揺らす、目の前の少年が突然目を見開きこちらを凝視しているからだ。
以前無言の状態、青年は得体の知れない何かに、睨まれ、動く事ができず、ストレスによる胃酸の逆流を堪えてながら、水の到着を待った。
アルメは十分ほどで戻って来た、両手で大きな紙袋を抱え嬉々として部屋にいる物達に話しかける
「近場に露店があってよ、これ見てみろよ」
袋から硝子瓶を取り出す、瓶の中にはゼリー状の食べ物が入っており、わかりやすくフルーツなどが入ったゼリーや乳白色のゼリーなど、様々な種類を袋から出す。
「綺麗だろ、色んな種類を買って見たんだー」
彼は食べ物に夢中になり、瓶をアルメから両手で受け取ると、すぐに蓋を開けて、便の中のゼリーを口の中に流し込もうと瓶を逆さにするが、ゼリーは瓶の淵に引っかかり、落ちて来ない。
「スプーン出すから少し待ってな、あんたも食うか?水もあるけど」
「……いや、水だけいただけたら」
拘束された状態の青年が水を飲むのは、当然他者からの手助けが必要だった、コップに水袋から水を移し入れ、青年の側により水を飲ましてやる、青年は始め戸惑っていたが、渋々水を飲み始めた。
「ありがとうございます」
顔をうつ向け礼をいう青年、リベルテがいない今は、拘束を取る捌けにもいかず仕方無いとはいえ、しおらしく、礼儀正しいこの青年にアルメは終始、可哀想と思うのをやめられなかった。
突然ドンドンと叩く音が聞こえ、アルメ驚き振り返ると、彼が床を瓶で叩いていた。
「うわぁ!待った!、ゴメンって」
不満をあらはす彼の行動を止めるように脇に手を入れ持ちあげる、ブンブンと瓶を振る姿はシュールでそんな二人を青年は眺めていた。
アルメからスプーンをもらいゼリーを黙々と食べ始める。
アルメもゼリーを食べ始め、買った当初から気になっていたタップリフルーツの入った瓶を開ける。
「うっまー飲めるなこのゼリー」
想定より柔らかく、口に入れた途端溶ける様に喉を通っていく。
大きくカットされたフルーツは甘酸っぱく食べごたえがあり寝起きから水分をとっていなかった体も喜んだ。
彼はすでに二個目に手を付けおり乳白色のゼリーを食べ始めていた。
「これプリンだうまー」
アルメも同じ種類を食べ始め、どんどん瓶達を空にしていく。
「美味かったけど食い足りないな、肉食べたい」
全ての瓶を空にしアルメは言う。
「リベルテは何やってるんだろなー早く宿出て、魔獣の肉が食べたいなー」
「魔獣の肉ですか⁉︎あの魔力の塊食べるなんて!すぐ辞めた方がいいですよ」
青年はギョッとした目でアルメを見て言う、拘束されていてもなおアルメを心配する発言に、おもはずアルメは感心してしまった。
「あんた、エグレゴアの関係者なんだよな?そんな悪い奴に見えないんだけど?変な演技やめろよな」
「悪いやつって、変な噂に騙され無いでください、エグレゴアは王国も認める魔術開発組織何ですよ、多くの魔術具の開発にも携わり、医療魔術の開発にも貢献しているんです!組織に入るには、多くの難解な試験に合格しなければ入れない、エリート組織何です!」
遠回しに自分はエリートだと言っている様に聞こえるのはアルメだけでは無いはずだが、側の少年を見るが、彼は瓶をガタン、ゴトンと揺らし、食べたり無いとアルメを見上げていた。
「言っていいのかわからにけど、魔術移送実験って知っているか?」
「魔術移送実験?そんな実験知りません。エグレゴアは市民の生活を豊かにする事をモットーに日夜開発活動をしているんですよ。魔術を移送する実験しても何も意味が、いや、でも応用すれば魔力の枯渇解消に役立つかも、でもそれなら、魔力補給ポーションがあるし、……」
研究気質なのだろう、何やらブツブツと考察を始め、話が進まなくなってしまった。
一枚岩じゃ無いのか、少なくともリベルテの父さんが総帥やってたのは十年前だし、何も知らない奴らもいるのかもな、
自信満々にキッパリとエグレゴアを擁護する発言に嘘や演技は伺えなかった。
しばらく、ブツブツ呟く青年を見続けていると、部屋の扉が開いた。
「鍵かけないなんて、馬鹿なの?」
戻って来て早々不機嫌な様子のリベルテ、ベットに疲れ果てた状態で座り、あまり良い収穫が得られなかったのが伺えた。
「……よかったら手伝うけど、」
「いや、下手に動き回っているのがバレたら面倒くさい、それに」
リベルテは立ち上がり青年に声をかけた。
「こいつは、もともと僕の助手だった、魔術移送のことを知らないわけない、」
アルメ思わず青年をみる、今までの会話は全て演技な事に驚いた。
「演技力……」
「演技じゃ無いよ、こいつは任務初める前に自己暗示の魔術をかけるんだ、もしもの時、組織内部の情報が漏れない様にね、今のこいつは真面目で実直な唯の研究員だよ」
「面倒だよ、この暗示かなりややこしい掛け方しているから、僕の事がどれだけ広まっているか、わからない、」
「頭叩けば、解けるんじゃないか?」
立ち上がり頭を軽く叩けば青年は驚きの声を上げた。
「イタッ、何するんですか!」
「思ったんだが、こいつ自身はどうやって暗示を解いてるんだ?」
「条件が揃えば解ける様になっているんだ、任務を進めるに連れて自然にで条件を達成出来るる様に組み込んであるんだよ、上司とし見ている内は清々しいまでに賢い奴だったけど、今は腹立たしくて仕方ない」
リベルテも青年の頭を叩くアルメよりもいい音が出た。
「じゃ、リベルテや、こいつに会っても解けないなら、少なくともお前ら関係の任務じゃないんじゃないか?」
アルメも、もう一度叩くが、暗示解けないようだ。
「条件の最後に任務達成は必ず入れているだろうね」
そうかーとまた青年の頭を叩くアルメの体に突然彼が、飛びかかっる様に登って来た。
「重い!重い!何だよ!」
戯れる二人を見てリベルテは、思い出す、自分の忘却魔術を解いた彼に魔術に。
「ねぇ、彼に暗示の魔術を解くようお願いしてくれる?」
「こいつが解けるのかよ、思いっきり魔術初心者みたいな物だろう、」
「僕とに戦闘時、アッサリ風魔術を使っただろう」
そういえばとアルメも思い出す。自分の背中に張り付く彼をおんぶし、青年に近づく、
「こいつにかかっている、魔術解けるか?」
アルメからゆっくり視線を外し彼はジッと青年を見る、
数秒して、青年の周りに数個の魔術陣が囲む様に現れた。
途端激痛に声をあげる青年にアルメは驚いた、しかしすぐに聞こえなくなりリベルテが魔術で聞こえなくしているのが、青年を覆うドーム状の魔術陣を見てわかった。
数分悶えた青年は、全ての魔術陣から解放されたすがたに、アルメ達は驚いた。
グッタリとしすがたは、ローブがダボダボになり、はみ出す髪は灰色で、荒い呼吸から漏れる様に聞こえる声は高い青年の声ではなくなり、シワがれた擦れ聲に聞こえる。
「自分にかけた魔術が全部解けたみたいだね」
リベルテの答えに、アルメはドン引きしながら頷いた。