とりあえず友だちから
正義のヒーローを気取って声をかけてみたけど、誰一人振り返るやつはいなかった。
あ、音響防壁で僕の声が聞こえないのか。
彼らは全員用具室に入ってしまい、僕は慌てて追いかける。
これはもういじめの域を超えて犯罪だぞ。
扉に鍵をかけられる前に、僕は体当たりで部屋の中に飛び込んだ。
「なっ!? 誰だ!?」
少年たちが一斉にこちらを振り返る。
「1年A組のロウリー・アスターだ。彼女たちを解放しろ」
「チッ!」
金髪の少年はいかにも面倒そうに舌打ちした。
「俺の名前はユンロン・エラッソだ。わかるだろう? ここで見たことは忘れて出ていけ」
「わかるだろうって何が? 僕にわかるのは君が犯罪行為をしているということだけだけど? とても見過ごすことはできない」
「おいおい、本当にわからないのか? 俺は八大伯爵家の一つ、エラッソ家の惣領なんだぞ」
八大伯爵家?
「いや、そんなのは知らない」
正直に告げたら、エラッソとやらは顔を赤くして怒り出した。
「八大伯爵家を知らないなんてどれだけの田舎者なんだ。言っておくが、お前やお前の家族を潰すことなんて簡単なんだぞ!」
なるほど、これが権力を笠に着るやつらか。
先ほど、猫を蹴った王族を師匠がネズミに変えたという話をアネットから聞いた。
あの時は、ラッセルももう少しスマートに生きればいいのに、と心の底では思ってしまったよ。
だけど、下種な人間をこの目で見ていると師匠の気持ちが良く分かる。
パットンさんたちだって特待生だ。
本来の力を出せば、10人相手でも渡り合えるだろう。
だけど、こんな感じで脅されて手が出せないのかもしれないな。
「どうした、自分の置かれた立場を理解したか?」
状況を整理していたら、エラッソたちは高笑いしながら僕を見下してきた。
「いいだろう、徹底的にやろうじゃないか」
「なに……?」
この手のタイプは抵抗しなければ調子に乗っていつまでもこちらをいたぶってくる。
ラッセルは奥さんやアネットを守らなければならない立場だったけど、僕に失う家族はいない。
「ユンロン、こいつは俺に任せてくれよ。最近は受験勉強ばかりでストレスが溜っていたんだ。思いっきり殴って発散させてもらうぜ」
ひときわ体の大きい少年がずいっと前に出てきた。
190センチ以上はありそうな体格だ。
「殺すなよ、あとが厄介だからな」
「わかってる。こいつを受けてみろ!」
ノタクタとした身体強化魔法をかけたそいつは、大振りのパンチを僕めがけて振り下ろしてきた。
体重が乗っている分だけパンチ力はありそうだ。
でも、こんなものは避けるまでもない。
それどころかオートシールドを出すまでもないな。
拳が僕の顔面にヒットし、生徒たちは冷酷な笑いを顔に浮かべた。
だけど、悲鳴を上げたのは殴りかかってきた奴の方だった。
「ぎゃああっ!」
奴はもんどりうって手首を押さえている。
なまじ力があるだけに骨が折れているのかもしれないな。
だけど僕の六重プロテクトは突破できなかったようだ。
破壊されたのは最初の1枚だけである。
「貴様、何をした!?」
「何も。そいつが虚弱なだけだろう?」
「ビックスが虚弱って……」
奴はグループの中では実力者だったのかもしれない。
強い奴がやられて、少年たちは動揺しているようだ。
「おいおい、ガーベルスコーピオン風情を相手に逃げ出した奴が、僕に勝てるとでも思っていたのか?」
「ひ、怯むな! 全員で同時に魔法攻撃すれば――」
エラッソの言葉が終わらないうちに、僕は拳大のストーンバレットを奴らのみぞおちにめがけて放った。
何度も言うが、魔法展開の速さには自信がある。
石弾は全弾命中し、少年たちは床に這いつくばって悶絶している。
同時攻撃に1秒もかけていない。
だいたいこいつらは油断しすぎているのだ。
「どうして僕が手を出さないと思ったの? まあ、手加減はしたよ。あとが厄介だからね」
「ウゲッ、ゴホッ……」
エラッソは床に倒れながら恨めし気に僕を見つめる。
「お、俺はエラッソ家の惣領なんだぞ!」
「それはさっき聞いたよ」
「こ、こんなことをして、ただで済むと思っているのか……?」
「逆に聞きたいけど、君こそただで済むと思っているの? 君は僕や僕の家族を潰すと言ったよね? 僕は天涯孤独な身の上だけど親代わりになってくれた大切な人はいるんだ。その人を潰すというのなら……」
「ひ、ひぃ……、待ってくれ! この通りだ、許してくれ!!」
僕が一歩前へ出ると、エラッソは膝をついて許しを請うてきた。
はらはらと涙まで見せている。
さすがに無抵抗な人間には手が出し辛い。
「こいつらを連れて早くどこかへ行け。文句があるなら受けて立つよ」
おそらく奴らはこの程度で反省なんてしないだろう。
もしかしたら、またちょっかいをかけてくるかもしれない。
だからと言って殺すわけにもいかないからなぁ……
くだらないやつらのせいで犯罪者になるのもごめんだ。
僕も貴族社会というものを少し舐めていたと思う。
もっと強くならなきゃいけないのかな? どんな悪意も弾き返せるほどに。
500年前の英雄は『塔の主人』の力で10万の魔物を退けたそうだ。
だったら僕だって塔のレベルを上げて、傲慢な貴族を撃退くらいできそうではある。
「あの、ありがとう……」
パットンさんたちが僕の方を見ていた。
(ララベル・パットンの好感度が上がりました。ポイントが10付与されます)
(ルルベル・・パットンの好感度が上がりました。ポイントが10付与されます)
え、いきなり好感度が?
と、突然すぎて緊張する。
戦闘で忘れていたけど、パットン姉妹もかなりの美少女だぞ。
青い髪で元気な方がララベルで、ピンクの髪でシャイな方がルルベルかな?
こんな狭い場所で3人きりになってしまった。
いったい、どうすればいいんだ?
いや、どうすればいいんだ、じゃない!
僕は強くならなきゃいけないんだ!!
自分と塔の成長のためには、積極的に声をかけて、もっと友人を作らなきゃいけないのだ。
こ、こ、恋人も。
いつか、告白とかして……。
うっ!
心臓が痛い!
考えただけで心臓が痛い!!
まあ焦らずに、今は友だち作りからはじめよう……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
この作品を気に入って頂けた方は、評価やブックマークをお願いします。
評価は広告の下にある★ボタンでお願いします。




