存在価値
このところ寒すぎて、外出を控えるようにしています。
まあ、もともとインドア派なので、特に何も変わっていませんが・・・
この話を読んでくださっている読者のみなさんも、体調には気を付けてください。
リキから異種族ハンターがクキの森を襲おうとしていることを聞いた夜光達。
その裏にいるのは、ビスケット病院の院長であるビスケットだと言う。
さらに、その計画にミヤも加担しているとのこと。
夜光達は、その衝撃の内容により立ち去るリキを追う気力を失ってしまった。
リキが休憩スペースから立ち去った後、夜光達はミヤの病室に向かった。
もちろん、リキの言っていることが本当なのか確かめるためだ。
「おぉ。 あなた方はミヤさんの・・・」
ミヤの病室に向かう途中、ばったり出会ったのはビスケットであった。
初対面の時と変わらない笑顔を夜光達に向ける。
しかし、リキの話を聞いたばかりの夜光達は、どこかそっけない顔を浮かべていた。
「もしかして、またミヤさんの様子を見に来てくださったのですか?」
ビスケットの問いに、スノーラは「えぇ、まあ」とだけ答える。
「先ほどはお話を中断させてしみ、申し訳ありませんでした。ミヤさんなら、もう病室に戻っていますので、またお話の続きをしていってください」
ビスケットはそれだけ言うと、「それでは、まだ診察がありますので」とその場から歩き出す
しかし、ビスケットを見かけた周りの患者達が、感謝の言葉を述べたり、治療費についてお話したいなどと言ってくる。
ビスケットは足を止め、嫌な顔せず応対する。
それからすぐに、病院内に設置されているスピーカーから『ビスケット院長、至急診察室までお越しください!』放送が流れた。
どうやら診察の時間間近になっても来ないビスケットを心配して、ナースの誰かが呼び出しの放送を流したようだ。
「すみません、みなさん。 診察があるので、またの機会にお話を聞きます」
患者達にそう言い残すと、足早に診察室へと向かった。
その姿からは、とてもクキの森を襲う計画を練っている主犯だとは思えなかった。
ミヤの病室にたどり着いた夜光達だったが、病室内から聞き覚えのある声がしたので、ドアを少し開け、外からこっそりと病室内の様子を伺うことにした夜光達。
すると、そこにいたのは、変わらず椅子に座って空をぼんやり眺めているミヤに話しかけているレイランであった。
「10年以上会っていない娘が来たのに、随分そっけないんだね」
レイランは悲しそうにそう呟く。
娘が隣にいるにも関わらず、ミヤは空を眺めてばかりで、1度もレイランと顔を合わせていないからだ。
レイラン自身も、なんとなくこの状況は予想していたので、あまりショックではなかった。
そして、次にレイランから出た言葉は、夜光達にとっても核心を突くものだった
「ねぇ、答えてよ。 どうしてビスケットと手を組んだの?」
「・・・」
「ボク、この病院に来た時、偶然ビスケットと一緒に相談室に入っていくあんたを見たんだ。
気になってドア越しに話を聞いてみたら、ビスケットがクキの森を奪う計画を立てていることを話していたよね?
しかもあんた、クキの森への侵入ルートやエルフ達の情報も全部ビスケットに話していたじゃん!」
「・・・」
「なんでそんなことしたの? 自分の故郷がなくなってしまうんだよ?」
「・・・」
「・・・やっぱり弟が・・・チップが関係してるの?」
「・・・」
レイランからの問いをことごとく無視し、ぼんやり空を眺め続けたミヤであったが・・・
「・・・あなたにはわからないわ」
それらを見上げたままではあるが、ついにミヤが口を開いた。
「わたくしにとって、あの森はもう故郷ではない。 存在する価値もないゴミよ」
口調は至っておだやかだが、その声からは、強い怒りと憎しみが宿っていることを、夜光達も感じ取っていた。
「仇討ちのつもり?」
「存在価値のない森よりも、大勢の障害者や患者を助けるための施設の方が価値があると思っただけよ」
「その結果、エルフ達が殺されても良いってこと? あそこには、あんたのご両親もいるんじゃないの?」
「わたくしにとって、大切なのはチップだけ。 その他の者のことなど興味はないわ」
その言葉に対し、レイランがこんな質問を投げかける。
「じゃあ、ボクは? ボクのこともどうでも良いって訳?」
「・・・」
しかし、ミヤはまた口を閉ざしてしまった。
それが答えなのだと、レイランは直感した。
「・・・そう。 あんたにとって、ボクはその程度の存在価値しかないんだ」
それでけを言い残すと、レイランはミヤに背を向ける。
レイランとミヤの様子を伺っていた夜光達は、慌てて向かいにある空き病室へと身を隠した。
「・・・」
病室を出たレイランは、こみ上げる悲しみをぐっと押し殺し、その場を去って行った。
その悲し気な後ろ姿を見たセリナが、病室に突撃しようとした・・・が、スノーラが腕を掴んで静止させた。
「スノーラちゃん! 何をするの!?」
「肉親であるレイランですら、あれなのです。 他人である我々が何を言っても、ミヤの気持ちは変わらないと思います」
スノーラの意見に、夜光とライカが「俺も同感」、「同じく」と賛同する。
「でも、このままじゃレイランさんが可哀そうだよ! せっかくお母さんに会えたのに!!」
スノーラの手を振り解こうとするセリナ。
それを横目に、ルドが突然その場から歩き出す。
「ちょちょちょっと、ルドちゃん! どこ行くんや?」
歩き出すルドを呼び止める笑騎の言葉で、みんなルドに注目の視線を向ける。
「ビスケット院長に話を付ける。 ビスケット院長が異種族ハンターとの契約を切れば、クキの森は襲われずに済むはずだ」
ミヤがダメな以上、ビスケット院長を止めるしか、クキの森を守る方法がないと思たルド。
だが、その単純な考え方に、ライカが呆れてこう言う。
「話を付けるってどうやって? 第一、証拠もないのに向こうが素直に認めると思ってんの?」
ライカの意見は最もであった。
今ある情報は全て聞いただけの情報。
証拠らしいものは何も持っていない。
「だからって、このままじっとなんてしてられるかよ!」
ルドはそう吐き捨てると、その場から走り去ってしまった。
「ルド! 待て!」
スノーラの呼び止めにも応じず、真っすぐ走るルド。
止む追えず、スノーラを先頭に、全員で追いかけて行った。
その後、ルドはビスケット院長との面談を受付のナースに申し出たが、夜まで診察が立て込んでいるため却下された。
ダメ元で診察が終わった後に会ってくれるようナースを通して頼んでみると、ビスケットから「わかりました」と言う返事をもらい、その時間まで病院内で時間を潰すことにした・・・
それから1時間ほど経ち、太陽が徐々に沈み始め、次第に暗くなっていく・・・
笑騎は仕事が残っているので、マナはバイトで、それぞれ病院を後にした。
残った夜光達は、休憩スペースで時間を潰しながら、ビスケット院長の空き時間を待っていた。
一方、場面は誠児とゴウマがいる『繋がりの洞窟』に場面は変わる・・・
ここは夜光と誠児が心界に来た最初の場所である。
誠児はゴウマと共に、朝から繋がりの洞窟に訪れ、元の世界に戻る手がかりを探していた・・・
「・・・誠児。 もうそろそろ日が暮れる。 今日はもうこの辺にしておこう」
辺りが暗闇に包まれるのを見て、ゴウマは繋がりの洞窟に入って調査をしている誠児に声を掛ける。
「はい。 わかりました」
誠児は調査を切り上げ、洞窟を出て、待たせている馬車にゴウマと乗り込んだ。
「すみません。 俺のわがままで連れてきてもらった上に、調査の手伝いまでしたもらって」
「気にするな。 ワシが自分でやると言ったんだ。 それに、今週は健康診断で、スタッフやメンバーは出払っているからな」
今週は健康診断で病院に移動している者や風邪などの体調不良で倒れている者が多く、ホーム内の人数は少ない。
なので、ホームはほとんど休業状態になっている。
「暑い夏から急に寒くなってきましたからね。 体調を崩すのも無理もありませんよ」
「そうだな。 とにかく、みんな元気にホームに来てくれることが一番だ」
そういったたわいない世間話をしていると、誠児がふとゴウマにこう問う。
「・・・親父。 1つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「親父は、ホームに通っている人達が職に就けると本当に思っているんですか?」
誠児のどことなく弱気な質問に、少し困惑するゴウマ。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「俺と夜光がこの世界に来て随分経ちました。 元の世界では知ることのないことも、ここではたくさん学ぶことができました。
でも、ここでは、障害者への配慮や思いやりが欠けていると思います」
心界では、夜光と誠児のいた世界よりも、障害者に対する認知が低い。
そのため、障害をただの病気だと思っている者が大半。
「それについては、ワシも同感だ。だが、ワシやお前、ホームの仲間達のように、障害を理解しようとしてくれる人もたくさんいる。 だからこそ、彼らがいつかこの世界を良くしていくために、ホームを巣立っていくのだと信じられるんだ」
「信じる・・・ですか?」
「そうだ。 実際、お前達の世界も、障害者が働くことのできる環境になっているのだろう?」
「はい・・・でもこの世界も同じになるとは限らないと思うのですが・・・」
「世界が違っていても、同じ人間社会だ。 君達の世界の人間ができていることが、この世界の人間にできないはずはない」
「・・・そうですね。 ありがとうございます。 話を聞いてくれて」
誠児の中で、1つの答えが出てきて瞬間であった。
「ふふ。 いつでも話に来い」
そこへ、馬車に設置されている電話が鳴り響いた。
「ワシが出る」
ゴウマはすぐさま、受話器を取り、耳に当てる。
「もしもし」
『おぉ。 ゴウマちゃんか? きな子や』
電話に出たにはきな子であった。
「先生、どうなされたのですか? 確か今日は健康診断のはずでは?」
『そんなんとっくに終わったわ。 それより、ついに完成したで! ”アストの新機体”が』
「本当ですか!?」
『まあ、新機体って言うでも、ほかのアストと機能が同じやからな。 ”アストの追加機体”と言った方がしっくりくるわ』
「ありがとうございます。 これで、少しは影との戦力差を埋めることができます」
『せやかて、装着者がおらんと話にならんで?』
「それについては、確保したメンバーリストをブラックドギーに頼んで、送っていますが?」
『・・・あぁ、今届いたから見とくわ。 まあ、今女神様と喧嘩しとるから、それが収まったあとやけどな』
「よろしくお願いします」
電話はそこで終わった・・・
「・・・(我々ができることは全てやり遂げる! あとは彼ら次第か・・・)」
ゴウマ達を乗せた馬車は不安を振り切るように、ホームに向かって、前進した・・・
誠児「なあ、ふと思ったんだけど」
夜光「どうした?」
誠児「マインドブレスレットって初期はマイブレって略していたのに、いつからかマインドブレスレットって名称に戻ったよな?」
夜光「そりゃあ、その方が文字数稼ぐことができるからだろ?」
誠児「せこい理由だな。 だったら、マインドコミュニケーションも略さずそのまま言えばいいんじゃ・・・」
夜光「俺達をまとめて呼ぶ際、マインドコミュニケーションメンバーよりも、マイコミメンバーの方が呼びやすいからだと。 なによりも打つのは面倒みたいだ」
誠児「楽をしたいのか、文字数を増やしたいのか、いまいちよくわからないな・・・」




