10.すっぽんぽん
長い人生に置いて後悔する時は多々ある物だ。
今まさにアルメは自分の言動、考え無さに後悔していた、絶壁を登る最中は良い、想定範囲内だった、魔獣の蹄に鷲掴みされた時も焦りはしたが、後悔はしていなかった。
しかし、今までに体験したことないほど回され、挙げ句の果て、回転中の魔獣の爪から吹き飛ぶ様に投げ出され、高所から落下することになった。
幸いにも、リベルテに助けられたが、アルメは喉から湧き上がる、悪態を抑えることができなかった。
「気持ち悪い……」
目が回りしばらく動くことができなかったアルメだが、宙吊りの状態は腹が圧迫され、さらに遠くで聞こえた鳥の声に、再びあの体験をしたくないと思い、力を振り絞り絶壁を登ることにした。
幸いなことにリベルテの出した鎖のおかげでとても登りやすかった。
絶壁を登った先にあるのは、石で出来た小さな建物だった、元は周囲に紛れ込んだ配色であろうそれは、魔獣の血でベットリと赤く染まっている。
リベルテが開けた、建物の入り口は開いており、誤作動を起こした魔術が、出口を塞ごうと壁を形成するが、半透明の状態までしか形成できず、常に開いた状態になっていた。
中を覗くと入り口のすぐそばに、人、もとい魔女の弟子が倒れている、長く黒々とした髪と見開かれた黒い瞳は、アルメが宿で出会った魔女だった。
「死んでるのか、どうして拐ったとか聞いたのかな」
腹に大穴を開けた死体は、どう見ても生きてるいるとは思えないが、リベルテの言う魔力生物だ、このぐらいじゃ死な無いかも知れ無いと思い、建物の中に入ることを躊躇する。
「入らないの?」
声が聞こえた方を見ると、建物の外見からは想像でき無い方向に扉があった、見ると上に上がる階段や何処かえ繋がる通路もある、意を決してアルメは中に入り声のする扉え向かった。
濃い茶色い木製の扉に近づき、金色のドワノブを回す、予想通りリベルテがおり、そしてその両手には子供にされた彼が脇を抱えて持ち上げられていた。
しかしその姿はアルメが街で見た時より幼く、眉毛を八の字にし不快そうにリベルテに蹴りを入れている。
「デジャブだ、前より小さくなってないか?」
「完全に魔力を使え無い状態にされているね、」
子供の彼は、足を突っ張り、「いやー」と言う様に、リベルテから距離をとる、体をのけぞされアルメに両手を伸ばすので、リベルテに変わって彼を抱き上げることにした。
スンっと大人しくなった子供は、見慣れた無表情でアルメを見上げている。
「これじゃあ、使え無いな、僕は彼にかかった魔術が解除できる様、この建物の中を調べるよ。
君、どうする?ここにいても何もでき無いでしょ」
言動の端々に人を見下す様な言動があるが、街に戻るなら転移魔術を使うとリベルテは言う。
しかし、子供の彼はまた攫われたら叶わないため、一緒には街に戻ることはでき無い。
自分がいても確かにできることはないとアルメは考えたが、部屋に小さく、でも確かに鳴り響いた空腹の音に、抱えた子供を見る、赤い双方はじっとこちらを見ていた。
「とりあえず、飯でも作るよ」
アルメ返答に、リベルテは肩をすくめた。
*
子供の彼を見つけた場所は一面本棚だらけ、長いソファーが中央に鎮座している、そこに彼が座っていたのだろう、彼は服装などはそのままだが、体がより幼くなっため、ズボンは脱げ、シャツの丈は足を隠すほど長いが他に着れそうな物がないため、この状態でのままで放置された。リベルテは体を調べたいらしく、アルメは彼等とは別に行動し始める。
この建物内には他に人の魔力を感知でき無いらしいがそれでも恐る恐るアルメは、建物内を探索した。
この部屋とは他に階段と通路があり、アルメは通路から見てみることにした。
通路は短く、間に一つのランプが壁にかけられている、先にある部屋は明るく、大きな棚が壁を覆い尽くしている。棚には皿や硝子や陶器の瓶や器が並んでいる、棚によってはラベル付きで中身が確認できるものもあるが、どれも食用では無いようだ。
「ハーブ、か……やめとこ、料理に使えそうな物はないな、」
アルメは部屋を見渡し、めぼしい物がなかったので二階に向かうことにした。
そもそもの話、魔女は食事を必要とし何のだ、ここにあるものもすべて魔力や魔術に関するものだろう。
二階に上がる前に出入り口の近くに倒れている、死体に目を向ける。
流石にこのまま放置は目に悪くアルメは死体を外に運びぶことにした。
両手を胸の位置で組ませる、目を閉じさせ視線が合わなくなったら、心中の奥にある恐怖が治った。
魔力生物だとしても、形は人そのもだからか、運ぶ際は躊躇してしまった。
一仕事終えた後でも肝心な食材がまだないことに気づき、二階の探索に行こうと建物に向き直った。その時の強い風に紛れ魔獣の羽根がアルメに向かって飛んでくる、大きなそれは先は硬く鋭く、少し触れただけでも切れてしまいそうだった。すんででかわし、アルメは建物を血濡れにした魔獣の存在を思い出す。
「そういや、こいつがいたな、目的を忘れていた」
勢いをつけて壁を登る魔獣の血は所々乾いている部分もあっり登るのは苦労しなかった。
近くで見ると大きく、胴の羽毛は翼と違い柔らかそうだった。
「意外と解体しやすそうだな、ッ!」
アルメが魔獣にふれるとその体がわずかに動き、魔獣だまだ死んでいなかったことに気づく、
「あいつ、適当だな、」
アルメは、仕方なく、上着の下に隠してある、小刀を抜き、魔獣にトドメを刺した。
「これで、買取金は山分けだな」
飛行する魔獣の解体は初めてだった、通常の鳥と違い、止まり木で休む姿を見たことがなく、また飛んでいる時、下から狙うのは、魔術の使え無いアルメとって不可能だった。
魔獣を建物から下ろす時に、下からロープで引っ張ることを思いついたが、肝心のロープとリュックが絶壁の下にあることを思い出した。
リベルテが出した鎖はもうなく、アルメはため息を吐きながら、リベルテの元に戻る。
*
「すっぽんぽんじゃねぇか!」
アルメが部屋に入ると同時に子供が足に抱きついてきたが、シャツすら着ておらず、アルメは目元を押さえた、
「あぁ、丁度よかった、体を調べたいんだけど、逃げ回って、悪いけど押さえてくれる、」
片手にシャツを持ちリベルテはそう言う。
「脱がせる必要が」
「脱げたんだよ、魔力の流れを見たいから、肌に直接触れ無いといけ無いけど、暴れ回ってうまく見れ無いんだ、」
アルメは仕方なく子供の肩に手を置く、
「じっとしてればすぐ終わるからな」
アルメは適当にそんなことを言って宥めたが、実際本当に数秒もかからずに終わった。
「何かわかったのか?」
シャツを被せながら聞く、リベルテは顎に手をやり、少し考えた後、答えた。
「内側の魔力量は変わっていない、むしろ体積が小さい分溢れ出るのが、うまく外に出ずにいる、」
アルメに言うと言うより、自分でまとめる様に言ったリベルテはそれ以上言わずやがて納得した様にアルメに向き直る。
「今日はここに留まることにするよ、君達は好きに過ごしてもらっても構わ無いけど、建物からは、あまり出ないでね、魔獣に攫われたら面倒くさいから」
「わかった、あ、悪いんだけど、下にあるリュック引きあげてくれる、あと調理したいから、魔獣の解体してり間、防御魔術を張ってくれると助かるんだけど」
ダボダボのシャツを着た子供を足にひっつけたアルメは、両手を合わせ、そう言う。
リベルテは少し眉を顰めたが、リュックを上げて、防御魔術を展開した。