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視界に映る一面が、銀世界だった。
空は漆黒に染まっていて、淡い光を放つ灯籠が並び、木々や花や、道の上に積もるまっさらな白銀を浮かび上がらせていた。
「……綺麗だね」
「うん」
僕の隣を歩くのは、レンだ。
汚れていない雪の上を、僕たちは辿り着く場所も分からないままに歩いた。
この先には、何があるのか。それはまるで、僕の行く先を現しているようだった。
レンが屋敷を出て行ったあと、僕は一体どうなってしまうんだろう。
レンと一緒に居られる制限時間は着々と近付いていて、近頃僕はそんなことをよく考える。
「リト、手繋いでもいい?」
僕を見上げてそう言ったレンの表情は暗くてよく分からなかったけれど、でも暗闇の中でも、きらりと黄金色の瞳だけは光って見えた。
僕はレンの手袋をつけていない剥き出しの小さな掌を握り締めた。冷たいかと思われたレンの掌は、ほんのりと温かった。
「……あーあ、もう直ぐ一人暮らしかー」
レンが僕の手を握り返して、眺めるように自分の目の高さまで上げた。
ユコおばさんがまだオンク国へと行く前に、レンはおばさんと一緒に住む家を決めていた。
僕はまだ行ったことはないけれど、汽車に数駅乗ったところにあるというその家は警備も万全なのだという。
「寂しいなー」
僕のゴツゴツとした武骨な手とはまるで違う、細くて華奢なレンの指に、僕は自分の指を絡ませた。
「僕なんて、勉強もしながら働くんだよ。それと比べれば、レンは勉強だけなんだからいいじゃないか」
「それはそうだけど…。でも今までずっと一緒に居たんだもん、やっぱり寂しいよ。リトは寂しくないの?」
僕だって寂しいよ、そう言うのが正解なのか、それともそんな事ないよと言うのが正しいことなのか、僕にはさっぱり分からなくて、何も言葉に出来なかった。
僕とレンの吐く白い息が、ふたりを曖昧に包む。
「…会社の女の人たち、綺麗な人が多かったね」
シバさんに書類を渡したあと、僕とレンは工場にも顔を出した。次期社長として、挨拶してこいとアルおじさんに言われていたからだ。
工場で働いている社員たちは、女性も多かったし、若い年齢の人も多かった。
社長の養子である僕たちのことが気になるようで、みんな作業する手が止まるものだからシバさんに叱られていたのを思い出す。
「そうだったっけ」
僕は、自分が彼女たちの顔をあまり覚えていないことに苦笑する。僕にとって、レン以外の女性なんてみんな同じだ。
「あの中の誰かと、リトが付き合ったりするのかな…」
「……」
レンが時折見せるその感情はきっと、双子の兄でもある僕に対する独占欲なのだろうと思う。
僕がレンに向ける、歪んだものとは違う。
それなのに、レンがこの先もずっと僕にだけ執着していればいいのに、なんて密かに考えて、僕は自分の醜さに吐き気がした。
レンにだって、僕ではない誰かと一緒に生きていく未来があるのに。
「レンだってそうでしょ。大学に行っても、きっと誰かに告白されるよ」
「…私、誰かと付き合える気がしない」
僕たちが歩き続けた先には凍っていない小さな湖が広がっていて、周りをぐるりと囲うように灯籠が置かれていた。凪いだ湖面には、揺れる灯りが映り込んでいる。
「試しでもいいから、付き合ってみたら?一緒にいるうちに好きになれるかもしれないよ」
誰にも言えない真っ黒に染まった自分の想いを隠してそう言えば、レンは酷く傷付いたような顔をして僕を見上げた。
「……そうだよね」
レンのそんな表情を見たのは久しぶりで、僕の心は激しく揺れる。
何かを間違えただろうか、小さく震えるようなレンの声に、僕の方が泣きそうになった。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
僕はどうしたらいいのか分からなくて、ただただ、絡ませたレンの手をぎゅっと強く握り締めた。




