危険域
「だ、大丈夫でしたか? その……お怪我とかは?」
紳士的な態度で友だちになろうと思ったんだけど、汗をかきながら口ごもる僕は挙動不審だった。
女の子をまえにするとこれだ、ああ、恥ずかしい……。
パットンさんたちも不思議そうに僕を見ているぞ。
「ロウリー・アスター君だったよね? 同じクラスの」
青い髪の女の子が声をかけてきた。
「あ、はい、そうです」
「私はララベル・パットン。おかげで助かったよ」
「いえ、そんな……」
え? なにこの差し出された手は?
握手しろってこと?
そんな……女の子の手を握るだなんて、恥ずかしすぎるんだけど!
本当に握ってもいいのか?
でも、無視するのだって失礼だよな……。
ノロノロと持ち上げた手を、ララベルは少し強引に握ってきた。
手の温もりがじんわりと伝わってきて僕の脳が痺れていく。
「本当にどうしようかと思っていたんだ。さすがに10人を相手にするのはキツいからね。こっちは妹のルルベルよ。ほら、ルルベルもお礼を言って」
ララベルに促されて、ルルベルも一歩前に出る。
「ルルベル・パットンです。あの、その……ありがとうございました……」
「そんなたいしたこと……」
なんとなくわかる。
この子は僕と同類だ。
短い言葉を交わした後は、二人ともなにを喋ったらいいのか分からなくなって口籠ってしまった。
「もう、せっかく友達になれたんだからあいさつくらいきちんとしようよ。ほら、握手、握手」
ララベルが僕たちの手をとって強引に握らせる。
「いっ!?」
「あっ!?」
僕とルルベルは手を握ったまま、感電したみたいに動けなくなってしまった。
沈黙したまま1秒、2秒と時が進んでいく。
「この裏切り者が!」
大きな声に振り向くと、ドアのところで覆面をしたタオがこちらを睨んでいた。
僕は慌ててルルベルから手を離す。
「裏切り者ってなんなんだよ」
「フンっ! せっかく助けにきたというのに女の子といちゃついているなんて最低だぞ。童貞の誓いを忘れたかっ!?」
「なんだそれ?」
「我ら生まれた日は違えど、捨てる日は同じ日にというあれだ」
「いや、そんな誓いは立てたことないから」
すごく緊張していたから、見知ったタオが来てくれて本当に助かった。
なんだかんだ言って、タオも救出を手伝おうとしてくれていたんだな。
正体がばれないように覆面をしているところがタオらしい。
僕はタオをパットン姉妹に紹介した。
「でも、どうやって僕たちを救出するつもりだったんだい?」
タオは懐から筒状の物体を取り出した。
「俺のオリジナルマジックアイテム、その名もスタングレネードだ」
「ほう、それにはどういう効果が?」
「こいつは光魔法と風魔法、そして爆裂魔法が絶妙に調合されている。狭い室内に投げ込めば閃光で一時的な目の眩み、爆発音による難聴、物事の認識力を著しく低下させる働きがあるのだ」
「おいおい、部屋の中には僕やパットンさんたちもいたんだぞ」
「安心しろ、これは非致死性の武器だ。奴らを拘束したら、みんなは介抱する予定だったさ。それにロウリーなら平気だっただろう?」
まあ、爆音は身体防御が、閃光はオートシールドが防いでくれたとは思う。
「どうせあいつらはまた変なちょっかいをかけてくるはずだ。それは次回につかうとしようぜ」
「だな。だったらカラシを調合した、より強力な新作を用意しておくよ」
「しかし、次から次へといろんなものが出てくるなぁ。そのローブの下はどうなっているんだい?」
「そりゃあ、男の子の秘密ってやつさ。覗いちゃダメよ♡」
僕とタオがバカな会話をしている間、パットン姉妹は面白そうに聞いていた。
「さて、こんなところにいても仕方ないわね。私たちはクラブを探していたの。ロウリー君たちもそうでしょう? よかったら一緒に行かない?」
ララベルに誘われた!?
でも、女の子と一緒に長時間過ごすの?
会話が続くか心配だよ……?
どうしていいか分からずに、僕は固まってしまう。
「あ、邪魔だった?」
「そんなことないさ!」
思考が停止しかけた僕の代わりに、タオが受け答えてくれた。
そうだ、僕も頑張って友だちを作らなきゃ。
楽しい学園生活を過ごすためにも、塔を成長させるためにも、あがり症を克服しないといけないんだ。
「タオ君はどんなクラブに入る予定なの」
「まだ全然決めてないけど、魔法薬学が活かせるクラブがいいなあ」
「ロウリー君は?」
「ぼ、僕もまだ決めていないんだ。どこも活動費が高くて……」
そういうとララベルもウンウンと頷いた。
「わかるわ。うちは下町で食堂をやっている庶民だから、余裕がないんだよね。それなのに部費用と活動費が高くて」
「そうだよね。頭が痛いよ」
パットン姉妹も僕と同じ悩みを抱えているようで、少し親近感が湧いた。
不意に、外から人の声が響いてきた。
エラッソたちが仲間を連れて戻ってきたのかと身構えたけど、どうやら違ったようだ。
聞こえてくるのはのんびりとした女性の声である。
「あれ? 見ろよ、シャロン。部室の扉が開いているぞ。入部希望者が来ているのか?」
「つまらない夢を見るのはやめないさい、レノア。誰かが掃除道具をしまって、扉を閉め忘れただけでしょう」
階段下の用具室に入ってきたのは二人の女性だった。
制服を着ているところを見ると上級生のようだ。
どちらも僕らよりずっと大人っぽい雰囲気である。
しかもかなりの美人。
僕の緊張は否が応でも高まってしまう。
「見ろ、シャロン! やっぱり私の言った通りじゃないか、新入生が私たちを待っていてくれてるぞ!」
嬉しそうな声を出したのは、赤い髪をした大柄な先輩だった。
目はキラキラとしていて元気のいい少女のようだけど、胸はノエラ先生に迫るほど大きい。
シャロンと呼ばれていた先輩もクールな印象を受ける眼鏡美人だ。
クールな雰囲気なのにヒップが大きい。
やたらと目がいってしまう。
「煩悩値166%まで上昇」
「ああ、危険域だな……」
うっかり、タオのつぶやきに同調してしまった。
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