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くいかえし〜復讐と食事と思い出の話〜  作者: 上尾こたつ
アルメリアな感情
13/116

13.君のせいだ

老人の眼光ほど恐ろしいものはない。


その老人はリベルテ達を睨み、荒げた呼吸の合間に憎しみの言葉を吐く。


「リベル様は相変わらず小賢しいことをしなさる。お父上そっくりだ」


「カリア先生、居なくなったと思ったら、ずっと僕を見張ってたんだな、気づかなかったよ」

「小賢しいのはあんただろ、サバ読みすぎな見た目しやがって、気持ち悪すぎだろ!」


彼をおんぶしたまま数歩下り、アルメは悲鳴に近い声を上げた。

目の前の人間が、瞬きした瞬間に老人になっていたのだ。恐怖もあるが怒りの方が強く、もっと頭を強く叩けばよかったと思った。


「その年で嫉妬に狂い、父さんを貶めた、思い出したよ、父さんから僕の教育を任されたくせに、僕に対する接し方は父の当てつけのようだった」


口角を上げてそう言うリベルテの目は笑っていない。


「まぁ、今更どうだっていいや、お前が僕らの事をどう思ってようと、お前の望み通り父は死に、僕は総帥やあんたのオモチャになった、もっとあんたをこき使えば良かったと後悔しているよ」


アルメはリベルテを見守る、激昂したら止めようとは思うが、それまではリベルテに一切を任せているからだ。


「総帥様が何を成し遂げようとしているかも、エグレゴアが何を目的としているのかもどうでもいい。でも人のものを奪ったんだ。責任は取らないといけない、お前達も、僕も」


「綺麗ごとすらそっくりだ、本当に気味が悪い。グラン様に全て任せれば良いものを、倫理や道徳に縛られて、滑稽だな」


「……」


「おい、クソ野郎、お前はこいつを連れ戻して、どうするつもりなんだ」


リベルテは無言になってしまった。

アルメも持て余した怒りを落ち着かせる場合は、言葉が出てこない時がある、そのためリベルテが少しでも落ち着けるよう、自ら老人の注意を引こうとしたのだが、思いつく事がなく、悪態と共にずっと感じていた疑問をぶつけた。


「可笑しなお嬢さんだ、グラン様の物をどうしようとあの方の自由」

老人の目が、アルメの魔力が魔術の一切を使用できないほどのものと知ったのだろう。

言葉を重ねるごとに老人は嘲りの笑みを向けた。



「知らないんだな。リベルテ、見当が外れたな、下っ端の相手をするのは時間の無駄だろう?」


こちらを貶める発言をする老人にアルメも貶める発言をする、老人は表情を変えないが、わずかにアルメを見る目が鋭くなる。


「そうだね」

「この爺さんの使い道は身包み剥がして、エグレゴアの本部の近くで吊しあげるしかないんじゃないか?首に「私は、倫理も道徳も持ち合わせない哀れな魔術師もどきです」って看板かけてさ」


もちろんジョークだがリベルテはツボに入った様で、手で口を押さえて笑っていた。

「いいね、そうしよう」


可笑しそうに笑うリベルテを見ていたら、背中の重みが強まったのを感じた。アルメが覗き込むと、彼は眠ておりアルメは落ちない様に背負い直す。


「こいつ、寝ちまった」

「あぁそうだ、彼は今魔術を使ってよい状態じゃなかったんだ」


「そうだったのか?大丈夫なのかよ…」


「常時使用中の魔力を別の事に使わせてしまったから。眠る事でバランスを取っているんだと思うよ……魔力の流れが少し乱れたけど、もう落ち着き始めている」


 眠る彼の頭に手を置き魔力を診るリベルテの答えにアルメも安堵した。

「彼のおかげで、こいつから話を聞き出す事が出来そうだ、君はこの部屋で彼を見ていて、僕が戻るまで絶対に部屋から出ないで」


再び老人に向きなおるリベルテ、だがその時、突然老人の体が黒い何かに包まれた。

「うわぁ!!」


スルリと拘束魔術から抜け、その黒い物はアルメの方向に飛びかかる。

彼を狙う老人の両手、アルメはとっさに窓のない壁際に背を向けない様に避けるが、それより早くリベルテの拘束魔術が老人を捕まえようと彼の手のひらの魔術陣から伸びる。

しかしその鎖は、老人に届くことなく途切れ、また隙を見た老人はすでに逃げ去ってしまい、開け放たれた窓が静かな部屋に軋む音を残した。


「逃げられたな……リベルテ!」


アルメが視線を窓からリベルテに移すと、リベルテは両膝を着いて、顔色を悪くさせている。

「大丈夫か!?お前徹夜続きだろ、無理が祟ったんじゃ」


「少し…立ちくらみがしただけだよ、あいつを追わないと」


「無理してるから逃げられたんだろう、今の状態でまた捕まえても同じ様に逃げられる、寝ろ!」


「……」


「こいつも、寝てるんだ、私が見張ってるから、一旦休め」


 リベルテはヨロヨロと立ち上がり、ベッドに横になる。その横に彼を寝かせるアルメにもの言いたげな目を向けるが、「一つしか無いからな」といい問答無用で二人に布団をかける。


窓の鍵を閉め、カーテンを閉じる、アルメはさっきまで老人が座っていた椅子をベッドの近くに運び、腕を組んで彼らを見守る。

人の視線を感じて、眠れるわけがないと思ったが、徹夜続きの体はそんな感情とは裏腹にリベルテを眠りに誘う様、瞼を閉じさせた。


 

 *

 


およそ四時間ほどだろうか。

リベルテが目を覚ますと、辺りはオレンジ色になっていた。

カーテンの隙間から漏れるその僅かな光が部屋を照らしており、その光景に懐かしさを思い出す。


ついさっき夢の中で、見た光景が再び頭の中でこだまする。思わず眉間に皺を寄せ、片手で顔を覆う、体を動かした拍子に、シャツが張り付く感覚がして、汗をかいているのがわかった。


「もう起きたのか」


アルメの声のする方を向けば、視界の端に白髪が見える。

彼はまだ眠っている様で、その寝顔は羨ましいほど穏やかだった。


「水を飲んだ方がいい、すごいうなされてたぞ」


立ち上がり、水袋からコップに水を注ぎ、体を起こしたリベルテに手渡したアルメは、ドアの方に向かった。


「何か食べやすい物買ってくるよ、すぐ戻るから」


そう言って、アルメは部屋を出た。


静かな部屋でリベルテは息を吐く。


父の夢だ、もう十年も前のはずなのに、昨日のことの様に鮮明に見えた。


黒く焼け爛れた肌、こちらを認識しない黄金の瞳が、暗い部屋に浮いて見えた。

椅子に縛られた父は、考えたくもない実験をされたのだろう、その最後の実験は、リベルテに魔術を移送することだった。

滲む視界で見た光景は暗闇に吸い込まれる様に消えた。


その光景を思い出してから、幾度となく、頭の中をよぎり、当然夢にも出た。

向き合い、罪の意識を持たねばと思うのに、逃げる様に眠る事を拒む、休む事すら恐ろしく、ここ一週間は動きっぱなしだった。


「君のせいだ」


 隣で今も眠る少年に言う。本心ではない。

「他人を巻き込んでおいて、どうして平然としていられるの?」

 まるで、無関係の様に彼はいつも振る舞う。見ていると苛立ちが生まれてくる。

「僕と君の問題のはずだ」

掠れた声で眠る彼を見下ろしリベルテはそう言った。


その後、アルメが部屋に戻ると、彼らの姿はどこにも無かった。


「あの野郎!」


ズンズンとリュックに向かい、買って来た荷物を入れる。いくつか保存食と果物。一人で食べるには多いそれは、リュックの底を膨らませた。


只々どこかに出かけただけかと、待ってみようと思ったが、それは見当違いだとわかる。

彼が履いていた靴がなく、また、机の上に金貨が数枚置かれていた。


「手切金かよ、馬鹿みたいだな」


要らない物は突き返さないといけない、今回もアルメを動かすのは、苛立ちだった。

目的地はタイバンを出た時から変わらない、エグレゴアの本拠地がある王都に向かい、アルメは街を出た。



読んでくださりありがとうございます。


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