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冒険部

「やあ君たち! 新入生かい?」


 赤い髪をした先輩が気さくに声をかけてきてくれた。

姉御肌あねごはだっていうのかな? 

とっつきやすい印象ではある。


「そうですけど、ここは……用具室ですよね? さっき部室とかなんとか……」

「ふふふ、用具室とは世を忍ぶ仮の姿、その実態はカンタベル学院冒険部の部室なのだ!」


 腰に手を当てた赤髪の先輩がテンションも高く叫び出した。


「部員が二人しかいないから部室は取り上げられちゃったの。緊急避難的にここを使っているだけよ」


それに対して銀髪の先輩は落ち着いている。


「ここにいるということは、君たちは入部希望者なんだろう?」


 赤髪の先輩がはしゃぎながら訊いてくるけど、状況が複雑でうまく説明できない。


「それはその……」

「あーーーっ! さては女の子を連れ込んでエッチなことをしようとしていた!?」


 言いよどんでいたら、とんでもないいいがかりをつけられたぞ。

女の子とまともに話すこともできない僕に、そんな大それたことができるわけない。

なんとか説明しようと思ったのだけど、軽いパニックになってしまった。


「そ、そんなことしません! ぼ、僕は常々紳士であろうと心がけているわけでして……」

「そうです。ロウリー君は私たちが虐められていたのを助けてくれたんです」

「アスター君は悪くありません。自分に降りかかる危険をかえりみずに助けてくれたんですから!」


 うまく説明できない僕に代わって、ララベルとルルベルが誤解を解いてくれた。


「本当か? スカートの中に手を入れられたりしてないだろうな!?」


 先輩はパットン姉妹に確認した。


「本当です。ロウリー君がそんなことするはずありません!」


 ルルベルもうんうんと大きく頷いている。

よかった、彼女たちとはちゃんと友だちになれているようだ。


「そうか、疑って悪かったな。たまに不埒ふらちな奴がいるんだ」

「不埒な奴?」

「ああ、ここをただの用具室と間違えてイチャついてやがるんだよ。奥で昼寝をしているときでも、キスなんてしょっちゅうだし、服を脱ぎかけてたこともあったんだぜ。まあ、私がどやしつけて追い払ったけど」

「入部します!!!!!!!!!!」


 必要以上に溌剌はつらつとした声で叫んだのはタオだった。

その場にいた全員があまりのことにびっくりしてしまう。


「おっ? おう! そうか、そうか。やる気のある人材は大歓迎だぞ。君、名前は?」

「1年A組、タオ・リングイムであります!!」

「A組ということは特待生クラスじゃないか。私は部長のレノア・エレノイア、三年生だ。あっちは副部長のシャロン・ギアス、よろしくな。今入部届を持ってくるから待っていてくれ」


 先輩たちが書類を取りに奥へいった隙に、僕はタオの脇腹をつついてささやいた。


「どういうつもりだ? 詳しい説明も聞かずに入部なんて」

「大丈夫だ、問題ない。こんな素晴らしい先輩がいて、こんな素晴らしい部室があるんだぞ!」


 タオは興奮を隠しきれないようで、満面の笑みを漏らしている。


「おまっ! まさか、人のエッチを覗くために?」

「理由はそれだけじゃないさ。俺の忠誠はおっぱいとお尻に捧げると決めているんだ。ここにはそれが二つともそろっている」


 なんて短絡的たんらくてきな思考をしているんだろう。

ある意味においてタオは純粋なのかもしれない。

あ、先輩たちが戻ってきた。


「みんなも入部でいいのかな?」


 レノア先輩は嬉しそうに僕らへ入部届を配ろうとする。

だけど、僕はまだ決めたわけじゃない。


「説明を聞いてからでもいいですか? 活動内容を先にお聞きしたいです。それに僕は地方から出てきていて、自由になるお金はあまりありません」

「それなら心配はいらない。我が部は入部費用や活動費は一切かからないんだ。それどころかお宝を見つけて小遣いまで稼げるんだぞ!」

「本当ですか?」


 だったら僕の境遇きょうぐうにぴったりのクラブじゃないか!


「本当だとも。さあ、君も入部届を書くといい」


 レノア先輩は強引にペンと紙を押し付けてくる。


「こら、待ちなさい、レノア。活動の説明が先でしょう」


 シャロン先輩が先走るレノア先輩をいさめた。


「ごめんなさい。レノアはせっかちなのよ。冒険部の活動内容については私から説明するわね」


 シャロン先輩はメガネをクイッと持ち上げて髪をかき上げる。

そういう姿の一つ一つが絵になる人だ。

長い銀髪が凛々(りり)しさを引き立てている。


「まずは簡単な概要だけど、冒険部は読んで字の如く、冒険を楽しむことが主目的のクラブです。ベルン山脈、ニグラダ平原、ルアーム迷宮が主な活動場所ね」


 いずれも王都カンタベルからはずいぶん離れた場所である。


「こういったところに出向いて希少素材を探したり、古代文明の研究をしたりしているわ」


 心惹かれる話ではあるが、学生にとってはかなり危険な活動ともいえる。

いま話に上がった三箇所は、いずれも強力な魔物の存在が確認されているからだ。


「あの……」


 ララベルがおずおずと手を挙げて質問した。


「先ほどレノア先輩からお小遣いを稼げると聞いたのですが、それは手に入れた希少素材を売るってことですか?」

「その通りよ。金属、魔結晶、買い取り素材、高級食材、出土品なんかが私たちのターゲットね。稀に冒険者ギルドから直接依頼が来るなんてこともあるわ」

「すごい……。だいたいどれくらい稼げるのですか?」


 ララベルはちゃっかり具体的な数字を聞いている。


「そうねえ……。長く活動できるのは週末や休暇中だけだからざっくりとした数字になるけど、平均すれば月に5万クラウン以上は稼げるんじゃないかしら」

「そんなに!?」


 労働者の平均月収が13〜15万クラウンということを考えれば破格のお小遣いと言える。


「ルルベル、それだけあれば我が家の家計は大助かりよ」

「うん……、そうだけど……」


 心が揺れているルルベルを見て、シャロン先輩がさらに畳み掛けてきた。


「今言ったのはあくまでも平均よ。中には一攫千金いっかくせんきんを果たした卒業生もいるらしいわ。その人は億万長者になったんですって」

「億万長者! そうなったらお父さんとお母さんに楽をさせてあげられるんだろうな……」


 パットン姉妹は今やうっとりとした顔でうなずき合っていた。

僕だって余裕がないから、収入は喉から手が出るほど欲しい。

だけど、世の中はうまい話ばかりじゃないのだ。

ラッセルも言っていた、『女は俺より嘘をつく』と。


「質問していいですか?」


 僕は勇気を出して先輩たちに話しかけた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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