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卒業式

前話で<ベルセンス=ジャンクの場合>がありましたが、ボツの案の物と混ざっていたので削除いたしました。申し訳ありません。


R15に該当する表現と判断したものを削除しました。

 コツコツと響く足音も周りの話し声にかき消される。招かれた貴族達は皆一様に美しく、上品な正装で楽しく談笑している。


 この場の主役である卒業生達も一張羅に身を包み、これからの将来に思いを馳せながら、ある者は友との別れを惜しみ、ある者は来月から仕事仲間となる同僚と挨拶を交わす。


 卒業式は子供の成長を祝うものではあるが、同時に大事な社交場でもある。この機を逃す貴族などいるはずもなく、話し声が途切れることなどありえなかった。


「ルースミント=ウェルリンテ。貴方との婚約を破棄する。」


 こんな言葉が会場に響くまでは……


ーーーーーーーーーーーーーーー

 


 挨拶にくる人々を軽い会釈だけで済まし、会場の中で婚約者を探す。本来ならばエスコートしなければならないのだが、これからすることの為にできなかった。


 ようやく姿を捉える。丁度彼女も私のことに気づいたようで、こちらを見ると怯えたような安心したような表情が一瞬だけ見えた。


 そんな表情をする彼女に、これからすることに対して多大なる不安を感じるに違いない彼女に、本当に申し訳ないと思いながら言った。


「ルースミント=ウェルリンテ。貴方との婚約を破棄する。」


 会場は水を打ったように静かになった。本当に誰も喋らず、物音一切しない死の世界のような静寂。私の婚約者は何も言わず俯いている。


「……ん……さい」


 そんな状況でさえ聞き取れないほどか細い声で彼女は何かを言った。予測するに謝罪の言葉であろう。悪いのは全て自分だというのに、彼女に謝られるのはなんとも心苦しいものであった。罵られた方がどれほど良かったことか。


「なんて言いました?聞き取れなかったんですけど?謝るのならちゃんとハッキリ謝って下さい。まあ、今更謝った所で貴方のした悪行を許すつもりはありませんが。」


 そう言ってすり寄ってくるのは忌々しい悪女、ユリシア=スカーレット。昨日一応確認をとったが、やはり虐められていたというのは全て嘘であった。ウェルリンテを傷ついた理由は全て私が悪いから勿論地獄に落ちる覚悟はできているが、その時にはこの悪女も道連れにする。


「あらあら、何か面白いことをなさっているじゃありませんか。」


 そう言って群衆の中から一人の女性の声が聞こえる。豪華なメイクに小麦のような金色の髪、真赤なドレスを身に纏っている。派手というほど下品なものではなく、覇王の風格を感じさせるものがある。そして、この女性の名前はスクルビア=ルイライン。公爵家の女領主であり、ウェルリンテの叔母にあたる人。


「思った通りにいくとは珍しいわね。」


「……?」


「いいえ、なんでもないですわ。こちらの話です。それより第一王子カイルス殿下、失礼ですがどういった理由で婚約破棄をなされたのでしょうか?殿下程の聡明な方なのですから余程の理由があってのことなのでしょう。」


 射殺さんばかりの眼光でこちらを睨みつけてくる。15年前に流行りの病で亡くなったウェルリンテの両親の代わりに、親としてウェルリンテを育ててきた為自分の子供のように愛して下さっている、とかつてウェルリンテに聞いたことを思い出して、新ためてその通りだなと頷く。


「真実の愛を見つけたのです。」


「……ほう、真実の……愛、ですか。」


「ええ」


 彼と考えた通りに台本が進み、手筈通りのセリフを吐く。いい歳にもなってこんなことを言うのはとても恥ずかしいことではあるのだが、この方法が1番確実で安全。それに折角の卒業式を台無しにしてしまうのだから、ここの人達には笑い話の一つや二つ手土産に上げた方が良い。


「では、その真実の愛とやらをスカーレット嬢との間に育む為、我が愛しのウェルリンテはこのような大衆の前で恥をかかされた、と」


「いえ、元々は婚約破棄の件は穏便に済ませるつもりだったのですが、ウェルリンテがスカーレットを虐めていたと聞きましたので、その悪行を日の下に露わにする所存です。」


 言い終わった瞬間、まるで空気の全てが刃に変わって自分を殺さんばかりの殺気が辺りを立ち込めた。その殺気の元はスクルビア=ルイライン。貴族随一の魔力量を誇る彼女は、比喩では無く周りの空気が凍てつく程に魔力を漏らしていた。


「それは違います!殿下、私が貴方様の隣に立つには余りに無相応であることは重々承知しております。ですので、婚約破棄については承諾します。しかし、その虐めていたというのは全くの嘘偽りでございます。」


 ウェルリンテがそう必死になってこちらに言ってくるのを見て、更に心が痛む。私が貴方の隣に立つのが全くもって無相応だと言うのに。


「ふー、落ち着け落ち着け……それでは殿下、それなりの証拠があると言う訳ですわね?ウェルリンテを虐めていたという決定的な証拠を。この通りウェルリンテ本人は否定していますが。」


「スカーレット本人が虐められたというのが何よりの証拠だとは思うのだが、それでは納得もでき無いだろう。証拠は持ってきた。」


 ルイライン女公爵がフッと笑うのが見えた。彼女は自分の暗部を使い、私の証拠に対する反論を予め用意してある。この「私の為のざまぁ」と同じ展開になることは私も知っていたし、元々このまま「ざまぁ」されるつもりであった。


 しかし、偶然にももう1人排除されなければならない人物が出てきた。そこで彼、私の無二の親友であり協力者であるベージスト=デルハイムと一緒に策を練り、その計画通りにことを進めている。


「まず、ウェルリンテが池に突き落とした件についてだが……」


「お待ち下さい、私はそのようなことは断じてしておりません。」


 その先も何か言おうとして口を開きかけたところでルイライン女公爵に止められた。そして、何か耳元で呟いたかと思うとそのまま項垂れて後ろに下がっていった。


「突き落とした件について、どうしたんですか?殿下?」


「ああ、その突き落とした件についてだが見たという証人がいる。こちらに来い。」


 おどおどとした調子で上がってきたか弱い令嬢。最初にスカーレットが私の知らぬ内に金と私の権力をチラつかせて買収した。その後ルイライン女公爵が暗部を使って彼女のことを知り、更なる金とその令嬢の家の保護を約束してこの場で真実を話すよう指示した。だから、先程ルイライン女公爵は笑ったのだ。


「私は見ました。1週間前の昼、ウェルリンテ様がスカーレット様を池に突き落とすところを。」


「なっ……」


 しかし、ルイライン女公爵の予想に反して彼女は嘘の証言をした。ルイライン女公爵としてはこの令嬢に対する説得は完璧だったのだろう。何しろ、経済の援助を約束したのだから。農産業、工業品共にこの国でトップの生産を誇るスクルビア家の援助を受けることができるというのは王家と縁者になる、否それ以上のことであるのだから。


「聞きましたでしょうか。やはり、虐められていたのは事実であるのです」


 そう言って、チラッとある2人に目をやる。1人はウェルリンテ。一瞬だけ顔を上げたかと思えば、この世の絶望を一身に受けたかのような顔をして再び項垂れた。彼女の若々しい肌が青白くなる様子は見ていて酷く辛い。


 そしてもう1人。少し離れたところからこの場を見ている男、ガイルナ=ヘルマイド。伯爵家である彼は、この場の誰かの知り合いというわけではなく無関係そうに見えるが、何を隠そう彼は隣国レンラオル国の工作員つまりスパイだったのだ。


 彼がスパイだと分かったのは本当に偶然だった。昨日、あの本を読んだ後私は直ぐにベージスト=デルハイムに手紙を送った。白神鳥を使って、転移石と共に。


 白神鳥とは、王家のものが緊急の連絡の際に使う手段。死んでしまったら国民全員が20年ただ働きしても返せない程に高価な鳥ではあるので普段は全く使われず、厳重に保管されているがツテで使った。速さは随一で、王都から早馬で走らせても2日かかるベージスト領まで2時間で行くことができる。


 そして転移石とはその名の通り転移する為の石ではあるが、これは転移石のある場所から王都にしか飛ぶことは出来ない。こちらも大変貴重で国庫に保管されているところをツテで貰った。そして、その時にデルハイムだけでなく彼の暗部を数人連れてきた。


 ベージスト領の暗部というのは、王家のようなどんな厳重な守りのところからでも情報を持ってきて、時には暗殺するこの国随一の諜報技術を誇る。


 そして昨日虐めた真偽を確かめるべく動いてもらった所、虐めていたのは嘘だという証拠を抹消していた人物を捉えた。それがガイルナ=ヘルマイドが雇った暗部であることが分かり、その過程で彼がスパイであることも分かった。


 では何故虐めていたのが嘘という情報を手に入れており、更にそれを抹消しようとしたのか。捉えた人物は直ぐに自害した故に真実は分からないが、推測するに、元々はこの場でスカーレットの虐めていたというのが嘘である証拠を突きつけ私を失脚させると同時に信用を勝ち取り、比較的操りやすい第二王子を王にし信用を元に高官に就き陰ながら支配する。そしてレンラオル国の思い通りにこの国を動かそうとした。


 しかし、私があまり賢く無いのではと思い始め逆に証拠を揉み消すことで私に恩を売り陰ながら支配しようという方針に変えた。もし、仮に第二王子を支配しても力をもつ公爵家に阻まれてしまうかもしれない。しかし、私と同じ本「私の為のざまぁ」を読んだことで公爵家の力も弱めることが出来ると思ったのだ。


 現に、虐めていたという事実が本当のことになるとウェルリンテの叔母であるスクルビア=ルイラインに対する評価は落ち、スクルビア家に対する評判も落ちる。彼が思い描いた通りになった。


「……どうしましたか?罪を認める気になりましたか?」


「信じて……さい、本当に本当にそのようなことはしておりません。」


 思わず、全ての真実を叫びたくなった。本当は悪いのは全部私である、と。虐めたなどというのは真っ赤な嘘でこの悪女の戯言である、と。証拠が出てこないのはスパイの仕業である、と。


 しかしこの真実を言ってしまえば、心やさしいウェルリンテは私を許すだろう。そんなことがあってはいけない。一度道を外してしまった以上、それ相応の報いを受けなければならない。その為に、この私の為の「ざまぁ」は親友の手によって行われる。


「お待ち下さい。本当にその貴方様は見たのでしょうか?私の記憶の限りであると、その時間にはお茶会に出席になられていたようですが。」


 群衆の中から声がした。私の友であり、断罪者であり、救世主であるベージスト=デルハイム。群衆からは大きなざわめき声が聞こえた。何しろ彼は私と喧嘩別れして自領に帰ったとされているのだから。


「こちらが証拠です。私の暗部が撮ったものです。」


 記録用の水晶に時刻と彼女がお茶会をしている様子が映っている。ベージスト家の暗部というのは先程言った通りこの国1番で、信用がある。そして、何故そんなものがあるのか。それは、彼女の家が元々目をつけられる様な家だったから。


 元々おどおどして顔色が青白かったが、それすら通りこして今にも倒れそうである。


「あ、あのっ…….それ、は……」


 唇をガクガク震えて喋れないところにデルハイムが近づいて耳元で何か呟いた。多分、身の保証か何かを約束する的なことを言っているのだろう。みるみる内に彼女の顔は崩れていき、遂に泣いてしまった。


「うう……本当に、ごめんなさい。本当は見ていません……ぐすん。最初はスカーレット様にお金を渡されて、更に王家の権力までちらつかされて嫌々証言する様に言われて、けどその直ぐ後ルイライン様が家の保証はして下さる代わりに本当のことを言って欲しいと言われたんでそのつもりだったんです。」


 そこまで言ってから、しばらくしゃっくりが止まらず喋らなかった。収まった後も話すことを躊躇していた様だが、デルハイムが頷いたことで意を決した様子で話し出した。


「だから、言おうと思っていたんですけど……その、ガイルナ家のヘルマイドさんからこの家の秘密をバラすと言われて,その秘密というのが……私の家、ハルセンタ家は麻薬の密売をしているんです。」


 会場が騒然とする。売ることが禁止されている物というのは多々あるが、その中でも麻薬というのは最も取り締まりが厳しい。麻薬を売った場合は紙幣の偽造と同じく死刑と決まっている。それを知っていたヘルマイドはそこにつけ込んだ。


「おやおやここでガイルナ家が出て来ますか。貴方にもスパイ容疑がかかっているんですよ……衛兵、捉えなさい。そして今回の婚約破棄に関しては名誉毀損など私独断では決めかねないことが多々ありますので、殿下、スカーレット嬢も一度身柄を確保し、後日陛下にお伺い申し上げます。殿下、よろしいですね?」


「はぁ?駄目に決まって……」


「分かった。」


「えっ?ちょっと、待ってそんな……」


 スカーレットもヘルマイドも必死に抗っていたが、結局縄にかけられて連れていかれる。私は特に抵抗する理由などないのでそのまま大人しく従った。会場から出る時に、最後になるかもしれないウェルリンテの姿を見ようと視線を向けると丁度目が合った。


「……」


 口パクで何かを伝えようとしてきたが、分からなかった。 

   



 


「ルイト=ユースヘント=カイルス、其方は王族籍からの追放並びに国外追放。ユリシア=スカーレット、其方は貴族籍の剥奪並びに炭鉱死ぬまで働いて貰う。文句はあるまいな。」


「……」


「はい、寛大な措置ありがとうございます。」


 スカーレットは現実を受け入れられず、蒼白とした顔で虚空を見上げていた。私としては全て思い通りに進んだので悔いは無い。国外追放はというのはそこら辺の道端に食料ひとつ無く放り出されるので、獣に殺されるか盗賊に身包みを剥がされて死ぬか。一日として生きられないだろう。


 馬車に揺られて1週間、遂に馬車が止まりそのまま放り出される。何もすることが無いままボーとただ死ぬ時を待ち寝転ん待ち続けるだけの時間


(もう終わりか……儚いものだな)


 3日経ち、意識が朦朧とし視界すらまともに見えない。つい1週間前まではあんなものに熱中していたというのに。


 意識が遂に途切れるという寸前、背後に気配を感じた。どこかの盗賊であれ獣であれ今は避ける気などさらさら無い。死ぬ時間が数秒早まるだけである。


 突如、夜が訪れた


 それも絶望の様な夜ではなく、思わず歌を歌いたくなるような心地よい夜。


「信じてましたから」



<おまけ>(てきとうです。全然読まなくていいです。)


「毎度あり」


「は〜」


 無くなった千円札の感触を手に残して店を去る。あんなにも単行本が高いとは思っても見なかった。


「折角だし続きから読むか。」


 魔王討伐の為、途中で終わった上に異世界に置いて来てしまったから読めていないのだ。

 

 公園のベンチに座り読む。しかし、異世界での生活からこちらに戻ってきて慣れてないせいもあったのか、うたた寝をしてしまった。


「……の……あの」


「は、はい!」


 声をかけられて、ようやく寝ていたことの気づく。


「これ、落ちていましたよ。」


「あ、はい。ありがとうございます。」


 寝ぼけ眼で、視界がぼんやりとしており拾ってくれた人の顔が見えなかったが声で女性だと分かった。


「ええと、もしかして……この本お好きだったりしますか?」


「え、はい。まぁ……」


 目の前にいたのは良く散歩の時に見かける美人さんだった。


「本当ですか!私もです。知っている人が少なくて共有できる相手がいなかったんですよ。これってよくある物と違って……」


 そのままこの本の話で盛り上がり、遂に連絡先まで交換できた。


「ではまた今度お話しましょう!」


 そう言って手を振ってそれぞれの家路についた。赤く暖かい夕陽がだけが見る中俺は叫ぶ。何に対してかは分からない。単行本を買ってこいと言った友人か、それとも俺を召喚した異世界の人達にか。はたまた、運命の神か




『千円分()これでいいでしょ?勇者様』

 

おまけの部分をもう少し書きたかったのですが、時間の関係上できず申し訳ありません。

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