タイトルホルダーの正体
ノエラ先生は破壊された人造オーガの手をなんとかくっつけようとしていたけど、諦めたようだ。
「はーい、それじゃあ待機室へ移動しますよ。チームナンバー1、開始より23分31秒で試験をクリア。今期の入学試験では合格に1番乗りです。そしてこれは歴代2位の記録でもあります」
僕らは自分たちの出来に喜んだけど、同時に少し悔しくもあった。
どうせなら1位をとってみたかった。
アネットも僕と同じだったようでノエラ先生に質問している。
「歴代1位の人ってどれくらいで試験をクリアしているんですか?」
「それがねぇ、なんとその人は5分で合格の鍵を取ってしまったそうよ」
5分!?
あり得ないほど早すぎるぞ。
「いったいどうやって?」
「その受験生は扉の先にあった転送ポータルを自分で勝手に改造して、ゴールの部屋へ直結させてしまったの」
そ、そんな裏技を!?
ずるいとは思うけど、じゃあ真似ができるかと問われれば、悔しいけど僕には無理だ。
わずか数分でポータルを改造するなんて、魔法の知識や錬金術の腕前が天才的に優れていなければできないことだ。
「先生、その人はどんな人なんですか?」
アネットが重ねて聞いている。
「魔法学において数々の業績を残した人よ。のちに宮廷魔術師になるほどだから、よほどの天才だったのでしょうね。ただ、かなりの変人ですぐにやめてしまったようだけど。名前はラッセル・バウマンよ」
「ラッセルが!?」「パパが!?」
僕とアネットは同時に叫んでいた。
……え?
今、とんでもない発言が聞こえてきたような気がするんだけど……。
僕とアネットは驚愕に目を見開き、お互いの顔を見つめ合う。
「ロウリー、貴方、パパの知り合いなの?」
「まさかそんな、あの師匠が結婚していたなんて? しかも娘さんまでいるの?」
「「えーーーーーっ!?」」
僕らはまた同時に叫んでいた。
控室へ移動した僕とアネットは教室の隅でひそひそと会話をしていた。
「ロウリーがパパの弟子だったなんて……」
「魔物に襲われていたところを助けられたんだ。両親は殺されてしまい、身寄りがなくなった僕を引き取って育ててくれたのが君のお父さんなんだよ」
「にわかには信じられない話よ。あのパパが子どもを育てた? ジャイアントフロッグのオタマジャクシも育てられなかったのに。壊滅的にだらしがなくて、破壊的にいい加減なあのパパが!?」
「いや、その評価はあっているとおもうけど、君のお父さんだろう? ちょっと酷すぎないかい?」
「お母さまがパパを家から追い出して、もう長いこと会っていないわよ。それなのに実の娘を放り出して弟子を育てていたなんて……」
アネットにもいろいろと思うところがあるようだ。
しかし驚いた。
あのラッセルが結婚できたの?
しかも子どもまで作っていたなんて……。
いや、それ以上に驚きなのは、親子なのに全然似ていないことだ。
かたや詐欺師、かたや天使の顔をしている……。
「それで、パパはいまどこに住んでいるの?」
「ロメア地方の山間部にあるラマダって村だよ。でも、どうしてラッセルは追い出されたの?」
必要な鉱石が採れるからラマダ村に来たとは言っていたけど。
「何も聞いていないの?」
「さっきまで結婚していたことはおろか、子どもがいることも知らなかったよ。5年間一緒に暮らしたけど、そんな話題は一回も出てこなかったんだ」
「呆れた……パパはもう私のことなんか忘れちゃったって言うの!?」
アネットは怒ったように机を叩いた。
「そんなことはないと思う。普段から自分勝手で、スケベで、だらしのない人だけど、あれで優しいところもある。ラッセルが君のことを忘れたなんて思えないよ」
「あ、貴方もけっこう口が悪いわね……」
「あ、ごめん」
アネットにとってラッセルは父親だ。
少々言い過ぎてしまったか。
でも、アネットは懐かしそうに微笑んだ。
「パパは入り婿だったんだけど、さる王族と喧嘩をしてしまったの。それでライアット家は取り潰しになりそうになってしまったのよ。お母様はパパを家から追い出すしかなくなって……」
「喧嘩の原因は?」
「通りを歩いていた王族が野良猫を戯たわむれに蹴ったそうよ。それを見たパパが激怒してその王族をネズミに変えてしまったんだって。しかも、蹴られた猫に治癒魔法を施ほどこして、ネズミを追いかけさせるなんてことまでしたみたい」
いかにもラッセルらしい。
でも、もう少し器用に生きてもいいのに、とも思ってしまう。
そうすれば家族と離れることもなかったのにな……。
「パパは数分で呪いを解いたらしいけど、その王族はパパを許さなかったわ」
結果としてラッセルは職を追われ、奥さんとは離婚が成立してしまったわけだ。
「お父さんのことを恨んでる?」
アネットはしばらく無言で僕を見つめてきた。
「そう思った時期もあったけど、どんなに頑張っても私はパパのことを嫌いになれなかったわ。楽しかったことしか思い出せないの」
そういった、アネットの瞳は少しだけうるんでいた。
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