11.食い返してやらないと
食事には、主食、肉、野菜、摂るべき栄養素がある。
鳥型の魔獣は羽毛を剥ぎとる、翼の羽根は鋭利で触れることができ無いため、リベルテが付け根から切断した。
魔獣の皮膚は硬く可食部も少ない、濃い灰色の地肌に解体用の魔術具を使い、切り開いていく。
魔獣は基本、元になた動植物の影響がでる、それにより魔獣によっては毒性を持つ物もいるが、それ以前に内臓は食べ無い、魔力の影響をもっとも強く受ける部位が内臓類で肺や心臓は、真っ黒く、硬い、毒性の心配をあるがそもそも人が飲み込んで良いものではなかった。
作業していると、横から、ポスポスと彼が叩いてきた、小さな手とプニプニした頬を持つ顔は、大人の姿より表情が読み取れやすく、彼が不満を表している様子に新鮮な感情を持った。
「私もお腹空いてるよ、ちょっと待っててな」
そう言い作業を再開するが、最中ある疑問が思い浮かぶ。
「なぁ、そもそも、その姿で肉って食べていいのか?」
聞くがもちろん答えは無い、彼の無口は健在だが、首をかしげ、わからない、と伝わる表情をしている。
切り分けた肉は綺麗な薄いピンク色をしている。
「煮込んで柔らかくしたら食べれるか、他にも具材になるもは、……あ、ジャガイモ、ポトフにしょう」
リュックの中を漁る、旅に備えて小麦や塩などの調味料、少しの野菜を持ち歩いているアルメは、冒険者の中ではかなりの大荷物持ちだ、鞄から次々物を取り出すアルメの肩に彼は手を置き一緒にリュックの中を覗き込んでいた。
調理中、膝に手を置き一緒に火を見る、パンを作る際は一緒にこねる、常にアルメのそばにいるのは同じだが、アルメが言わずとも自分から率先してやりたがる様はまるで小さな子供そのものだった。
その光景にアルメはとてつもなく既視感を覚えた。
妹がいたのだ、年の離れた、妹が。
忘れ去ることの出来ない日々は、アルメに魔獣を食すことを促し続けた。
「出来たな、美味しそうだ、コンソメがあってよかった」
彼が両手を広げてねだるので、抱き上げた状態でリベルテの元に向かう、男は元いた部屋におらず、探せば二階に上がっている様だ。
「おーい、飯ができたぞ」
そう呼びかけても返事はなく、仕方なくアルメも二階に上がることにした。
二階は、屋根の骨組みが見え、改めてその光景に驚いた。
「空間転移魔術だよ、この建物の中身は別の建物の中身を転移しているだ」
リベルテはそう説明しながら、部屋の中にある本を漁っている。
「本だらけだなこの場所は」
「”弟子“って言う名前が付くくらいだからね、魔力や魔術の研究をしているみたいだ、けっこう掘り出し物があるよ、これなんか半世紀前に絶版になった魔術書だね」
嬉々として語るリベルテ、彼の人間みを見てアルメは何故か安堵してしまった。
「ポトフを作ったんだ、魔獣の肉入りだけど食べるか?」
リベルテはアルメの方を向いて、「魔獣の肉?」と答えた
「普通にうまいぞ、私は四年も食べ続けているけど、体に何の影響もない、」
「へー、うまく調理しているんだね、魔力が高いから、食べたら拒否反応を起こして死ぬ奴もいるんだけど、」
「……死ぬ……私は魔力ほとんど無いから、大丈夫なだけかも」
少し顔を強張らせたが、腕に抱えた彼を思い出し、アルメは彼を見る、食べた後も常にケロリとしているため、一概には言え無い様だ。
「そいつは魔力の高い心臓を食べていたな、内臓部分を入れて無いなら、もらおうかな、」
「よくあの石みたいなのを飲み混んだな、詰まったんじゃないか」
「そうかもしれない、」と何故か笑顔で答えるリベルテに、アルメのさっきの安堵感は消え去った。
「意外と普通だね、お肉も柔らかいし、」
外で食べるのもなんなので、一階の通路の先にある部屋、リベルテが言うには調合室で食事をしていた、作業台の上を片し、部屋中から椅子を持ち出し三人、席に着く。
リベルテからも好評の様で、アルメの想像よりよく食べた。
彼は子供姿でも食欲は健在のようで、三人の誰よりも良く食べる。
ただし、小さい姿に慣れないようで、一張羅にシミを作る。
ポトフは簡単に作れるのでアルメも良く食べる、今回は鳥肉をつかったが、基本コンソメは何にでも合うので、いつもの味に安心する。
鍋の中身は一瞬で空になった。
リベルテは満足した様で、お礼に食器を魔術で綺麗にしてくれた。
「おお〜、楽だなぁ」
「ご馳走様、じゃぁ、僕は二階にいるから、建物から出ない様に」
言い残し、去っていく背を見送ると、横から袖を引っ張られた。彼は物言いたそうに、アルメを見て、自身の向かい側を指さす。
「ダメだ、これは明日の朝食にするんだから。」
向かい側には多めに焼いたパンがあり、その姿でも食べ足りないのか、彼はグズル様に袖を引っ張り、やがてアルメの腕に顔を埋めてしまった。
不快ではないが既視感から目を背けるため、アルメは彼を抱き上て別の部屋のソファに座らせた。
「お前、いま病人見たいな物なんだから、もう寝とけ、私も疲れたからもう寝る」
いったん部屋を出たアルメはリュックから毛布類を取り、彼に被せた、ベットがないため、ソファを彼に譲り、ソファに少し頭を預けて、敷毛布にくるまり眠りにつく、満腹なのもあり、アルメはすぐに眠りに着いた。
*
お腹にある圧迫感で目が覚める、ここ数日で慣れた感覚が、いつもより軽く、アルメを夢から引き戻した。
見ると彼は寝心地の良いソファから降りて、アメルの腹に顔を埋めて眠っていたようで、寝ぼけて眼で口をモゴモゴ動かす、
アルメは頭を撫でてやり「朝ごはんにするか」と声をかけた。
起き上がると同時に慣れた手つきで彼を抱き上げ用途したが、昨日よりも重量があり驚いた。
「うぉ、ちょっと待って、」
一旦、ソファに立たせてその姿を確認すると、足が隠れるほど合ったシャツの丈は、足が見えており、明確な体の変化にアルメは朝一番から大きな声を出してしまった。
「あぁ、推測が当たったんだ、よかった」
朝食の席で特に驚くことなく言うリベルテを、アルメは睨む。
「わかっていたなら、昨日教えてくれよ」
「推測だから、期待をされて文句を言われるのはごめんだったからね」
リベルテの推測はこうだ、魔力は体積に見合わず体の中で漏れ出すことなく停滞していた、通常は魔力が溢れ出すはずだが、弟子とは言え魔女がかけた魔術だ、通常と当てはまることは出来ない、しかし、問題は、何故二重にかけたのか、一回で拐うことができたのだから、二回かける必要はない、恐らく、彼の中で停滞している魔力は、常に使用されている状態なのだろう、体の異常を解消するために。
朝食は、昨日焼いたパンと、とって置いた少しの鳥肉と野菜を塩と胡椒でスープにした物だった、食材がもうなくアルメは不安だったが、リベルテは徹夜で建物内を調べ上げた様で、直ぐに転移できると言う。
「徹夜で何を調べてたんだ」
「推測がハズレた場合の対処方を見つけるため、」
男は少し微笑んで、らしことを言うが、別の要因があるとアルメ思った。
朝食を終え、アルメ達は王都から少し離れた街に一度転移することにした、理由としては本部にいく前に情報がどのくらい、出回っているかリベルテが知りたいと言ったからだ。
「君はどこまで着いてくるの?」
リベルテの質問にアルメ自身も首を傾げる、そもそも、どこまでも着いてくる無名の男から解放されるため、彼の家に送り届けようとしたのが始まりだったが、リベルテや魔女の弟子など、何故か彼は危害を加えられてばかりだ。
放って置けないとアルメは思った。子供の姿でも、大人の姿でも、アルメを頼る様に、側にいようとする彼にすっかり情が湧いてしまった自分に気づく。
「今更縁切りは無理だ、こいつが満足するまで、私は付き合うよ、どうせ魔獣を狩ること以外やることないし」
アルメの返答にリベルテは一瞬柔らかな笑みを浮かべたが、すぐに真面目な顔になって話始めた。
「僕の父はねエグレゴアの、前総帥だったんだ、殺されてしまったけどね、」
背筋が自然と伸びる様な冷たい声、アルメは相槌すら返すことはできなかった。
「殺したのは、今の総帥、彼の父親だよ」
「それで、こいつを狙って来たのか、」
アルメも思わず冷たい声が出た、親の罪を子供にも着せるのは違うと思ったからだ。
「違うよ、あの時は、本当に話し合いをしたかっただけだ、言ったでしょ、僕達は少し似ていると」
アルメは無言で続きを促す。
「魔術移送実験、元は地方貴族が親から子供に魔術を相伝させる術だった、本来は血の繋がりがないと失敗するけど、魔術移送実験は確率で成功する場合があるんだ、今の総帥はその実験にご執心でね、魔獣の魔術や何処からか手に入れた魔術を自分や配下に移送して、強くなった気でいるんだ」
静かだが感情的な声、彼の悲壮感が伝わる。
「僕の父さんも、実験に使われた、移送先は僕だ、僕はそれを忘れてあたかも自分の魔術の様に振る舞って、今の総帥に使えて来た、十年間」
涙を流すことなく語る、それでも、アルメと視線を合せ何のは、罪の意識がそうさせるのだろう。
「彼も、何処からか手に入れた魔術を移送されて、四年間眠っていた、目覚めさせたのは、僕だ、その時の反動で彼の中に閉じ込められた魔術が暴発して、僕にかかった忘却の魔術も解除された。今まで見たことない魔術だったからね、総帥様も欲しくてたまらなかったんだろう、自身の息子実験に使うくらい」
沈黙が流れる、アルメ話を聞き終え、思った以上の厄介ごとに驚くが、後悔はなかった。
「私は、魔獣を狩ったあと必ず魔獣の肉を食うんだ」
リベルテはアルメを見る、
「大切な家族を食われたから、私の全てを奪っていったから」
魔獣が蔓延る世界、全くないとは言えない話だ。
「その魔獣が人を食っていても食うんだ、食い返してやらないと、気が済まない」
アメルはリベルテを見る、復讐心、それがアルメを生かしているのだと、リベルテにも伝わる
「リベルテもだろ?」
小さく微笑みながらそう言われて、リベルテも思わず笑み
「そうだね、」
そう答えた。